更新:2006年9月30日
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法科大学院

●初出:月刊『潮』2003年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

2004年4月に開校

Question2004年4月から法科大学院が始まるそうですね。
どういうものか教えてください。

Answer「法科大学院」は裁判官・検察官・弁護士(まとめて「法曹《ほうそう》三者」といいます)の養成を目的とする大学院のこと。アメリカの「ロースクール」(法律学校)を参考に考え出されたので、「日本型ロースクール」などと呼ぶこともあります。

 何から何まで裁判で決める「弁護士大国」アメリカでは、大学(4年。法学部というものはありません)を卒業後、ロースクールで3年間学んだ者が、司法試験を受験して法曹の資格を得ることになっています。大学院卒業プラスアルファでなれるので、その数は日本とは比べものになりません。

 これに対して日本では、大学(法学部4年)を卒業後、専門の予備校に通うなど試験勉強に入り、司法試験を受験して法曹の資格を得るのが一般的です。ところがこの司法試験は、3万数千人が受験して合格するのは1000人以下という超難関。40人に1人(合格率2・5%)程度しか法曹に進めず、裁判官・検察官・弁護士の絶対数がとても少ないのです。

 そこで日本では、質の高い法曹人口を増やすため、アメリカにならって大学院レベルの法律教育機関として法科大学院を開設することになりました。

 2002年11月末には、「改正司法試験法」(2006年に新しい司法試験を導入することを定める)と、「法科大学院教育・司法試験連携法」(2004年に法科大学院を開校することを定める)が成立。これに基づいて、2004年4月に各大学が法科大学院を開校します。2006年3月に法科大学院の第一期生が卒業し、5月に新しい司法試験を実施。合格者はこれまでの3倍以上の3000人規模とされ、2007年秋に新制度での第一期司法修習生が終了する予定が決まっています。

これまでの制度の問題点は?

Question日本では裁判の長期化が問題になっていますね。
法科大学院は、それと関係がありますか?

Answer大いに関係があります。法科大学院の開設は、それだけが単独で考えられたのではなく、司法制度(裁判制度)全体の見直しの一つとして出てきた話。

 日本の司法制度は、裁判に極めて長い時間がかかること、その原因でもある裁判官・検察官・弁護士の数が少ないこと、法曹三者でつくる「法曹界」の閉鎖性、法曹三者に相次ぐ不祥事などが、問題視されてきました。こうした問題を招いた原因の一つに、法曹の人材を育てる制度の問題があるとされたわけです。

 たとえば、これまでの制度では、大学法学部や法学科の卒業生が毎年4万5000人もいるのに、司法試験の合格者は1000人弱。平均5年以上の受験勉強が必要とされ、合格者の平均年齢は27歳を超えています。30代の合格は珍しくなく、40歳をすぎてようやく合格する者も少なくありません。

 当然、大学法学部での勉強は重視されず、合格の早道は予備校に通うことだと考えられています。大学教育は研究が中心で、法律の専門家や実務家を養成する役割を果たしていないのです。学生たちは、どんな試験問題が出るかばかりに関心を寄せ、出題されそうなテーマだけを重点的・効率的に学ぶ傾向も強いようです。法律を学ぶプロセスよりも、一発勝負の合否だけが重視されているわけですから、世間の常識に疎《うと》いガリ勉タイプの法律家が育ってしまうのです。

 年輩の裁判官に聞いた話ですが、最近の若い裁判官は、ある事件について「有罪の判決文を書け」といっても「無罪の判決文を書け」といっても、たいへん上手《じょうず》に過不足のない判決文を書く能力があるそうです。ところが、「君、このケースは有罪か無罪か、どう思う?」と聞くと、満足に答えられないというのです。そんな裁判官に裁判をやってほしくありませんね。

 そこで新しい制度では、法学部卒業生(法学既修者)は2年、他学部卒業生や社会人など(法学未修者)は3年、法科大学院に学びます。

 入学には全国一律の適性試験(判断力・思考力・分析力・表現力などの資質を試す)と法科大学院ごとの試験があるほか、学部での広範囲な学業成績や、学業以外または社会人としての活動実績なども総合的に考慮して入学者を選抜します。受け入れ時からガリ勉タイプをはねる方針です。カリキュラムも、少人数ゼミによる集約的教育、短期集中講義、事例研究、討論、調査、現場実習など、法律の丸暗記ではなく実務的な法学学習が導入されます。

66大学5430人

Questionどんな大学が法科大学院を開設するのですか?
定員は何人くらいでしょう?

Answer文部科学省は2003年11月末に、合計66の法科大学院の開校を正式に認可しました。内訳は

国立19、公立2、私立45。主だったところでは東京大(定員300)、京都大(200)、北海道大、一橋大、神戸大、九州大(以上各100。ここまで国立)、東京都立大(65)、大阪市立大(75。ここまで公立)、中央大、早稲田大(以上各300)、慶応義塾大(260)、明治大(200)、同志社大、立命館大(以上各150)、関西大(130)、関西学院大(125)、大宮法科、上智大、日本大、法政大(以上各100。ここまで私立)など。定員の合計は5430人です。

 子ども数が減っていることから大学は「冬の時代」といわれ、学生の獲得競争や生き残り競争が熾烈《しれつ》を極めています。法科大学院を併設していないと「格下の大学」と見られかねないという思惑から、各大学は競って設立認可を申請しました。とくに国立大学は、2004年から法人化される(国の直営でなくなる)ため、改革の柱として法科大学院を重視しているところが多いようです。

 ただし、大手司法試験予備校との連携や協力を打ち出すなどした四つの私立大学が、準備不足や、予備校への「丸投げ」で法科大学院の理念実現が困難などの理由で不認可。また、大阪大学と専修大学は、教員数が足りないなどの理由で保留(再審査を受ければ認可される見込み)でした。

 法科大学院は、キメ細かい実務的なカリキュラムを組み、学生に対する教員の人数も多いので、学費は高くなる傾向にあります。しかし、国立が年78万円、私立が100〜110万円程度と、各校赤字覚悟で比較的低水準に抑えており、優秀な学生を集めるための授業料免除制度も導入しています。大学間の教員の引き抜き合戦も活発に行われ、教員定数はなんとか満たせたものの高齢者ばかりそろってしまったという大学もあるようです。

企業内も町の弁護士も増える

Question法科大学院が一般化し、卒業生も増えると、
社会はどう変わっていくでしょうか?

Answer現在、日本の弁護士数は2万人をちょっと超えた程度ですが、2018年の法曹人口は5万人程度(その多くが弁護士)というのが一つの目安です(司法制度改革審議会が2001年6月に出した意見書から)。

 弁護士の数が増えれば専門化が進み、よりキメ細かい法律サービスが受けられるほか、企業が弁護士を抱えるケースが増え、人びとに身近な町医者(かかりつけの医者)のようなイメージの弁護士も増えるだろうと考えられています。外国人弁護士が日本人弁護士を雇用できる制度改革も1〜2年後に予定されており、アメリカ流の大規模弁護士事務所が日本に上陸してくるかも知れません。

 日本では「裁判沙汰」《さいばんざた》という言葉があり、裁判に訴えるのも訴えられるのも、あまりよいことではないという考えが主流ですね。しかし、これまでよりは弁護士のアドバイスを受けやすくなったり、トラブル解決に裁判を利用しやすくなるでしょう。

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