更新:2008年5月31日
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18歳成人

●初出:月刊『潮』2008年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

20歳から18歳へ

Question「一八歳成人」が検討されているそうですね。
詳しく教えてください。

Answer「成人」とは、幼い者が成長し、心身の発育段階を一応終えて、一人前になった者のこと。いわゆる「大人」のことですね。成人となる、または成人と見なされる年齢を「成年」といいます。その年齢に達していない者が「未成年」です。

 高校生でもヒゲなどたくわえて、どう見ても大人にしか見えない者がいます。中学校を卒業して一人前に働きはじめ、立派に家計を支えている者もいます。そもそも心身の発育の程度は人によって違いますから、ここまでは子ども、ここからは大人という厳密な線引きには無理があるともいえそうです。

 しかし、社会全体としては、どこかで大人と子どもを区別しなければなければなりません。

 そこで、日本では民法の第4条に「年齢二十歳をもって、成年とする。」と定めています。現行の制度では20歳が、完全な行為能力を有し、単独で法律行為を行えるようになる年齢なのです。未成年者が婚姻をしたときは成年に達したものとみなされる(民法第753条)、天皇・皇太子・皇太孫の成年は満18歳で成年となる(皇室典範第22条)など例外はありますが、日本で「成人」といえば、20歳以上の者を指すのです。

 ところが最近、成年を18歳に引き下げるべきではないかという考え方が強まってきました。

 2007年5月に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」(国民投票法)は、投票できる年齢を満18歳からと定めています。附則には、法律の施行(2010年5月)までに満18歳以上満20歳未満の者が国政選挙に参加できるようにするなど、国が公職選挙法、民法その他について検討し、必要な法制上の措置を講ずることも盛り込まれました。

 これを受けて、政府与党も検討を開始。2008年2月には法務大臣が、民法で定める成年を20歳から引き下げる是非について法制審議会に諮問し、同審議会で1年かけて議論することになったのです。

年齢引き下げの背景

Question成年(成人年齢)引き下げの理由は、
どんなことですか?

Answer成年を18歳に引き下げるべきではないかという考え方が強くなってきた理由は、大きく三つほどあります。

 第一に、日本が豊かになり、国民の栄養状態もよくなって、子どもの体格が向上しました。文部科学省「学校保健統計調査」によると、1910年の高3(17歳)の平均身長は男子159・1センチ、女子148・8センチでした。これが2005年には男子170・8センチ、女子158・0センチと10センチ前後伸びています。

 女性の生理が始まるのは、身長147〜148センチという報告が多いそうです。1910年の高1女子は147センチ、2005年の小6女子は146・9センチですから、100年近くの間に3〜4歳早まっているわけです。若者の性体験率の推移を見ても、子どもが大人になるスピードは、過去よりもはっきり増大しています。これには、社会構造の変化や情報化も大きく関係しています。大人としての身体や行動になるのが昔より早いなら、成年を引き下げようという考え方は理に適っています。

 第二に、数そのものは明らかに減少しているものの、凶悪な少年事件が盛んに報道されており、少年に対する刑罰を強化すべきという動きがあります。

 少年法の第2条には「この法律で『少年』とは、20歳に満たない者をいい、『成人』とは、満20歳以上の者をいう。」と書いてあります。19歳や18歳の者は非行や犯罪を犯しても、性格の矯正や環境の調整など保護処分を行う対象なのです。この20歳未満という規定を引き下げ、厳罰化を図ろうという考え方です。

 第三に、若者の政治的な無関心を問題視し、選挙権を18歳に引き下げて、若年層の政治参加をうながそうという動きがあります。

 黒澤明監督の映画「七人の侍」で、若い勝四郎を連れていくかどうかのとき、「子どもは大人よりも働くぞ。もっとも、大人あつかいをしてやれば、の話だが」というセリフが出てきます。現在は未成年者である19〜18歳を「大人あつかい」して権利を与え、同時に義務や責任を自覚させ、もっと社会参加をしてもらおうという考え方です。

一八歳が世界の多数派

Question現在の「成人は20歳以上」という決まりの
根拠はなんですか?

Answer何歳から成人かは、社会や時代によって異なります。日本の古代律令(奈良時代ころ)では、21〜60歳の男子を「正丁」《せいてい》と呼び、労役や物納を課しました。ただし、17〜20歳の男子を「少丁」《しょうてい》と呼び、正丁の4分の1を負担させています。

 その後、中世では15歳前後で成年の儀礼を終えた者が一人前の成人と見なされていたようです。領主への村全体の誓約書に署名できる者は15歳以上とか、一揆《いっき》(農民の武装蜂起)の参加者は15〜16歳といった記録が残っています。

 江戸時代までの農漁村では、若い男子は「若衆仲間」、女子は「娘仲間」という組織に加入し、若衆宿・娘宿と呼ばれる家で成人に必要な社会的訓練や性教育を受ける慣習がありました。祭礼や消防・治安などもこの組織が担いましたが、入るのは15歳から。武家の「元服」《げんぷく》という現在の成人式にあたる儀式も、15歳前後が多かったようです。

 明治時代に入ると、1896(明治29)年の民法で現在の20歳に決められました。これはフランス民法の規定にならったとも、古代中国の「礼記」《らいき》に「男子20なれば冠《かんむり》して字《あざな》す」とあるからだともいわれます。中国では男子20歳を「弱」といい、「弱冠」《じゃっかん》という言葉はここから来ています。

 海外に目を転じると、国立国会図書館の調べで186か国中162か国が18歳から成人としています。欧米諸国が18歳に引き下げたのは1970年前後で、背景に学生・反戦運動など若者たちの社会への異議申し立てがありました。国連が1989年に採択した「子どもの権利条約」も、第1条で「児童とは、18歳未満のすべての者をいう。」と定義しており、18歳以上は大人という考え方。20歳から成人という国は少数派で、日本、韓国、タイ、ニュージーランドなどにすぎません。

社会活性化の効果も

Question一八歳から成人となると、
社会はどんな影響を受けるでしょう?

Answer政府「年齢条項の見直しに関する検討委員会」が、年齢条項のある法律、政令、府省令を調べたら300本以上が該当しました。大規模な法改正につながることは間違いありません。具体的には、現在「20歳から」とされている次のようなことが「18歳から」となる可能性があります。

 たとえば携帯電話や消費者金融の申し込みでも、親の同意が不要になるわけです。ただし、未成年者飲酒禁止法第1条は「満20年ニ至ラサル者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス」とあるので、法改正が必要です。競馬法第28条は「競馬法未成年者は、勝馬投票券を購入し、又は譲り受けてはならない」とあるので、民法を改正するだけで足ります。

 以上のような法的側面だけでなく、若者の社会参加をうながし、社会を活性化させる効果は大きいでしょう。もっとも、いまの中学・高校教育は知識偏重・受験中心で、社会参加や社会的訓練の部分が手薄です。成人年齢引き下げの議論と同時に、若者の意識や態度を変えていく教育が必要でしょう。

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