更新:2008年8月16日
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デビットカード

●初出:月刊『潮』1999年4月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Questionデビットカードというものがスタートした
と聞きました。どんなカードですか?

Answer「デビット」は、ラテン語のデビトゥムから来た言葉で「借りがある」「借方」《かりかた》(債務を負う側)という意味があります。正反対の言葉が「クレジット」で、こちらのもとの意味は「信用」、転じて「貸方」《かしかた》(債権を持つ側)を指しています。

 この二つの言葉に「カード」をつけてみます。まず「クレジットカード」は、掛け売りや月賦など信用販売のカードを意味します。つまり、手持ちの現金がなくても、カードを掲示すれば商品やサービスを購入でき、代金は後で(翌月一括や六か月分割など)預金口座から引き落としになるという決済手段。これがクレジットカードです。

 対して「デビットカード」は、手持ちの現金なしに商品やサービスを購入できるところまでは同じなのですが、「借りがある」ので直《ただ》ちに支払わなければなりません。つまり、代金はその場で預金口座から引き落としになるという決済手段。これがデビットカードです。

 クレジットカードを持つには、職業、年収、家族構成などを記入した書類を提出してカード会社と契約を交わします。カード会社は銀行と提携して、カードを持つ人に「信用」を与えるわけですから、一定の審査が必要なのです。

 しかし、デビットカードは使った瞬間に決済しますから、こうした面倒な手続きが必要ありません。具体的には、多くの人が持っている銀行や郵便局のキャッシュカードを、そのまま利用することができます。商店、デパート、レストラン、ガソリンスタンドなどのレジに銀行や郵便局とオンラインで結ばれた端末機を置き、客が掲示したカードを差し込んで暗証番号を打ち込み、代金を引き落とせばよいのです。

 耳慣れないデビットカードと聞くと、とまどうかもしれませんが、早い話が、銀行や郵便局のキャッシュカードを買い物に利用できるようにしたものと思ってください。

九九年一〇月から本格稼働

Questionデビットカードは、
いつごろから始まったのですか?

Answerアメリカでは、八〇年代後半からデビットカードがスタートしました。アメリカでは、食品スーパーやドラッグストアなどで小切手を利用する人が多く、手で記入するためレジの待ち時間が長い、不正小切手による損失が出る、人件費や銀行への手数料がかさむといった問題がありました。デビットカードは、最初はこれらの対策として導入されたのです。

 その後、銀行やカード会社が、儲けは薄いが顧客を広く囲い込むことができるとして普及に力を入れ、ここ数年、利用が急増しています。

 日本では、郵政省が郵便貯金のカードを、富士銀行が自行のキャッシュカードを、それぞれ買い物に使えるようにできないかと検討を進めていました。もともと銀行は、郵便貯金が民間の事業を圧迫していると考えており、郵政省とはあまり仲がよくありません。

 しかし、デビットカードについては利用者の使い勝手を考えて大同団結することに決め、九八年六月、日本デビットカード推進協議会を発足させました。これには、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食チェーン、ガソリンスタンド、航空会社、旅行会社、ホテル、専門店など六五社と、郵政省や都市銀行をはじめとする一一八の金融機関が参加しました。

 同協議会はその後、新しいサービスの名前を「J−Debit」(ジェイ・デビット)と決め、システムを担当するNTTデータ内に決済を行うクリアリングセンターを設立。一方、レジに置く端末機の生産など準備を進めました。こうして九九年一月四日、一部の金融機関と流通サービス業でデビットカードがスタートしたのです。

 当初使えるのは、郵貯、富士銀、第一勧銀、三和銀など八金融機関のキャッシュカード。西武百貨店、ローソン、JTB、コスモ石油、近畿日本ツーリストなど八社の支払いに使うことができます(店やレジによってはまだ使えない場合があります)。本格的なスタートは九九年一〇月で、九〇〇以上の金融機関のキャッシュカードが、百数十社の流通業で使えるようになる見込みです。

銀行や店のメリットは?

Questionキャッシュカードを使う側は、
新たに手数料を取られたりしないのですか?

Answerはい。J−Debitシステムでは、加盟店が端末機を購入し、一件一件の利用ごとに銀行への口座振替の手数料を負担します。この手数料は原則として利用代金の一%。ただし、利用代金が安く一%が三円に達しないときは一律三円、利用代金が高く一%が一〇〇円を超えるときは一律一〇〇円です。

Questionでは、店にとってのメリットは?
店にすれば、売上高が一%前後減るわけでしょう?

Answerまず金融機関は、買い物の際に自分のところのキャッシュカードを使ってもらえれば三〜一〇〇円の手数料収入が入ります。これはメリットがはっきりしていますね。

 次に加盟店の小売り店、レストラン、ホテルなどですが、これは端末機を導入するコストに加えて、手数料を支払う必要がありますから、あまり得がないようにも思えます。

 しかし、このシステムが普及すると現金のやり取りが減り、現金を数える、釣り銭を渡す、現金を管理し銀行に預けるといった手間やコストが、大きく省ける可能性があるのです。

 とくに、高額商品(たとえばテレビやパソコン、旅行費用など)では、手数料に上限が設けられているので、店のメリットが大きくなります。クレジットカードと比べても、手数料が安く、現金がすぐ回収できるメリットが大きいのです。逆に、少額商品しか扱わない店では、あまりメリットはありません。一〇〇円の缶入り飲料を売るたびに手数料三円を取られては、商売はあがったりです。

安全性には要注意

Question私たち消費者にとっての
メリットとデメリットを教えてください。

Answerキャッシュカードさえ持てば、現金を持ち歩かなくてすむというメリットがあります。高い買い物をするとき、レジで一万円札を数えて渡す手間もなくなります。お釣りが発生しないので、財布が軽くてすむかもしれません。銀行や郵便局の現金自動預け払い機(ATM)から現金を引き出す回数も減るでしょう。知らない街で銀行やATMを探す必要もなくなります。とくに午後六時以降、ATMの手数料がかかる時間帯には、便利なものであると思います。

 一方、デメリットとしてもっとも懸念されるのは安全性です。銀行や郵便局のCD(現金支払い機)コーナーで使うだけだったキャッシュカードを、今度は買い物のたびに出して使うわけです。当然、落としたり盗まれたりする危険性が増大します。そして、万一カードが他人の手に渡り、四ケタの暗証番号を知られてしまうと、もうお手上げ。相変わらず誕生日や電話番号の下四ケタを暗証番号にする人が多いので心配です。クレジットカードならば、紛失・盗難保険が適用されるため、不正に使用されても本人が支払う必要はありませんが、キャッシュカードでは、その日のうちに預金残高分を使われてしまう恐れが大きいのです。

 カードを紛失したと思ったら、改めて捜すより先に、発行元の銀行などに連絡し、すぐに機能を停止してください。給与が振り込まれる口座とデビットカード用の口座を別々にしておくのも、一つの手かもしれません。

 さらに、これはどんなクレジットカードにもいえることですが、カードでの買い物は現金を必要としないぶん軽い気持ちでできてしまい、無計画な衝動買いにつながりがち。口座引き落とし確認書や領収証のチェックを、これまで以上にしっかり行い、計画的な買い物をしていただきたいと思います。

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