更新:2008年8月16日
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A4判化

●初出:月刊『潮』1993年4月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

規格はA・B二つの系列

Question役所の文書に使われる紙がA判に統一される
という話をききました。どういうことですか?

Answerはい。政府は、一九九二年一一月末に開いた各省庁の事務連絡会議で、九三年四月から行政文書の用紙を原則としてA判化することを申し合わせました。わが国の紙の大きさ(紙加工仕上寸法)の規格には、「A列」と「B列」の二つの系列があります。この二つの規格の話から始めましょう。

 まずA列ですが、これは面積が一平方メートル、八四一ミリ×一一八九ミリの紙をA列0号(A0)とし、以下これを二つ折りしたものをA1、そのまた二つ折りをA2というように決め、10号まであります。それぞれの縦横の比は√2対1になっています。B列は面積が一・五平方メートル、一〇三〇ミリ×一四五六ミリの紙をB列0号(B0)とし、以下これを二つ折りしたものがB1、そのまた二つ折りがB2……というようになっています。

 A列・B列の紙が、書籍や事務用紙などに加工された場合は、それぞれ「A判」・「B判」と呼びます。たとえば「この本の判型はA5判だ」などといいます。紙の用途と使われる判型は、伝統や慣例によってだいたい定まっています。代表的なものをいくつかあげると、A判では、写真集・豪華本や電話帳がA4、書籍一般や教科書がA5(『潮』もこのサイズ)、文庫本や辞書がA6など。B判では、駅貼りの観光ポスターがB1、車内吊りポスターがB3、子供の使う画用紙がB4、週刊誌や大学ノートがB5、書籍一般や辞書がB6といった具合です。

B判は美濃紙がルーツ

Questionなぜ、二つの規格が並んで
存在しているのですか?

Answer紙の寸法を定める二つの規格は、一九二九年(昭和四年)の日本標準規格で定められ、一九四九年の日本工業規格(JIS=ジス)に引き継がれました。しかし、AB二つの規格のルーツはまったく異なります。

 まずA列(A判)は、F・W・オスワルトが考案したドイツ工業規格(DIN)をそのまま採用したもの。国際標準規格(ISO=イソ)では、やはりDINをもとにA判の系列を定めていますので、A判は紙に関するもっとも国際的、標準的な規格といえます。

 一方、B列(B判)は日本独自の規格で、和紙の美濃紙の寸法を参考に作られたといわれています。美濃紙は、美濃国──現在の岐阜県美濃市を中心とする地域で漉《す》かれた和紙。美濃国は古代から製紙の盛んな国でした。現在知られている日本最古の紙は七〇二年(大宝二年)の美濃、筑前、豊前の戸籍用紙ですが、なかでも美濃の紙の品質がもっとも優れていました。江戸時代には、美濃の紙問屋は幕府や領主の御用紙を一手に請け負っていました。

 だから美濃紙の規格が、いわば当時の公式文書の規格だったわけです。明治二二年に公布された大日本帝国憲法も美濃紙に書いてあります。B判の紙はこうした歴史を引き継いでいます。現在でも美濃判と呼ばれる用紙がありますが、これはB4より一回り大きい寸法。その倍の大きさは大奉書と呼ばれています。

Questionそれで現在の行政文書には、
日本独自のB判規格が多いのですね?

Answerええ。総務庁が九一年一月におこなった調査によると、各省庁が使う用紙はB5判が五四%、B4判が三四%、A4判が一〇%で、B系列が主流でした。東京都など地方自治体でも文書はB5判かB4判というのが普通です。この伝統や慣習は、江戸時代以前──見方によっては古代にまでさかのぼれるわけです。

国際社会や民間の主流はA4

Question行政文書をB判からA判へ変えるという動きは、
どうして出てきたのですか?

Answer最大の理由は、国際社会や民間で使われるビジネス文書でA4の用紙が主流になり、わが国の官公庁が使うB5やB4の紙が、時代遅れになってきたからです。

 私たちは週刊誌や大学ノートの寸法を当たり前に思っていますが、外国人にはこのサイズはとても中途半端な大きさにみえるようです。先の総務庁の調査によると、省庁のなかでも国際化が進んでいる外務省や通産省では、A4文書が用紙の八割程度に達していました。また、民間ではA4判の使用率が六三%でした。今後、国際化がますます進展し、文書のA4判化もいっそう進むことは確実ですから、官公庁もそれに合わせるということです。

 臨時行政改革推進審議会(第三次行革審)の「世界の中の日本」部会は、九二年五月に第三次部会報告を提出。「新たな国際秩序づくりに積極的に参画し、わが国諸制度の国際的調和と透明性の向上や、国際化に対応した国民に対する行政サービスの向上を図る」という基本的な考え方・改革の方向を示しました。そして当面の改善事項として、JISやJAS(日本農林規格)と国際規格の整合化、輸入検査手続きの簡素化、運転免許証やパスポートの取得・更新や車検手続きの簡素化などをあげています。行政文書のA判系列への転換も、こうした改善事項のひとつとして掲げられています。

 政府が決定した一九九三年四月からのA判化は、この第三次行革審答申を受けたもの。申し合わせでは、三年の移行期間を設けて、九六年にはA4判への統一を完了することになっています。東京都でも九三年の秋から三年をかけてA判化を進める予定です。

 なお、A4文書が増えてきた理由として、国際化と並んであげられるのが情報化──OA化の進展です。ワープロやパソコン、あるいは家庭用のファクシミリやコピーは、A4サイズを標準にしているものが多く、その普及がA4判化を促していることも見逃せないでしょう。

横浜では「ワンベスト運動」も

QuestionA4はB5よりも大きいから、
コストが高くつきませんか?

Answerたしかに、官庁で使う文書がB5の"一枚もの"ばかりならば、A4にすると高くつくことになります。しかし、実際にはB5の紙一枚だけという文書はあまりなく、B5が何枚かホッチキスで止められていたり、B5の表紙一枚にあとはB4だったりするのです。紙が大きければページ数は減りますから、どちらが高くつくか一概にはいえません。

 しかし、文書管理や事務効率といった側面からみると、A4文書で統一するメリットは、はっきりしています。たとえば、ファイリング(書類を分類・整理してとじ込む)システム。現在のようにB5、A4とサイズの違う書類が氾濫していると、あるファイルはB5判で別のファイルはA4判というように、違うサイズのファイルが混在しがちです。そしてファイル棚の高さを大きいほう──A4の高さに合わせると、B5のファイルの上にできる空間がムダになったりします。ファイルの大きさが違うと、検索の効率も低下します。それにB4の紙は、持ち歩いたりとじ込む際二つ折りにしなければならず、使い勝手のよいサイズではありません。こうした管理や事務の効率を考えれば、仮に紙代が多少高くつくとしても、統一するメリットのほうが明らかに大きいと思います。

Question紙ゴミが増える恐れは
ありませんか?

Answer紙ゴミについては、紙の大きさとはあまり関係がないと思います。それは、すぐにゴミ箱行きになる書類を作ってしまう人間の問題です。OA化によってオフィスから出る紙ゴミが爆発的に増えていますが、これはワンタッチで大量に書類をはき出すコピーやプリンタなどのOA機器を、オフィスでまだ本当には使いこなせていないからでしょう。

 とくに官公庁や大企業では、ひとりひとりのコスト意識がきわめて稀薄ですから、コピーの節約を徹底するのはなかなか大変です。五枚のコピーですむ書類を一〇枚コピーしても、給料に響くわけではありませんからね。それに、わが国ではいまだに報告書は厚いほうがよいという奇妙な思い込みがあります。官庁が予算消化のためシンクタンクなどに発注する報告書は、年度末という"納期"と何ページくらいという"体裁"が最大の問題で、内容は二の次であるといった話はよく聞きます。

 ですから、今回の文書サイズ統一も、ただ大きさをそろえたという話で終わっては困ります。横浜市では、四月からのB5・B4判からA4判への統一に合わせて、文章を簡潔にして要点を用紙一枚にまとめる「ワンベスト運動」に取り組むそうです。中央官庁やその他の自治体もこれにならって、いっそうの行政改革を進めてほしいものです。

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