更新:2006年9月30日
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遺伝子組み換え食品

●初出:月刊『潮』2001年10月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question「遺伝子組み換え食品」のニュースを見ました。
どういうものですか?

Answer生物の姿形や性質が親から子へ伝わること、つまり「遺伝」という現象は、昔からよく知られていますね。赤い花から取った種をまくと赤い花が咲くとか、親子で顔がそっくりというのは、その証拠です。

 しかし、実際に親から子へ伝わって遺伝を起こす物質の正体は長いことわからず、ただ「遺伝子」とだけ呼ばれていました。

 現在では、遺伝子の正体はDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる物質であることがわかっています。すべての生物のすべての細胞にはDNAが入っています。DNAはアデニン、チミン、グアニン、シトシン(以下A、T、C、Gと略)の四つの化学物質(塩基)が、GCAGTGAGC……とたくさんつながった鎖《くさり》状で、しかも2本1組のらせん(二重らせん)をなしています。その配列や長さは生物の種によって違い、同じ人間でも民族や個人によって少しずつ異なります。

 細胞が分裂するときは、DNAの二重らせんがほどけ、それぞれが鋳型となって周囲の物質を集め、自らを補《おぎな》うもう1本のDNAを作ります。こうして複製された2組のDNAが、分裂した二つの細胞に入るわけです。

 遺伝子やDNAは、生物の体や機能に関する全情報を収めた「生命の設計図」といえます。生物が分裂を繰り返して成長するのも、生物の体を形成するタンパク質をつくるのも、すべてGCAGTGAGC……という配列や長さで決まってきます。手足は4本で指は5本ずつ、目は二つで二重まぶたといったことも、DNAのどこかにA、G、C、Tという四つの記号を用いた情報として蓄えられているわけです。人間のDNAはA、T、G、Cの4文字をのべ三十数億個も使って書かれているのです。

遺伝子組み換え技術とは?

Question遺伝子組み換えは、
GCAGTGAGC……という配列を組み換えるわけですね?

Answerそうです。実は、遺伝子の配列や長さは、何億年もの長い時間をかけて自然に変化してきました。陸上生物だったクジラが海の中を泳いでいるのは、100万年前とはDNAが違っているのです。300万年ほど前にアフリカ大陸に住み、人類の直接の祖先と考えられているアウストラロピテクス(猿人)のDNAと現在の人類のDNAも違っています。

 放射能を浴びたり、紫外線を浴びたりして、遺伝子の組み換えが起こることもあります。交配を繰り返す農作物の品種改良でも、遺伝子の組み換えは起こります。

 それが現在では、遺伝子工学(バイオテクノロジー)という技術によって、人工的に生物の遺伝子を組み換えることが可能になりました。DNAの鎖は、酵素と呼ばれるタンパク質によって、特定の箇所で切ったりくっつけたりできます。酵素をハサミとノリのように使って、細菌などのDNAの一部を切り取り、配列を変えてもとの生物のDNAに戻したり、異なる生物のDNAに組み入れたりできるのです。

 たとえば、ある細菌が特定の除草剤の成分を分解する性質をもっているとします。この細菌のDNAからその性質を発現する部分を切り取り、別の植物のDNAに組み込めば、除草剤の成分を分解する――つまり除草剤に強い作物を作り出すことができるわけです。

 自然に起こる遺伝子組み換えと大きく異なるのは、種の壁を越えて他の生物に遺伝子を入れることができること。また品種改良と異なるのは必要な時間が大幅に短縮できることです。

 こうして最近、とりわけ農作物分野での遺伝子組み換え技術が急速に進みました。しかし、直接私たちの口から体内に入る可能性があるだけに、遺伝子組み換え食品の安全性を懸念する声が高まってきたのです。

遺伝子組み換え食品とは?

Question遺伝子組み換え技術を使った食品には、
どんなものがあるのですか?

Answer大きく分けると、農作物と食品添加物(酵素)の二つがあります。後者は、たとえばチーズの製造に使う酵素を作るDNAを微生物に組み入れて生産するような場合。組み換えた遺伝子は最終的な製品には含まれないので、ここでは除外して考えることにします。

 農作物では、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、ダイズ、テンサイ、ワタなど主としてアメリカで生産されているもの。遺伝子組み替え技術によって除草剤耐性や害虫抵抗性をつけた作物がほとんどです。

 除草剤耐性については説明しましたが、害虫抵抗性の仕組みはこうです。土壌中のある細菌が作り出すタンパク質を昆虫が食べると、虫の消化管の表面にタンパク質が付着し、腸管を破壊してしまいます。この細菌のDNAの一部をトウモロコシのDNAに組み入れると、トウモロコシを食べた虫が死ぬようになります。

Questionそんなトウモロコシを人間が食べても、
本当に安全なのですか?

Answer遺伝子組み換え技術によって除草剤耐性や害虫抵抗性をつけた農作物が、以前の農作物と異なるのは、新しく導入された遺伝子と、それが作り出すタンパク質が加わるという点です。

 問題は、これらのタンパク質が人間の体にどう影響するかですが、タンパク質はまず調理や加工などの熱処理によって分解されます。体内に入ってからは胃液中の消化酵素によって分解されます。十分消化されなかった場合でも、たとえば昆虫を殺すタンパク質は、昆虫の腸管だけに付着し、人間の腸からは吸収されないと考えられています。

 また、これらの農作物を飼料として育った牛や豚の肉、牛乳、ニワトリの卵も、同じような理由から安全だろうと考えられています。

 もっとも、卵や牛乳やダイズが食べられないといったアレルギーを持つ人は珍しくありませんから、新しく加わったタンパク質が、すべての人にまったく影響がないとはいえません。

表示制度がスタート

Question私たちが実際に購入する食品に、遺伝子組み換え作物が入っているかどうかは、
どうすればわかりますか?

Answer2001年4月から国(厚生労働省)の安全性審査を受けていない遺伝子組み換え食品、またはそれを原材料に使った食品の輸入・販売が禁止されました。同時に遺伝子組み換え食品の表示制度もスタート。対象はダイズ、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ、綿実の5種類の作物とその加工食品。ただし、生食用の場合はすべてが表示対象ですが、加工食品では豆腐、みそ、ゆば、ポップコーン、コーンスナック菓子など24品目で、遺伝子組み換え作物が原材料の上位3品目に入り、重量比で5%以上を占める場合に限られます。

 表示は「遺伝子組み換え」、「不分別」(流通段階で組み換え・非組み換えを分別していない)のいずれかで、表示がないものは遺伝子組み換え作物を使っていない(「非組み換え」と表示してもよい)もの。なお、植物油、しょうゆ、コーンフレークなどは製造過程でタンパク質が分解するため、遺伝子組み換え作物を使っているかどうかわからず、表示の対象外です。

 問題は、原材料の4品目目とか重量比5%未満ならば「非組み換え」扱いになってしまうこと。遺伝子組み換え作物を一切口に入れたくなければ国産品を選び、スナック菓子の類は避けたほうがよさそうです。

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