更新:2006年9月30日
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法テラス

●初出:月刊『潮』2007年2月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

司法改革の一環

Question「法テラス」という言葉を聞きました。
どういうことですか?

Answer「法テラス」はある組織の愛称です。正式な名称は「日本司法支援センター」といいます。

 司法とは、裁判や、裁判に関連する国の働き全体のこと。現在の司法制度は、第二次世界大戦に敗れた日本が新憲法をつくって再出発したとき、できたものです。しかし、戦後60年以上たって、さまざまな問題点が指摘されています。

 たとえば、裁判にとても長い時間がかかること、裁判長期化の原因でもある裁判官・検察官・弁護士(まとめて「法曹三者」)の数が少ないこと、法曹三者の閉鎖性や相次ぐ不祥事などですね。

 司法は立法・行政と並ぶ国の三大権能の一つで、それぞれを担う裁判所・国会・内閣が互いに他をチェックする「三権分立」は近代国家の基本原則のはず。しかし、日本で国民が国を訴える裁判は、地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所と進むにつれて、たいてい国が勝ち、国民が負けてしまいます。三権分立がうまく機能しているように見えないことも、日本の司法がかかえる大きな問題です。

 「裁判沙汰《ざた》」と聞くと「常識で解決できないみっともないこと」「世間体《せけんてい》の悪いこと」というイメージがあるでしょう。これは、人びとと裁判との距離が遠く、裁判所が国民にとって近寄りがたい場所になってしまっている表れともいえます。

 そこで、日本では司法改革が叫ばれ、弁護士の数を増やすロースクール(法科大学院)が2004年4月からスタートしました。一般の国民を裁判に関与させる裁判員制度も2009年5月までに開始することが決まっています。

 法テラスは、これら司法制度改革の一環として、裁判や法律と国民との距離を近づけるためにつくられた組織です。法テラスという愛称には、「法で社会を明るく照らしたい」「国民みんなが陽あたりのよいテラスのように安心できる場所にしたい」という思いが込められているわけです。

電話で情報を提供

Question「法テラス」は、具体的に
どんな仕事をするのですか?

Answer法テラスは、「総合法律支援法」という法律に基づいて2006年4月、政府の全額出資によって設立された公的な法人です。2006年10月2日から業務を開始しています。

 総合法律支援法の基本理念を定めた第二条には、「あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して」と書いてあります。これを目的として、法テラスがおこなう主な業務は、次の五つです。

  1. 情報提供業務
  2. 民事法律扶助業務
  3. 犯罪被害者支援業務
  4. 司法過疎対策業務
  5. 国選弁護関連業務

 順番に説明していきましょう。まず情報提供は、利用者の電話や訪問による問い合わせに応じ、法制度についての情報や、相談機関・団体(弁護士会、司法書士会、地方公共団体、消費者団体など)の相談窓口についての情報を提供します。

 たとえば「知人におカネを貸したが返してもらえない」「訪問販売で高額な商品を買ってしまった」といった法的トラブルに巻き込まれたとき、「どこに相談すればいいのかわからない」と困ったら、法テラスのコールセンターに電話すれば、専門のオペレーターが相談窓口を教えてくれます。

 電話番号は、全国共通で0570‐078374(おなやみなし)。固定電話からは税別3分8・5円、携帯電話からは20秒10円程度、公衆電話からは1分10円の電話代がかかります。PHSやIP電話からは03‐6745‐5600へ。電話受付は平日が朝9時〜夜9時、土曜が朝9時〜夕方5時で、日曜・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日)は休みです。

 法テラスでは、相談したい内容が法的トラブルかどうかわからない場合でも、「お気軽にお問い合わせください」といっています。なお、教えてくれるのは、あくまで「どこに相談すればよいか」です。「実際にどうすればよいか」を教えてくれるわけではありませんから、ご注意ください。

主な問い合わせは?

Questionどんな問い合わせ電話が
寄せられているのですか?

Answer2006年12月4日〜9日(月曜〜土曜)に、コールセンターが受け付けた電話の総数は4704件。うち男性から2221件、女性から2448件で、性別不明が35件でした。

 主な相談の内容と件数は、金銭の借り入れ1037件、男女・夫婦501件、相続・遺言261件、民事法律扶助260件、金銭の貸し付け141件、借地・借家121件、その他(生活上の取引)108件、各種裁判手続106件、情報提供100件、犯罪被害者79件となっています。

 以上のような相談についてコールセンターでは、法テラス地方事務所(主に民事法律扶助関係)、弁護士会、司法書士会、市役所または区役所、都道府県庁、消費生活センター、社会福祉法人社会福祉協議会、女性センターや男女共同参画センター、日弁連交通事故相談センターなどを紹介しました。

 昼の12時台、夕方5時以降、土曜日に電話すれば、比較的つながりやすいようです。

情報提供以外の業務も

Question「法テラス」の情報提供以外の
業務を教えてください。

Answer民事法律扶助は、資金的な余裕のない人が裁判を利用しやすくするため、無料の法律相談、弁護士や司法書士の紹介、報酬や実費の立て替えをすること。資力を証明する書類を提出し審査を受けなければなりませんが、必要な手続きや実際に出向く法テラスの地方事務所を教えてくれます。問い合わせの電話番号は、情報提供と同じです。

 犯罪被害者支援は、犯罪の被害を受けた人や家族などに対して、訴える刑事手続きの紹介、損害や苦痛を回復・軽減する制度の紹介、支援団体の紹介、犯罪被害者支援に精通する弁護士の紹介などをおこないます。問い合わせの電話番号は、全国共通で0570‐079714(なくことないよ)です。

 司法過疎対策は、身近に弁護士など法律家がいない地域の解消を目指す業務です。

 日本の地方裁判所は都府県に一つずつ、北海道に四つあり、それぞれにいくつかの支部があります。この支部単位で見ると法律事務所が三つ以下の「第一種弁護士過疎地域」は全国に96か所(2006年9月現在)。このうち弁護士がゼロか一人だけという「ゼロワン地域」が39か所もあるのです(同年10月現在)。AさんとBさんが争う裁判は弁護士が二人必要ですから、ゼロワン地域では地元弁護士を頼む裁判を開くことができないわけです。

 この近代国家とも思えない状況を改善するため、法テラスでは新潟県佐渡、長崎県壱岐、鹿児島県鹿屋、北海道江差、高知県須崎、鳥取県倉吉に地域事務所を開設。取り組みはまだまだこれからです。

 国選弁護は、刑事事件で起訴された被告人が貧困などによって自分で弁護人を頼めないとき、本人の請求か裁判官の職権で裁判所が弁護士を選任する制度。2006年10月から、起訴前の被疑者段階でも国選弁護人をつけることができるようになりました。

 法テラスは、国選弁護人を務める意思のある弁護士との契約、国選弁護人候補の指名と裁判所への通知、報酬・費用の支払いなどをおこないます。

 ただし、法廷で対決する相手側に指名を任せることへの弁護士側の警戒が強く、目標60人の常勤弁護士は3分の1しか集まりませんでした。法テラスの今後には、課題が少なくないようです。

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