更新:2008年8月6日
現代キーワードQ&A事典の表紙へ

ブロードバンド

●初出:月刊『潮』2001年7月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question「ブロードバンド」という言葉を最近
よく耳にします。どういうことですか?

Answerブロードは「幅が広い」こと、バンドは「帯域」ですから、ブロードバンドは日本語で「広帯域」となります。

 もっとも、帯域とは何か説明してもわずらわしいだけ。しかも、ブロードバンドという言葉には、厳密な定義が存在するわけではありません。ここでは簡単に、「通信に使われる言葉で、単位時間あたりにやりとりできるデータの量が大きい方式や回線のこと」と考えてください。

 ところで、パソコンを電話回線につなぐと世界中のコンピュータと通信できます。これが「インターネット」で、日本での利用者は2000万人を超えたともいわれています。回線とつなぐには、モデムという装置を介し、ダイヤルアップと呼ばれる接続方法をとるのですが、普通は56Kbps(キロビット/秒)以下のスピードで情報がやりとりされます。これは、いまお読みの市民講座の文字量ならば、1秒もかからずに送受信できるスピードです。

 しかし、絵や写真などの画像データは文字データより大きいため、何秒か、かかります。大きな画像の多いホームページを見ていると、なかなか表示されなかったりするわけです。これを俗に「データが重い」「回線が細い」などといいます。さらにCDの中身のような音楽データ、ビデオのような動画データ、複雑なソフトウエアなどは、データの量がケタ違いに大きいため、やりとりにとても時間がかかります。

 だから普通の電話回線は、車が1台しか通れない狭い道のようなもの。多くの車を通そうとすると渋滞が起こってしまいます。これに対してブロードバンドは、大量の車が同時に走れる広い高速道路のようなものと考えればよいでしょう。一般的には500Kbps以上──これまでよりざっと10倍以上容量が大きく高速な回線やネットワークを、ブロードバンドと呼ぶことが多いようです。

ブロードバンドの3方式

Question普通の電話回線では、
ブロードバンドは不可能なのですか?

Answer必ずしもそうではありません。現在ブロードバンド(を実現する方式)と考えられているものには、ADSL、CATV、光ファイバーなどがあります。

 このうちADSLは、普通のアナログ電話回線(銅線)を使います。電話で話すときは低周波数帯域しか使われていないので、空いている高周波数帯域にデータを流すのです。すると通話しながらインターネットを使うことができます。電話の加入者側と電話局側に装置を追加するだけで、比較的安くブロードバンドが実現できるメリットがあります。スピードは下り(受信)が1.5Mbps(Mはメガ=100万)前後。これまで二十数秒かかったものを1秒で受信できる計算です。

 CATV(ケーブルテレビ)は、有線テレビを見るための回線をインターネットに利用します。これは同軸ケーブルといって、もともと画像と音声を流す大容量回線ですから、比較的簡単にブロードバンドを実現できます。スピードは512Kbpsから10Mbps程度。回線を複数の加入者が共有する仕組みなので、利用者の数によってスピードは大きく変わります。

 光ファイバーは、グラスファイバー製のケーブルを新たに敷き、これに光を通して通信します。電気信号ではなく光信号を使うので、損失が小さい、容量が大きい、干渉がないといった優れた特徴があります。スピードは10Mbpsから100Mbps。最大スピードの100Mbpsなら、これまで30分かかったものが1秒で送受信できる計算です。ブロードバンドの本命は光ファイバーだという見方も強くあります。

ブロードバンドで何ができる?

Questionブロードバンドが大容量・高速であることはわかりました。
具体的には、新しく何ができるでしょう?

Answer日に何度か電子メールをやりとりし、たまにインターネットで調べものをする程度なら、そのたびに電話回線に接続すればよく、ブロードバンドにする意味はあまりありません。しかし、毎日2時間や3時間、あるいはそれ以上インターネットに接続するというなら、ブロードバンドの意味が大きくなります。

 まず、三つの方式とも(最初にかかる工事費その他は除き)月の利用料が数千円〜1万円程度に固定されており、パソコンと回線をつなぎっぱなしにする「常時接続」を前提としています。すると、新聞ならば数十種類、辞書や事典ならばざっと何百冊かが、つねに机の上に置いてあるのと同じなのです。通信社の1行情報は昼間は数分おきに更新されますから、テレビの字幕より速くニュースがわかります。

 ブロードバンドで動画を送るインターネット放送局も続々登場中です。たとえば田中康夫・長野県知事が出した『脱・記者クラブ宣言』。新聞やテレビはまともに扱っていませんが、インターネット上では発表当日の記者会見(1時間7分弱)をほとんど待ち時間なしに見ることができます。

 音楽配信、ビデオ配信、ゲームその他のソフトウエア配信も、これからますます増えてくるでしょう。将来的にはテレビ電話的な使い方──遠隔授業や医療、在宅勤務、インターネット電話などにも使えるという声もあります。

カネ、中身、使い勝手など問題山積

Question今後の普及の
見通しは?

Answer政府のIT戦略会議は2000年11月、「二〇〇五年を目標に世界最先端のIT国家を目指して、五年以内に超高速インターネット網を整備。安い料金で国民が利用できるようにする」との基本戦略を出しました。「超高速」とは30〜100Mbpsで、たとえば3000万世帯がCATV網など、1000万世帯が光ファイバー常時接続すると想定しています。世帯数4550万の、実に9分の8がブロードバンド化するというのです。

 しかし、これはただの打ち上げ花火。ひと昔前に与党の常套句だった新幹線を敷く、高速道路をつくる、巨大な橋を架けるといった箱モノ行政と、あまり変わらないように思えます。

 第一に肝心なのは、誰がカネを出すのかということ。ブロードバンドを使う家庭にはパソコンが必要で、それを買うのは大衆です。また、ADSLは電話局から距離が遠いと使えず大都市向き、CATVも山間の難視聴解消型か都市型のどちらかで、全国くまなく普及しているわけではありません。残るは光ファイバーですけれど、これには莫大な投資が必要。地方では採算が合わず、各家庭まで敷設することは、ほとんど困難視と見られています。

 第二に何を流すかです。著作権の問題があって、放送はそう簡単にはブロードバンドでは流せません。また、速報性、大画面、高画質、低価格などの点で、ブロードバンドは到底テレビには太刀打ちできません。どれだけ魅力あるコンテンツ(中身)が生まれるかが鍵です。

 第三に、パソコンはとても難しく、面倒くさい機械。キーボードには主として英語が刻印してある代物なのです。そんなものが日本の9割方の家に置かれるでしょうか。便利と思い、資金的にも余裕のある人から導入は進むでしょうが、テレビや冷蔵庫のように普及するとはちょっと考えにくい話です。

「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 2001-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.

Valid CSS! Valid XHTML 1.0! Another HTML-lint がんばりましょう! 月刊「潮」 坂本 衛 すべてを疑え!!

現代キーワードQ&A事典の表紙へ
inserted by FC2 system