更新:2006年9月30日
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道路公団

●初出:月刊『潮』2002年11月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

道路公団とは?

Question道路公団改革の議論が進んでいると聞きました。
これについて教えてください。

Answer日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団を、まとめて道路関係四公団と呼びます。四つとも道路や橋など社会資本の整備を目的として、それぞれ個別の設置法に基づき設立された特殊法人。とりわけ道路公団は、高度経済成長期のはじめの1956年につくられ、高速道路や一般有料道路の建設・管理に大きな役割をはたしてきました。

 高速道路建設のような国家的な大事業は、民間企業には荷が重すぎます。一方、国は税収に応じて支出するのが建前ですから、むやみに借金できません(国と地方は国・地方債の乱発で700兆円の借金まみれですが、ひどくなったのはバブル経済期以降)。そこで、特殊法人という国でも民間でもない企業体をつくり、これが国の財政投融資を利用して(国が集めた郵便貯金などから借金して)道路をつくる仕組みが始まりました。ところが、社会・経済情勢が大きく変わったいま、戦後の復興期や高度成長期につくられた特殊法人のままでよいのかと、必要性が問われています。

 道路公団は役所仕事でサービスが悪い、渋滞が慢性化しているのに高速料金は高すぎる、総裁はじめ役員は国土交通省(旧建設省)の天下り、公団OBがさらに天下るファミリー企業が多数あり公団との取引が不明朗といった問題は、ずっと以前から指摘されてきました。

 しかし、ここ数年、道路公団は本当に健全な経営をしているのか、日本の人口が減りはじめるのに今までのように高速道路をつくりつづけてよいのかという、根本的な疑問が大きくなっています。そこに「聖域なき構造改革」を掲げる小泉政権が誕生、改革の柱の一つに特殊法人改革を打ち出しました。そこで、特殊法人の中でも事業規模が大きく、「抵抗勢力」の道路族議員が死守の姿勢を見せる道路公団改革が、大きくクローズアップされてきたのです。

経営の実態が見えない

Question道路公団の経営状況は、
そんなによくないのですか?

Answerたとえば神奈川県川崎市と千葉県木更津市を海底トンネルと橋で結ぶ「東京湾アクアライン」という道路があります。中曽根政権時代の1985年に大型民活事業第一号として事業化され、97年に開通した有料道路で、総事業費1兆4400億円。片道料金は普通車3000円、大型車4950円です。

 実はこの道路、1日1万台しかクルマが通りません。すると1台5000円と(多めに)見て年収は182億円(≒5000万円×365日)。一方、借金の金利を3%とすれば年に432億円。つまり、現状では利子すら支払うことができず、借金の総額はどんどん増えていきます。つまり「東京湾アクアライン」は、単体で見れば明らかに経営破綻《はたん》しており、つくるべきではなかった道路。これを管理しているのは道路公団です。

 また、本州と四国に橋が3本架かっていますが、これも完全に経営破綻しています。こちらは本四連絡橋公団。こうした道路や橋は、工事を受注したゼネコンや中小建設会社、土地の買い上げを受けた地権者などは儲かります。利用者もいくらか料金を負担して便利になります。しかし、建設費用があまりに大きすぎ、結局は誰かが借金を尻拭いするほかありません。

 ところが、道路公団は「全国料金プール制」といって、全国の高速道路を一つの道路と見なし、その全路線の費用(建設費・管理費・金利など)を全路線の収入でまかなうという仕組みを採っています。この仕組みに、次から次へと新しい路線を追加し、建設費は低めに収入は高めに見積もると、表面的には経営が順調であるかのように見えてしまいます。また、道路の減価償却費を費用に計上しない、一度資産として計上したものは(取り壊したり更新したりしても)資産から除かないという特殊な会計処理をしているので、経営の実態がきわめて不透明。

 不透明なものをあれこれ試算してみると、現在、四公団全体で40兆円、道路公団だけでも25兆円の借金があると見られます。道路公団の売り上げは年に2兆円強ですから、このままでは何十年かかっても返せないどころか、ふつうの企業ならとっくに破綻しています。

第三者機関で具体案を検討

Questionでは、
小泉内閣の方針は?

Answer小泉内閣は2001年12月、(1)道路関係四公団を2005年度までに民営化する、(2)日本道路公団には2002年度以降国費投入をしない(それまでは金利分の3000億円を毎年投入)、(3)同公団の債務は50年以内に償還する(50年で借金を返す)という方針を閣議決定。四公団に代わる新しい組織と、その採算性の確保についての具体案は、内閣府に第三者機関を設置して検討するとしました。

 こうして、2002年6月に道路関係四公団民営化推進委員会が発足。この委員会は、意見が政策に反映されないときは、首相に勧告することができます。メンバーは、委員長の今井敬・日本経団連名誉会長、委員長代理の田中一昭拓大教授、松田昌士JR東日本会長、作家の猪瀬直樹氏ら7人。週1〜2回のペースで開かれる会合は報道陣に公開され、12月には最終報告を小泉首相に提出する予定です。

 この民営化委員会は、8月末に中間報告を出しています。それによると、最大の焦点となっている今後の高速道路整備について、国が高速道路整備計画に基づいて出す着工命令の「全面執行について凍結、道路規格の見直しなどを含む再検討を行う」と明記。つまり、新規の高速道路建設の一時凍結を打ち出しました。

 また四公団の債務と高速道路の資産を引き継ぐ独立行政法人「保有・債務返済機構」の設立や、民営化会社の分割・再編方針を盛り込んでいます。これは、道路保有と債務返済を別の法人に切り離し、民営化後の新しい組織は道路の維持・管理その他のサービスをおこなうという一種の「上下分離方式」です。

子どもや孫にツケを回すな

Question今後
どうなるでしょうか?

Answerいくつか難問があります。まず、上下分離方式は「上」の民営会社が「下」の道路を借りるかたちなので、いくら儲けてもリース料として取られてしまい、経営のインセンティブ(刺激)が生まれない恐れがあります。政府の影響が強い「保有・債務返済機構」に公的資金や税金が入るのでは、現状と変わりがありません。

 また、民営化委員会は、国民負担(税金)なしにかなり長期(30〜40年以上)にわたって債務を返済するという計画のようですが、そのような長期計画は必ず実現できるという保証がなく、結果的に負担の先送りになる恐れがあります。国民負担なしで大丈夫なら、誰も責任を問われないわけですが、それでよいかどうか疑問も残ります。

 とにかく、道路公団改革は、そのほかの特殊法人改革に大きな影響を与える試金石とも突破口ともいうべきもの。それだけに道路族議員や地方自治体などの反発も激しく、「民営化委員会がどんな結論を出そうが、国会で通さなければいい」という声も強いようです。けれども、これまでのような杜撰なやり方で、私たちの子どもや孫の世代が安心して暮らせる国づくりができるとは、到底思えません。私たちの生活のツケを将来の世代に回さないよう、改革をしっかり見守りたいものです。

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