更新:2008年5月31日
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フィルタリング

●初出:月刊『潮』2008年6月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

インターネットで注目

Question「フィルタリング」という言葉を
聞きました。どんな意味ですか?

Answer「フィルター」という言葉はご存じですね。エアコンのフィルターは、吸気口につけてホコリや花粉などを除去する膜。コーヒーのペーパーフィルターは、飲み物だけ通し豆かすを除去する紙。つまり、必要なものだけ通し、不要なものを通さない膜や網のたぐいがフィルターです。英語ではfilterで「濾過《ろか》」または「濾過する」と訳します。

 「フィルタリング」は、これに「〜すること」を指すingをつけた言葉で、「必要なものだけ通し、不要なものを通さないこと」を意味します。フィルタリングは、最近、インターネットに関して注目され、盛んに議論されるようになりました。

 「インターネット」とは、世界にクモの巣のように張りめぐらされたコンピュータ通信網のこと。誰でもパソコンを買ってきて、(1)NTTなどの回線業者、(2)「プロバイダ」と呼ばれるインターネット接続業者((1)(2)が同じ会社の場合も)と契約すれば、この通信網に加入できます。(1)(2)合わせて月に数千円ほど支払えば、自分のパソコンと全世界で数億台以上とされるコンピュータが、隣近所でも地球の裏側でも24時間つながるわけです。インターネットにつながる携帯電話も増えています。

 すると、アドレス(インターネット上の住所)がわかっている相手と電子郵便をやりとりできます。

 また、世界中のコンピュータに蓄積されているホームページ(ウェブページ、ウェブサイト、サイトともいいます。ウェブはクモの巣、サイトは用地・敷地という意味)も閲覧できます。

 「ホームページ」は、表紙やページのあるインターネット上の電子的な文書で、文章のほか写真やビデオも表示でき、音楽も流せます。書き込みできる掲示板やチャット(おしゃべり)ページ、商品を選んで注文できる通信販売ページもあります。政府、自治体、企業、個人などが盛んに開設しており、世界全体では数十億ページ以上あるでしょう。

 その中には公序良俗に反するもの、危険なもの、違法なものなどが含まれます。そこで、たとえば子どもがインターネットに接続したとき、「必要なものを通し、不要なものを通さない」フィルタリングが必要だという考え方が生まれてきたのです。

見せたくないサイト

Questionインターネット上の「不要なもの」には、
どんなものがあるでしょう?

Answer何が必要で何が不要か、何が有益で何が有害かは、一概にはいえません。一言で青少年(20歳未満の未成年)といっても、それが小学生か、中学生か、19歳の勤労青年かで、話がまるで違ってきますから。

 一般的には、いわゆるアダルトサイト(ポルノ画像・映像や風俗情報を掲載する大人むけホームページ)、出会い系サイト(男女や同好の者の出会いを目的とする掲示板やチャットのホームページ)、正視しがたい暴力映像や残虐画像を集めたホームページ、悪口や誹謗中傷が並ぶホームページ、毒物や覚醒剤の情報が手に入るホームページ、家出・自殺や犯罪を助長する恐れのあるホームページなどが、子どもに見せたくないと思われています。

 ただし、これらすべてを即刻規制せよとか、青少年に一切見せるなという考え方は間違っています。

 もし性的なことにまったく関心がない高校生がいたら、その少年少女はむしろ不健康で不健全。昔の若者が親に隠れてエロ本を覗いたように、今の若者がアダルトサイトを覗きたいのは当然です。積極的に見せてやることはないですが、年齢によっては、厳禁する必要もないでしょう。

 出会い系サイトで知り合った男女が結婚して幸せな家庭を築いた例も、数えきれません。出会い系サイトが、売春・買春や援助交際の温床となったり、暴行・誘拐事件のきっかけとなるケースもありますが、すべてが悪とは決めつけられません。出会い系サイトなど一切知らない少女が、喫茶店で知り合った男と援助交際を始めることだってあるわけです。

 ですから、親としての基本は、どんな人や情報に接しても、自分を見失わず、人の道から外れない子どもを育てることだと思います。それでも、子どもがまだ小さく、判断力も不十分だから心配だという場合は、パソコンや携帯電話にフィルタリングを導入すればよいでしょう。

具体的な導入は

Questionフィルタリングの導入は、
具体的にはどうするのですか?

Answerパソコンにフィルタリング・ソフトをインストールする(組み込む)のが一般的です。価格は1年間有効で数千円程度。会員むけにフィルタリング・サービスを提供するプロバイダもあり、こちらは無料か、月に数百円程度。いずれも保護者機能、有害・悪質サイトブロック、ペアレント・アイ(親の目)、アクセス制限といった名前がついているので、インターネットで探してください。

 携帯電話も回線業者のフィルタリング・サービスがあります。出会い系サイトで犯罪に巻き込まれた子どもの9割以上が、パソコンでなく携帯電話からの接続でした。そこで、2008年1〜2月から、未成年者が携帯を持つときは、親が解除を申し込まない限りフィルタリングがかかるようになっています。

 ところで、フィルタリングには、次の四つの仕組みがあります。それぞれ一長一短がありますので、参考にしてください。

  1. レイティング(格付け)方式……制作者や第三者機関が、性的表現・暴力表現など分野ごとに、ホームページの程度を格付け。たとえば「性2」「暴4」といった記号をつけておく。一方、フィルタリング・ソフト側で「性2」まで閲覧可、「性3」以上は閲覧不可というように設定する。この例では、「性2」より過激なホームページを見せない。
  2. ブラックリスト方式……フィルタリング・ソフトを作る会社や、その会社が提携する調査会社が、日々ホームページをチェック。閲覧不可のリストを作り、それらのホームページを見せない。
  3. ホワイトリスト方式……安全・有益で閲覧可のリストを作り、それらのホームページだけ見せる。
  4. キーワード方式……好ましくないキーワード、フレーズ、文章などをあらかじめ設定。ホームページに接続するたびに、ページ内容と設定を照合し、一致するときは見せない。

決して万全ではない

Questionフィルタリングは、どのくらい
効果がありますか?

Answer好ましくないがフィルタリングをすり抜ける、逆に安全で有益なのにフィルタリングがブロックするホームページは、数え切れないほどあるでしょう。フィルタリング・ソフトやサービスは決して万全ではないことを、まず理解してください。

 万全ではない以上、親や教師にはフィルタリングの導入より先に、すべきことがあります。それは、インターネットでやってよいこと、やってはならないことを、子どもたちに徹底して教えることです。

 インターネット上の匿名の書き込みは、どこの誰が書いているか、男か女かすらもわかりません。犯罪者相手におしゃべりしている恐れすらあります。そんなインターネット上では、名前・住所・電話番号・個人が特定できる写真などを絶対に公開してはならないと、教えてください。親の許可なしにネット上で買い物してはいけないことも常識でしょう。

 一方、子どもを残酷な情報や危険な情報から遠ざけておきさえすればいいとも思えません。アウシュビッツ収容所の写真は正視に耐えない残酷なものですが、日本は収容所をつくりユダヤ人を抹殺したナチスドイツの同盟国でした。フィルタリング・ソフトがブロックしても、日本の子どもたちは、その写真を凝視すべきです。たまには親子でインターネットをしながら話し合うのもよいことですね。

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