更新:2006年9月30日
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電子マネー

●初出:月刊『潮』2004年6月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

電子マネーとは?

Question新聞やテレビで「電子マネー」という言葉をよく見聞きします。
どういうものですか?

Answer「電子マネー」とは、おカネ(通貨。具体的には鋳造《ちゅうぞう》貨幣と紙幣=日本銀行券)の価値を表す電子的なデータ(デジタルデータ)で、実際にものを買ったりサービスを受けたりできるものをいいます。

 Aさんが銀行に100万円を預金しているとき、銀行ではAという名札のついた引き出しに100万円を入れてあるわけではありません。Aさんの100万円は実際には銀行が持っている電子的なデータ。この点でAさんの預金は電子マネーに似ているといえます。しかし、そのデータを示すだけでは買い物はできませんから、銀行預金は電子マネーではなく、銀行のキャッシュカードを電子マネーとは呼びません。

 クレジットカードは、実際に買い物ができる点で電子マネーに似ています。しかし、これはクレジット会社が会員に信用を保証・供与するために発行するもの。本人しか使えず、借り入れができますが、本人が破産して信用を失えば使えません。電子マネーは信用の有無とは関係なく、5万円の電子マネーで5万円の買い物ができます(5万円分にしか使えません)。ですからクレジットカードとも違います。

 NTTのテレホンカード、JRのオレンジカードやスイカ、私鉄のパスネットといったプリペイドカード(前払いカード。プリは「予《あらかじ》め」、ペイドは「支払われた」の意味)は、電子マネーとよく似ています。

 最近登場し利用の拡大が期待されている電子マネーが、プリペイドカードと異なる点は、第一に、何にでも利用できる「汎用性」や、手数料なしでいつでも現金や預金に換えることができる「一般的換金性」を持つこと。第二に、インターネットなどを経由して離れた場所の人や企業への支払いにも使うことができること、と考えられています。

ICカード型とネットワーク型

Question具体的には、
どのような電子マネーがあるのでしょうか?

Answer電子マネーは、どのようなメディア(媒体)を使うかによって(1)ICカード型、(2)ネットワーク型(ソフトウェア型)に分けられます。

 ICカードとは、プラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路(ICチップ)を埋め込み情報を記録できるようにしたカード。薄くてペラペラの磁気カードとはケタ違いのデータを記録でき、偽造にも強いとされ、データを読み書きする方式によって「接触式」と「非接触式」に分けられます。JRのスイカは非接触式のICカードです。

 ICカード型電子マネーの例は、「モンデックス」と呼ばれるシステム。1995年にイギリスのスウィンドン市(人口17万人)で、消費者4万人、店舗1000店が参加する大規模な実証実験がスタートし、有名になりました。利用者は、銀行のATMやICカード対応電話機を通じて、自分の口座からICカードに使いたい金額を引き出します。店には専用の端末が置かれ、客がカードを示すと買い物をした額が引き落とされます。電子マネー(ICカード)の残高はキーホルダー型の小型端末で確認することができます。

 最近、日本に登場したICカード型電子マネーでは「Edy」が有名です。これは家電、通信、金融、自動車などの代表的な会社が出資して設立したビットワレット社が運営する電子マネー。2001年11月の本格サービス開始以来、コンビニ、スーパー、百貨店、アミューズメントなど幅広い業界に導入され、2003年12月時点で、加盟店3400店、ショッピング利用件数は月間160万件以上。「Edy」機能とクレジットカード、会員証、社員証を合体させた多種多様なカードが発行されており、その数は340万枚以上といいます。

 コンビニam/pmの店頭にカードと現金(1回2万5000円まで)を出せば、チャージ(カードに入金すること)ができ、加盟店では端末にカードをタッチさせるだけで支払いが済むという仕組みです。チャージは何度でも繰り返すことができます。

Questionネットワーク型の電子マネーとは、
どういうものですか?

Answer利用者は予めウォレットソフト(電子財布)と呼ばれるソフトウエアをパソコンに入れ、自分のクレジットカードや銀行口座などから使いたいだけの電子マネーを移しておきます。ホームページを見て買い物をするときは、ウォレットソフトが店側のシステムに入金を通知し、その分の電子マネーが減ることで支払うわけです。もっとも、インターネットで買い物をするときは、クレジットカードによる決済、銀行振込、配達時の代引きなどが主流ですので、電子マネーはまだあまり普及していません。

少額ICカードから普及か?

Question電子マネーは今後
どのように普及していくでしょうか?

Answer日本で家、クルマなど高額な商品を買うときは、銀行振込や小切手を使うか、ローンを組むのが一般的ですね。20〜30万円のテレビを買うときも、銀行振込やクレジットカードが普通で、現金で買う場合でも直前にその金額を銀行から引き出すことが多いでしょう。

 以上のような支払いが電子マネーに置き換わるとは当面は考えにくく、電子マネーは数万円程度までの比較的小額な部分を置き換えるという形で普及が進むものと思われます。Edyカードも蓄積限度額は5万円までとなっており、まさに「財布代わり」。硬貨で膨らんで重い小銭入れをポケットに入れたくないとか、コンビニでの小銭の支払いが面倒だという人にも、受け入れられやすいでしょう。ですから電子マネーはクレジットカードと共存できます。

 もちろん技術的には、500万円の電子マネーを名刺サイズのICカードに蓄積して持ち歩くことも可能です。しかし、500万円の札束より落としたりなくしたりしやすいでしょうから、安全性を高めるためのコストが大きな問題になります。偽造や「なりすまし」などの被害にあった場合、消費者や発行機関の負担が大きくなりすぎてしまうわけです。

 もっとも、企業間の支払いについては、インターネットなどを通じてある程度高額の電子マネーが流通していくことはありうると思います。

電子マネー機能付き携帯も

QuestionICカードには電子マネー以外のデータも記憶できるのでは?
また、携帯電話を電子マネーに使えませんか?

AnswerICカードの情報記憶容量は、どんどん増大しています。しかも安全性が高く、暗証番号など正しい情報が送られないと反応しないように作ることができ、カードの中の情報をのぞくことができません。

 コストはかかりますが、指紋を「鍵」にするような方法で他人が使えないシステムにすることもできます。つまり、残高や過去の取引情報のような電子マネー関連情報だけでなく、個人情報などをカードに蓄積してID機能を持たせることができます。ポイントカードとして使うこともごく簡単。さまざまな付加価値をつけたカードが続々登場して、ICカード型の電子マネーの普及が進んでいくことも考えられます。

 また、携帯電話はネットワーク端末そのものですから、ネットワーク型の電子マネーを蓄積することができます。すると、どこにいても自分の銀行口座と通信して「チャージ」できます。携帯電話は非接触型ICカード以上に遠く離れて使えますので、レストランで座っているうちに支払うとか、クルマから降りずに支払うことも可能。今年半ばには電子マネー機能付き携帯電話が登場すると見られ、電子マネーの可能性はますます広がりそうです。ただし、利便性と安全性は相反する場合が多いことに、くれぐれもご注意を。

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