更新:2006年9月30日
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番号ポータビリティ

●初出:月刊『潮』2003年1?月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

番号ポータビリティとは?

Questionニュースで「番号ポータビリティ」という言葉を聞きました。
これについて教えてください。

Answer番号ポータビリティの「番号」とは電話番号のこと。「ポータビリティ」はポータブルラジオなどの「ポータブル」の名詞形で「持ち運びできること」という意味。電話番号をどこに持ち運ぶかというと、次の新しい電話会社にです。番号ポータビリティは、電話会社を換えるときに、それまで使っていた電話番号が変更なしにそのまま使えることをいいます。

 日本では携帯電話の番号についていうのが普通ですが、後で説明するようにアメリカでは固定電話と携帯電話を区別せずに使っています。とくに携帯電話を指すときには、MNP(Mobile Number portability)と呼ぶこともあります。

 日本の携帯電話の利用者数は、事業者が発表した契約数で約7894万(2003年10月末現在、電気通信事業者協会による)。これにPHS(簡易型携帯電話)528万を加えると8422万契約となります。日本の総人口は1億2500万人で、小学校低学年以下の子どもや寝たきりのお年寄りなどは携帯電話を持たないでしょうから、普及は順調に進み、飽和状態にかなり近づきつつあるといえるでしょう。

 そんななか問題ではないかと指摘されているのが、電話会社が固定されがちなこと。

 携帯電話やPHSサービスをしている会社をキャリア(carrier=運ぶ者の意味。キャリアウーマンというときのcareer=職業は、別の言葉)と呼びます。携帯電話のキャリアは、NTTドコモ、au(KDDIと沖縄セルラー)、ツーカー、J−フォンの四グループ、PHSはDDIポケット、NTTドコモ、アステルの三グループ。ところが利用者が、あるキャリアから別のキャリアに乗り換えたいと思っても、なかなか踏ん切りがつかない理由の一つが、今使っている番号を新しいキャリアに引き継げないことなのです。仕事の取引先、友人、親戚、家族などに新しい番号を通知する手間がたいへん、というわけです。

 すると、ある利用者が、自分の使い方にピッタリという別のキャリアのサービスを見つけても利用できず不便です。キャリア同士が競争して新サービスを始めたり値下げ努力をしても、番号問題がネックとなって利用者が移動しないのであれば、競争原理が働きません。そこで、利用者の利便性を高め、事業者間の競争を促進するために、携帯電話で番号ポータビリティを導入しようという機運が高まってきました。

コストは千数百億円

Question番号ポータビリティについては、
どんなことが検討されているのですか?

Answer 郵政省の電気通信審議会は1996年12月に答申を出し、競争の促進及び利用者利便の増進の観点から、番号ポータビリティの実現方式や費用負担などに検討し、2000年度の早い時期に導入するよう提言しました。これに基づいて、固定電話(一般加入電話とISDN)の利用者が同一住所で事業者を変更する場合と、着信課金サービス(0120で始まるフリーダイヤルなど)の場合は、番号ポータビリティがすでに始まっています。

 その後2002年度には、携帯電話の番号ポータビリティについて、通信キャリアとメーカーの勉強会で検討が進められました。その報告書では、ポータビリティを実現する方式として、(1)転送方式、(2)IN(データベース)方式、(3)リダイレクション方式の三つをを検討。地域電話網や携帯電話網で異なる方式を組み合わせて、実現するにはどのくらいのコストがかかるか試算しました。

 それによると、番号ポータビリティを利用する人が50%の場合は約1500億〜1800億円、10%の場合は900億〜1400億円といった費用がかかると結論されました。勉強会の報告書は、携帯電話ユーザのニーズに関する調査を行うことが必要、とくに費用が利用者に転嫁されるため、具体的な費用負担のあり方の選択肢を示したうえで、どんなニーズがあるか調査することが重要と指摘しています。

 さらに総務省は2003年11月から、「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」をスタートさせました。この研究会は2004年2月をメドに報告書をまとめる見込みです。

番号ポータビリティ実現への課題

Question番号ポータビリティの実現にむけては、
どんな課題があるでしょうか?

Answerまず、コストの問題があります。具体的には電話交換機の改修や、加入者データベース(膨大な電話番号リストをコンピュータに記憶させ参照するシステム)などですが、全体で1500億円程度かかるとすれば、加入者(利用しない人も含めて)一人あたり2000円程度の負担が必要とされます。中高生などに話を聞くと携帯電話代をたいへんチマチマと節約しており、新たな費用がかかるなら電話番号が変わるほうがましとの答えが圧倒的。一方、ある程度のコストは負担してもよいという声もありますが、その過半数が手数料は1000円以下が適当と答えています。全体のニーズを把握するには慎重な調査が必要です。

 携帯キャリア最大手のNTTドコモが見込む2004年3月期の売上高は5兆円、営業利益1兆円以上、純利益6000億円以上ですから、業界全体で1500億円や2000億円のコストは、そう深刻な負担とは思えません。業界全体が活性化すると判断すれば、利用者の手数料は数百円に押さえ、残りは事業者側が負担することも十分可能でしょう。この点では、行政の積極的なイニシアティブが必要かもしれません。

 そのほか、携帯電話市場の独特な問題もあります。日本では携帯電話の販売に「インセンティブ」と呼ばれるキャリアと販売代理店の契約慣行があり、数万円するのではという機種が数千円とか、やや古い機種ならば1円とかいう価格で売られます。それでも、キャリアが背後でさまざまな報奨金を支払うので利益が出る仕組み。番号ポータビリティが実現すると、こうしたインセンティブの仕組みが変わるかもしれません。家族割引をはじめとするさまざまな割引制度も、見直される可能性が大いにあります。

 さらに、電話番号だけでなく、メールアドレスのポータビリティをどうするかを検討すべきだという声もあります。

海外でも導入が進む

Question海外では、番号ポータビリティはどのように
進展しているのですか?

Answer1997年にシンガポールで導入されたのが初めといわれ、ヨーロッパやアジア・太平洋州の一部で始まっています。たとえばフランス、ドイツ、ベルギー。香港、オーストラリアなど。

 注目すべきはアメリカで、FCC(連邦通信委員会。日本の総務省内のテレコム部局に当たるが、より独立した第三者的機関)が早くから推進していましたが、これまでキャリアの抵抗が強くなかなか進みませんでした。しかし、2003年11月24日からは番号ポータビリティの制度が大都市圏を中心に始まり、全米に拡大する見込みです。アメリカでは、携帯キャリア間だけでなく、固定電話(地域電話会社のサービス)と携帯電話の間でも番号を変えずに移行できるようにします(ただし両者のサービスエリアが異なるため、携帯の番号はそのまま使えるが、固定電話の番号は使えない場合が多く、事業会社間の不公平が残る)。

 これによってアメリカでは、携帯電話利用者の5人に1人が番号ポータビリティを利用するのではないかとすらいわれ、固定電話を止めて携帯電話に一本化する人も続出すると見られています。番号ポータビリティが世界の趨勢であることは確かで、アメリカの動向は日本の今後の状況に大きく影響しそうです。

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