更新:2006年9月30日
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道路特定財源

●初出:月刊『潮』2005年12月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

道路特定財源とは?

Question道路特定財源の見直しが始まったと
聞きました。どういうことですか?

Answer私たちはどこへ行くのにも道路を通らなければなりませんから、道路はとても重要な社会基盤(インフラ)の一つで、誰かが建設し維持管理をする必要があります。みんなが使う公共財ですから、これは税金でまかなうのがよいでしょう。

 しかし、高速道路や国道をはじめ多くの道路、あるいは橋やトンネルなどは、もっぱら自動車に乗っている人が使います。広い道路で人が歩くのは狭い歩道部分だけです。人も歩けば自転車もクルマも通るという道路でも、1万人が歩くのと自動車1万台が通るのでは傷み方が全然違いますから、道路の建設費や補修費は自動車を使う人から多く集めるべきだという考え方は、理にかなっています。

 ところが、高速道路以外の一般道路を走っている自動車から使用料を取るのは、技術的にほとんど不可能です。そこで、自動車の燃料に課税したり、自動車を取得するときに課税して、その税収を道路の建設費や維持管理費にあてるという考え方が生まれました。これが「道路特定財源」制度です。

 その規模は、2005年度の予算ベースで国と地方を合わせて約5兆8000億円に上っています。

 具体的な内訳は、国の財源として揮発油税(2004年度税収2兆8285億円。以下同じ)、自動車重量税(5820億円)、石油ガス税(142億円)、地方の財源として軽油引取税(1兆750億円)、自動車取得税(4572億円)、地方道路譲与税(3041億円)、自動車重量譲与税(3746億円)、石油ガス譲与税(140億円)となっています。

 なお、このように使い道があらかじめ決まっている税を「目的税」といいます。目的税に対して、所得税や消費税のように使い道がとくに決まっていない税を「普通税」といいます。目的税によって集めた税金を「特定財源」、普通税によって集めた税金を「一般財源」と呼ぶわけです。

2007年度から数千億円が余る

Question特定道路財源を見直すということは、
お金が足りなくなってきたのですか?

Answerいいえ、違います。話は逆で、特定道路財源が余りはじめるので、そのあり方を見直そうということです。

 特定道路財源が導入されたのは1954年(昭和29年)です。この年に作られた「道路整備の財源等に関する臨時措置法」によって、49年から課税が始まっていた揮発油税(当時は一般財源)の税収の全額を国の道路整備費用にあてることになりました。

 朝鮮戦争(1950〜53年)による「朝鮮特需」をへて戦後の復興が軌道に乗りはじめた頃で、自動車の普及に対応する道路整備を急ぐ必要があったからです。54年には「第一次道路整備五か年計画」がスタートしています。

 その後、高度経済成長が本格化すると、60年に地方道路贈与税が導入されます。揮発油税の対象と同じ対象に課税し、国が集めて地方に配分する税金で、揮発油税と合わせて「ガソリン税」と呼ばれています。交通戦争や公害が社会問題となった71年には自動車重量税が始まります。

 73年に第一次石油危機が起こると、揮発油税や自動車重量税に「暫定《ざんてい》税率」というものが導入されました。これは、本則の税率を揮発油税で2倍、自動車重量税で2・5倍などに暫定的に引き上げる、早い話が「増税」です。緊急避難的に「暫定」という名前でスタートしたのですが、今日までずっと引き上げられたままになっています。

 しかし、バブル経済の崩壊以降、国の財政悪化によって道路建設の抑制が進んだ結果、道路特定財源が余りそうだという話になってきました。2002年度(決定は2001年12月)以降は、すべての財源を道路予算だけでは使いきれず、余った分は地下鉄整備や電線の地中化といった「道路関連」に転用しはじめています。

 さらに、道路特定財源の一部は本州四国連絡橋公団(現・本州四国連絡高速道路会社)の債務返済にあてられていますが、2003年度以降に1兆円以上を投入し、これが2006年度で終わります。

 こうして、2007年度から5000億円近い剰余金が発生する見込みなのです。

税率引き下げ? 一般財源化?

Question道路特定財源の見直しには、
どんな考え方がありますか?

Answerまず、税率そのものを引き下げるべきではないか、という考え方があります。

 本則税率が適用されているのは石油ガス税と石油ガス贈与税だけで、合わせて300億円にも満たないのですから、道路特定財源の99・5%以上は「しばらくの間の仮の税率」という意味の暫定税率が適用されているわけです。

 ガソリン税を本則税率に戻せば、レギュラーガソリン価格は全国平均価格の1リットル130円台から25円程度の値下げになる計算。自動車重量税では1・5トンの自家用乗用車で年1万1400円の減税になる計算です。財界や自動車・石油業界は税率引き下げを主張しており、減税を歓迎する庶民も少なくないでしょう。

 もっとも、30年間も固定してきたのだから「暫定税率」とは名ばかりで社会に受け入れられてきた税率と考えてよく、余ったからといって引き下げる必要はないという考え方もあります。

 とくに、国の借金が800兆円に近づくという異常事態で減税などとんでもないと強く主張するのは財務省です。財務省は財政再建に役立てるために、暫定税率はそのままにして、特定財源を一般財源に振り向けるべきだとしています。

 この考え方の問題点は、自動車を持っていたり走らせたりする人は、自動車を持っていない人や持っていてもあまりドライブしない人に比べて、財政再建に使われる税金をより多く負担しなければならないということです。

私たちにも監視責任がある

Question財務省以外の省庁や、地方自治体は
どう考えているのですか?

Answer税率引き下げも一般財源化も反対で、道路に関連する使い道を広げたいというのは、現在の道路特定財源を所管する国土交通省です。同省は、都市の環状道路や地方の生活道路の整備、沿道環境の改善など、自動車の利用者が負担すべき問題はまだまだ少なくないと主張しています。

 ピーク時に40分以上閉まる「開《あ》かずの踏切」は全国に約500か所。交通渋滞による経済損失は年間約12兆円(国民一人あたり約30時間)。電線類の地中化は東京23区で6・4%(ロンドンやパリは100%)。落石・地滑りなどの道路災害は年間約4700回で、総通行止め時間約30万時間。交通事故の死者は7700人で負傷者は約118万人。これらの数字を示して、現状の改善に使うべきだというのです。

 環境省は、自動車の排ガスが環境を悪化させるから、ガソリン税などを新しい「環境税」へと転換させたい考えです。一方、全国知事会は、現在の道路特定財源の国・地方の配分比率を見直し、地方への配分を増やすべきだと主張しています。

 つまり、道路特定財源の見直しは「総論賛成」ですが、さまざまな関係者が自分に有利な「各論」を主張している段階です。小泉首相は年内に見直し方針を策定するように指示しており、しばらくは、せめぎ合いが続くでしょう。

 忘れてならないのは、税金の使い道をどうするかは、ほかならぬ私たち自身の問題であり、私たち国民には監視する重大な責任があるということです。役所や自治体の予算ぶんどり合戦を静観してはならず、積極的に意見を述べていく必要があります。

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