●初出:月刊『潮』2000年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛
携帯電話の「iモード」という言葉を
よく見聞きします。どういう意味ですか?
「iモード」は、NTT系の通信会社NTTドコモが一九九九年二月から始めた新しい携帯電話向け情報サービスの呼び名です。
あとで詳しく説明しますが、このサービスに加入すれば、携帯電話からインターネットに接続でき、さまざまなホームページにアクセスしたり、電子メールをやりとりできるほか、各種のオンラインサービスを受けることができます。
利用するには、まずiモード対応の携帯電話機を手に入れなければなりません。これは、見た目は普通の携帯電話とほとんど変わりませんが、大型の液晶画面(カラーの機種もある)が付いており、数十〜百文字程度を表示することができます。定価は三万数千〜四万円以上とかなり高いものの、量販店では一万数千〜二万円前後で手に入ります。
iモードを使うときは、携帯電話の基本料金のほか、月額三〇〇円の使用料、求める情報によって異なる情報料がかかります。もちろん普通の携帯電話として使えば、それに応じた通話料がかかります。これらの料金は毎月一括して口座から引き落としになります。
ところで、NTTドコモは、このサービスの加入者を最初の一年間で三〇〇万人と見込んでいました。しかし予想以上の爆発的な人気で、二〇〇〇年二月末時点での加入数は四二〇万以上に達しました。同社の立川敬二社長は、「iモードの契約数は年末までに一〇〇〇万に達するだろう」と強気の見通しを述べています。
いま、「IT革命」(ITはインフォメーション・テクノロジー、つまり情報技術)が叫ばれ、パソコンやインターネットが持てはやされていますが、日本はアメリカに大きく遅れているともいわれます。しかし、インターネットに接続できる携帯電話が数百万も普及している国は、日本以外どこにもありません。
iモードは情報端末としての携帯電話、あるいは超小型パソコンとしての携帯電話の、新しい可能性を示すものといえるのです。
実際にどんなことができるのか、
もっと詳しく教えてください。
iモードの基本サービスは、第一に「モバイル・バンキング」(移動銀行、どこでも銀行といった意味)や、チケット予約などの取引サービス。
普通は銀行のキャッシュ・ディスペンサーまで出向かなければならない銀行振込、振替、残高照会などが、携帯電話からできます。これにはiモード情報料はかからず、銀行への手数料だけがかかります。口座を持つ個人を対象に外貨両替サービスを始めた銀行もあります。携帯電話で申し込み、手数料数百円を払えば、外貨やトラベラーズ・チェック(旅行小切手)が自宅に届きます。
全国のイベント・チケットの検索や予約もできれば、飛行機のチケットを取ることもできます。書籍、ビデオ、CD、ゲーム機やゲームソフトの予約や購入も可能です。
第二に、百科事典や辞書の検索、レストランの検索、電車の乗り換え・接続案内といったデータベース・サービス。出版社や旅行社によるサービスで、無料のものが多いようです。
第三に、ニュース、天気予報、求人情報、株価情報、引っ越し見積もりといった生活情報サービス。たとえば日本経済新聞社の日経ニュースは、一〜二時間ごとにニュースを配信するサービスで、情報料は月額三〇〇円です。
第四に、カラオケの新曲情報や、サーフィンスポットの波情報、ゲーム、占いなど、さまざまなエンタテインメント・サービス。情報料は月二〇〇〜三〇〇円程度が多いようです。
月一〇〇円の情報料でカラオケの歌詞を何曲でも携帯電話に取り込めるというサービスもあります。いわゆる「着メロ」(電話がかかってきたときに流れる着信メロディ)や、携帯電話の画面に出すキャラクター(ハローキティやウルトラマン)を日替わりで送ってくるサービスも、若者たちにウケています。
なかなか便利そうですね。
どのような仕組みなんですか?
いま紹介したサービスは、それぞれの携帯電話からiモードのサーバー(ここではNTTドコモのコンピュータと考えてください)に電話がつながり、そこからオンライン(専用線)またはインターネット(電話回線でつながれたコンピュータのネットワーク)を介して企業のコンピュータにつながって、情報をやりとりします。
iモードの携帯電話を操作するとメニューが現れ、そこからボタンで選ぶだけで、たとえば銀行の各種サービスを受けることができます。
一方、携帯電話がインターネットにつながっているのは、世界中のコンピュータにつながっているということですから、携帯電話からコンピュータを介して別の携帯電話にメッセージを送る電子メールも、簡単にできてしまいます。アドレス(電話番号のような識別記号)さえわかれば、業者や個人が好き勝手に開設したホームページにも接続できるのです。
こうしたことは、電話回線とつないだパソコンで簡単にできますし、ノートパソコンならば外出先でも可能です。しかし、パソコンには英語のキーボードが付いていますから、慣れない人には無理。これが、日本でインターネットがいまひとつ普及しない最大の理由でした。しかも、安いパソコンで一〇万円前後、普通は二〇〜三〇万円はします。
これに対してiモードは、携帯電話を「通信と表示機能だけを備えた超小型パソコン」として使い、肝心の情報は世界中のコンピュータにまかせてしまうという"逆転の発想"の賜物なのです。
外回りの営業マンにiモードの携帯電話を持たせる、という企業も増えています。たとえば保険の外交員がお客と会いながら、携帯電話に年齢、家族構成、必要な保障額などをを打ち込んでいけば、毎月の支払額や払い込み総額がその場でわかるという仕組みです。
iモードに課題があるとすれば、
どのようなことでしょう?
これはiモードに限らず、携帯電話や普通電話にもいえることですが、まず電話としての通話料が高すぎます。いま、アメリカは日本政府にNTTの通話料を値下げせよと、強く働きかけていますが、もっともな話だと思います。
電話は電力やガスなどと同様、半ば役所に近い特殊な企業が長いこと独占してきたため、まだまだ競争原理が働いておらず非効率で、料金が極めて高いのです。これをなんとかしないと普及の足枷《あしかせ》になりかねません。
iモードで利用できるサービスが増えてくると、自分が必要とするものにたどり着くまでに時間と手間がかかります。こうした操作性の向上も、課題の一つでしょう。
またiモードは、情報料を通話料などと一緒に引き落とすシステムで、実際使っている時に料金がわかりにくいため、利用する人は注意が必要です。好き放題に使ったら、思いもしない高い料金を取られたということにならないように、くれぐれもご注意を。
「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 2000-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.