更新:2008年8月16日
現代キーワードQ&A事典の表紙へ

改正外為法(外国為替及び外国貿易管理法)

●初出:月刊『潮』1998年3月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question外為法が改正されるそうですね。
どういうことですか?

Answer外為法は、正式には
「外国為替及び外国貿易管理法」といいます。

 外国為替とは、貨幣制度が異なる国の政府、企業、個人などの経済取引にともなって生じた債権・債務(請求・支払い)関係を決済する手段や仕組みのこと。もっと簡単にいえば、ドルやポンドやマルクといった外国通貨で表示される紙幣や小切手、外貨預金、外貨建ての有価証券などのことです。外為法は、これら外国為替の取引や外国貿易についての規制を定めています。

 外為法は一九四九年にできましたが、当時は私人の外国為替取引を原則として禁じるなど、規制色の強い法律でした。七九年に規制緩和の方向で全面的に改正され、その後も緩和にむけて改正が検討されてきました。

 大蔵大臣の諮問機関である外国為替等審議会は、九七年一月に外為法改正を答申。これを受けて法案が作成され、同年五月に国会で成立。改正外為法は、九八年四月からスタートすることが決まっています。

 日本では、「金融ビッグバン」(ビッグバンは宇宙開闢の大爆発のこと)といって、金融業界(銀行、証券、保険)の徹底的な規制緩和・自由化が予定されています。外為法の改正はその先駆けとしても注目を集めているのです。

外国為替取引を自由化

Question外為法の、
どこがどう変わるのですか?

Answer第一に、外国為替公認銀行や外国為替業務を自由化します。

 現在、企業や個人が輸出入などで海外とおカネをやりとりするには、政府が認可した外国為替公認銀行(「為銀」と略します)を通さなければなりません。通貨の売買など外国為替業務が政府の認めた為銀に限定されているためで、これを「為銀主義」といいます。改正では、この為銀主義が廃止され、一般企業や個人が外国為替取引をできるようになります。両替商の認可制も廃止されます。

 第二に、対外的な支払い手段を自由化し、相殺など特殊な決済方法による支払いの許可制度を廃止します。

 第三に、証券投資など資本取引についても、原則として許可か事前の届け出が必要だったのを、事後報告ですむようにします。

 さらに、法律の名前から「管理」という言葉を消してしまい、「外国為替及び外国貿易法」となります。なお、外国貿易に関しては、基本的に現行のままです。

Question具体的にどんな変化が
生じるのでしょう?

Answer企業にとっては、外貨建ての支払いと受け取りを相殺決済できるようになるメリットが生じます。原料を仕入れて製品を売る企業が、輸出入に必要なドルを帳簿上で相殺できれば、為替変動によるリスクが軽くなり、外国為替交換にかかる手数料も節約できます。

 輸出企業はドルを円に、輸入企業は円をドルに替えたいわけです。輸出企業が受け取るドルを、輸入企業が直接買い取ることもできます。この場合も、外国為替公認銀行に払う手数料が不要となります。国内本社と海外子会社の間でも、同じことが可能になります。

 銀行にとっては、外国為替に関する自らの役割がどんどん小さくなるわけです。為替手数料収入も減りますし、独占が崩れて競争も激しくなります。同時に「金融」と「非金融」の壁がどんどん低くなり、一般企業が銀行のはたしてきた役割を肩代わりすることになります。

 個人では、海外の銀行での預金口座開設が自由化されます。その口座を使って、個人輸入の代金を決済することもできるのです。銀行を通じて代金を送ると手数料が取られますが、海外口座からの引き落としなら、小切手を送る切手代だけですみます。

 金利が高く手数料が安い国の銀行を選んで口座を開き、そこから税金の安い国の証券会社に株式売買の注文を出す、というようなことも可能になります。

 海外旅行に行って持ち帰った外貨(とくに始末に困るコイン)を友だちに売ったり、外貨をあつかう店で使ったりもできます。誰でも両替商になれますから、銀行でなくコンビニエンス・ストアや安売りチケット店でドルを買うこともできるようになるでしょう。

金融市場の空洞化懸念も

Questionおカネが海外に流出するという
心配はないのですか?

Answer実は、そのことが懸念されています。というのは、企業や個人が外国為替公認銀行を通さず、海外の金融機関と直接取引できるようになるため、取引の場がコスト面で有利な欧米に移る恐れがあるのです。

 欧米では為替取引手数料や株式委託手数料が安いうえ、株式を売却したとき有価証券取引税がかからない国もあります。ロンドンで円預金をしても、源泉税はかかりません。一方、日本では必ず源泉税二〇%がかかりますから、ニューヨークやロンドンをはじめ海外市場での株式取引が増えるというのです。

 もちろん、海外で利息や配当を得ても、日本で申告して納税する義務はあります。しかし、わざわざ申告する人は少なく、課税逃れのために海外への資金流出が増えるという見方が強いのです。

 また、日本は超低金利ですから、金利の高い外貨預金が増えています。外為法改正で、この動きがいっそう拡大するともいわれています。もちろん外貨預金には、為替変動によるリスクがついてまわりますが。

 こうして資金や取引の海外流出が起こると、日本の金融市場活性化のための外為法改正がかえって裏目に出て、東京市場の空洞化を招きかねません。この点、外為法改正に合わせて有価証券取引税の撤廃を急ぐべきだとか、納税者背番号制を採用して総合課税を導入すべきだという意見もあります。

金融ビッグバンにむけて

Question外為法の改正が金融ビッグバンの先駆け
というのは、なぜですか?

Answerここまで説明したように、外為法改正で、企業や個人が海外の金融機関と自由に取引できるようになります。日本の銀行や証券会社に魅力がなければ、イギリスの銀行を選んでも、アメリカの証券会社を選んでもいいのです。つまり、金融機関はより魅力的な商品やサービスを提供するなど、厳しい競争にさらされます。金融当局も、規制や税制の見直しをいっそう進めざるをえません。つまり、外為法改正は、日本の金融市場の抜本的な変革を促し、やがて来る本格的な自由化──金融ビッグバンの先駆けとなるわけです。

Questionビッグバンの中身についても、
教えてください。

Answer現在の日本の金融市場は、さまざまな規制と保護にしばられ、ニューヨークやロンドンなど先進的な金融市場から、はるかに取り残されてしまいました。香港、シンガポールなどにも遅れを取るローカル市場となりかねません。

 そこで、フリー(市場原理の働く自由な市場に)、フェア(透明で信頼できる市場に)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場に)の三つを合い言葉に、ビッグバンを推進。銀行・証券・保険分野への参入促進、金融商品規制の撤廃、銀行・証券の取扱業務の拡大、各種手数料の自由化、ディスクロージャー(情報開示)の徹底、法制度や会計制度の国際標準化などを通して、国際的に通用する金融市場を作り上げようというのです。ビッグバンが、日本経済の再活性化につながる可能性もあります。

 いま、日本には一二〇〇兆円の個人貯蓄があり、その半分の六〇〇兆円が低金利での運用を余儀なくされています。金融ビッグバンで市場が活性化されれば、個人貯蓄の効率的な運用が図られ、国民へのリターンも大きくなると期待されているのです。

「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 1998-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.

Valid CSS! Valid XHTML 1.0! Another HTML-lint がんばりましょう! 月刊「潮」 坂本 衛 すべてを疑え!!

現代キーワードQ&A事典の表紙へ
inserted by FC2 system