更新:2008年8月16日
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ISO(国際標準化機構)

●初出:月刊『潮』1999年9月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question最近ニュースで「ISO14000」といった言葉(記号?)を
見聞きします。どういう意味ですか?

AnswerISOは、普通「イソ」または「アイエスオー」と読みます。「International Organization for Standardization」、つまり国際標準化機構の頭文字です。

 標準は「物事のよりどころとなる目印」という意味で、標準化とはその目印を統一のものとして打ち出すこと。言い換えれば「統一規格をつくる」ということです。ISOは、工業製品などの国際的な規格を制定し普及させるための機関なのです。

 たとえば、「ねじ」を考えてみてください。この便利な部品は、紀元前四〜三世紀ころギリシアで使われ始めたといわれ、現在もあらゆる機械や構造物に使われています。大量に使用される基本的な部品ですから、工場や会社ごとにバラバラのねじを使うと、製造や修理にとても不便ですね。そこで、早くから規格化が進められました。

 ねじの最初の規格は、産業革命を成し遂げたイギリスで一八四一年に制定されたウイットねじです。一八九四年にはフランスがメートルねじをつくり、その五年後にフランス、ドイツ、スイスの三国がこの規格を採用しました。

 二十世紀に入ってますます工業化が進み、輸出入や技術移転など国際取引も活発になってくると、ねじに限らずさまざまな製品の規格統一が必要になります。そこで、一九二六年に万国規格統一協会が創設され、第二次世界大戦によって機能が停止するまで活動を続けました。

 これを前身として一九四七年に発足したのがISOです。ISOは非政府機関で、各国を代表する規格機関が会員として加盟する仕組み。日本からは日本工業標準調査会(JISC)が加盟しています。本部はジュネーブに置かれ、会員は一二〇か国以上の機関です。

 ISOの姉妹機関に一九六六年に発足した国際電気標準会議(IEC)があり、電気・電子分野はIECが、その他の鉱工業分野はISOが担当することになっています。

 なお、ねじの規格については、一九四八年にアメリカ、イギリス、カナダがユニファイねじを作りました。最初は軍需品専用でしたが、やがて広く普及し、ISO規格にも採用されました。これをISOインチねじと呼びます。その後一九五八年にISOが推奨規格として定めたのがISOねじ(ISOメートルねじ)で、インチ制からメートル法に移行する国が増えるにつれて、広く使われるようになりました。

国際規格はISO、国内規格はJIS

Question国内規格と国際規格の関係は、
どうなっているのですか?

Answer日本の鉱工業製品の国内規格は、JIS規格(日本工業規格)と呼ばれています。

 JISは「Japanese Industrial Standard」の頭文字で「ジス」と読みます。JISは工業標準化法に基づいて、日本工業標準調査会の審議をへて、通産大臣や運輸大臣など主務大臣が定める国家規格。鉱工業品や構造物の品質の改善、生産能率の向上や生産の合理化、取引の単純公正化、使用や消費の合理化、公共の福祉の増進などを目的としています。

 JISマーク表示制度という認証制度も設けられており、これは製造業者や加工業者が主務大臣の許可を得て、JISに適合していることを示すJISマークを製品やその包装などに付けることができるもの。

 身近な製品でいえば、JISマークの付いているものさしは、付いていない製品よりも精度が高いと考えてよいのです。JISマークを付けた製品の製造工場は、申請の際に品質管理方法やその他の技術的条件について詳しい審査を受けなくてはならず、許可が下りた後も立ち入り検査があります。

 JISと似た制度にJAS規格(日本農林規格)があります。「ジャス」と読み、こちらは農林物資、畜産物、水産物、それらの加工品や製造品が対象。この規格に基づいて検査が行われた製品にはJASマークが付いています。農畜産物や水産物については、魚を生で食べる国国もあれば、カビのかたまりのようなチーズを好んで食べる国もあって、国際的な規格化にはなじみませんから、ISOに当たる機関はありません。

 こうした国内規格と国際規格の関係は、日本の規格を国際規格にできるだけ合わせていくというのが基本です。ですから、JIS規格としてISO規格をそのまま採用する、あるいはほとんど参考にするという場合が少なくありません。ただし、日本にしかないもの(たとえばワープロで表示する漢字やかなの規格)や、日本と外国で異なるもの(たとえば新聞巻取紙の寸法や強度などの規格)は、JIS規格はあってもISO規格はありません。

「ISO14000」とは何か?

Question「ISO14000」と数字が付いているのは、
どういうことですか?

AnswerISOの次にくる数字は、規格の通し番号です。ISOねじの規格もISOフィルムの規格も、ISO何番と通し番号が付いているのですが、わざわざ番号付きで呼ばれるようになった最初のものは「ISO9000」シリーズでしょう。

 これは、一九八七年にISOが企業の品質管理について定めた規格。たとえば経営者の項目では、会社として品質管理についての考え方や社員の教育方針がきちんと定められているか、それを文書化して徹底しているかなどが問われます。経営姿勢から製造工程、検査、出荷、アフターサービスまでそれぞれの段階ごとに、品質管理方法が規格化されているのです。日本では日本品質保障機構が審査し、ISO9000の規格通りに品質管理ができていれば認定証を出します。

 一九九六年に定められた「ISO14000」シリーズは、企業が環境に配慮した経営を進めているかどうかを示す国際規格です。環境問題に対する方針の決定、それを実現するための組織と計画、目標の達成度などを調べる内部監査、監査結果を反映した計画の見直しなどについて細かく定めてあり、日本環境認証機構が審査して認証します。

ISOの認定取得が取引条件にも

QuestionISO9000や14000は企業の管理体制や
経営姿勢についての規格なのですね?

Answerその通りです。ネジの場合は規格通りに製造すればISO規格に合いますが、ISO9000やISO14000は、ただ製品が高品質ならばよいというものではありません。品質管理の体制や、環境への負荷を少なくする経営姿勢そのものが問われているわけです。

 これはもちろん強制ではありませんが、欧米メーカーの中にはISO9000や14000の認定取得を取引先の条件にする、国際入札でISOの認定取得が入札参加資格となる、といった例が増えています。日本企業は輸出や海外現地生産に熱心ですから、こうした認定を受けることが、一種のブームのようにすらなっています。現在、ISO9000は一万件近く、14000は二〇〇〇件余り(いずれも工場や事業所単位)が認定を受けたと見られています。ISO14000については、大分県や大阪府など認証を受けた自治体も増えてきました。

 もっともこうした規格は、取ればそれで終わりというものではありません。いくつもの工場がISO14000を取得した大手電機メーカーでは、移転が予定されていたために申請しなかった工場で地下水汚染が発覚しました。他の工場がいくら認証を受けても、これでは意味がありません。また無理をして認証を受けたものの、その後の作業が大変で認証を返上したいと考え始めた企業もあります。これらの規格は「目標」ではなく、品質管理や環境保護の「手段」にすぎませんから、そこは混同しないでもらいたいものです。

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