更新:2006年9月30日
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人口減少社会

●初出:月刊『潮』2006年3月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

ついに人口減少社会に突入!!

Question日本の人口が減り始めたそうですね。
この問題について教えてください。

Answer厚生労働省は2005年12月に「人口動態の年間推計」を公表しました。これは日本に住む日本人の人口を、人口動態統計速報・月報などを基礎資料として推計したものです。

 同推計によると、2005年の1年間に生まれた赤ちゃんは106万7000人で、亡くなった人は107万7000人。出生数から死亡数を引いた自然増加数はマイナス1万人で、統計を取り始めた1899年以来初の「自然減」となることが、ほぼ確実になりました。日本に住む外国人を含めた総人口もマイナス4000人と見込まれています。

 日本の総人口は、江戸時代には3000万人前後でほぼ一定しており、明治時代に入ってから急激に増え始めました。1967年には1億人を突破し、2004年(10月1日)は1億2768万人でした。2005年は、これをほんのわずかですが、下回ることになります。

 ようするに、日本の人口は2004年をピークとして減少し始め、日本は「人口減少社会」に突入したのです。これは日本が近代国家として歩み始めて初めて経験する歴史的な転換点であり、日本人の民族としての大きな節目ともいえるでしょう。

 なお、厚労省統計情報部によると「推計値と翌年9月頃に公表する確定値は、例年、数千〜1万人の差がある。最終的にプラスとなる可能性もある」とのこと。もっとも誤差が最大だとしても、マイナス分を打ち消して伸びがゼロになるだけですから、人口が頭打ちになったことに変わりはありません。

 実は国立社会保障・人口問題研究所では、これまで「ピークは2005年。自然減は2006年から」と予測していました。予想より1年早く自然減が始まってしまったのは、インフルエンザの流行で死亡数が増えたことと、1970年代前半生まれの「団塊ジュニア」を親とする出生数があまり伸びなかったことが理由だと考えられています。

人口減をもたらした少子化

Questionいったい何が日本に
人口減少社会をもたらしたのですか?

Answer仮に、日本人の寿命を一定とし、日本中の男女二人が適齢期になれば必ず結婚して、二人の子どもが生まれ、その状態が何十年も続くとすれば、人口は変わらないはずでしょう。二人が新しい二人に入れ替わり続けるわけですからね。

 ところで日本人の寿命(正確には0歳の者が何歳まで生きるかを示す「平均余命」)は、1970年に男69・31歳、女74・66歳だったのが、2004年には男78・64歳、女85・59歳と、着実に伸びています。ということは、二人が新しい二人に入れ替わり続けているなら、長生きする高齢者の分だけ人口は少しずつ増えるはず。

 しかし、現実には日本の人口は減り始めました。これは、男女二人が新しい二人に入れ替わっていないから、つまり新しく生まれてくる赤ん坊が少ないからだ、ということになります。一言でいえば、人口減少をもたらしたのは少子化なのです。

 少子化問題でよく使われる指標に「合計特殊出生率」というものがあります。これは、女性の年齢別出生率(たとえば30歳の女性が100万人いて、彼女たちから10万人の子どもが生まれたら、10万÷100万=0・1と計算します)を15〜49歳にわたって合計したもの。女性が自分の年齢別出生率通りに子どもを産んだと仮定すれば、これは生涯に産む平均の子どもの数と等しくなります。

 ですから大雑把にいえば、合計特殊出生率が2であれば、人口は維持されます。実際には、途中で亡くなる分を埋めるのと、生まれてくる赤ちゃんは男のほうが5〜6%多いことから、2003年時点で2・07が必要でした(合計特殊出生率が2だと、100組の夫婦から男女100人ずつではなく、男102〜103人・女97〜98人という割合で子どもが生まれるため、女性が親の世代よりも減り、人口は減ってしまう)。

 ところが、日本の合計特殊出生率は、敗戦直後のベビーブーム時代(1947〜49年)に4・5〜4・3あったものが、1975年から2を割り込んでどんどん低下し、2003年には1・29にまで落ち込んでしまいました。日本のように女性の出産年齢が高くなっている場合は、実際に女性が産む子どもの数は合計特殊出生率よりも大きくなるとされていますが、それでも1・3前後という数値は、日本の将来が大いに危ぶまれる低さです。

少子化を招いた背景は?

Questionでは、人口減少社会の元凶である
少子化の原因は何でしょう?

Answer思いつくままに列挙してみましょう。まず非婚化――結婚しない男女が増えていること。晩婚化――結婚年齢が高くなっていること。少産化――子どもを持たないか、持っても一人か二人までに限る夫婦が増えていること。

 これらの背景には、高学歴化、女性の社会進出、ライフスタイルの多様化、趣味や娯楽の増大、性別による役割意識の希薄化、パートやフリーターなど非正規労働者の増加、束縛を受けず自由気ままな生き方を重視する風潮などがあります。

 働く女性に厳しいビジネス環境(長時間労働や残業など仕事と出産・子育てを両立しにくい)、男性の子育て意識の低さ、それを助長するビジネス環境(単身赴任、残業、持ち帰り仕事など)といった企業や「男社会」の問題もあるでしょう。

 核家族化(夫婦が子育てを助ける親と一緒に住まない)、住宅の狭さ(高い家賃や土地代)、近所付き合いの希薄化(孤独な都市生活者の増加)、乳幼児を預ける保育所不足、学童を預ける施設不足、育児を支援する公的体制の不備、高い教育費、受験戦争、学校教育への不信なども、子育てへの不安をかきたてて、少子化の理由となります。

 もっとも大きな理由は、バブル崩壊以降長く続いた不況と閉塞感の中で、若い世代がなんとなく将来に夢や希望が持てず、こんな世の中に苦労して子どもを産み出す意味があるのかというような気分を、漠然《ばくぜん》と抱いていることかもしれません。

人口減少社会をどうする?

Question人口減少社会に、私たちは
どう対処していけばよいのですか?

Answer人口が減少し始めた社会で、以前より栄えた国は、歴史上存在しないという話もあります。

 少子化と高齢化をともなう人口減少社会では、労働人口、とりわけ若い労働力が縮小する一方、高齢者が増えて年金、医療、介護など社会保障費が増大します。2050年の人口ピラミッド(中央に年齢を刻んだ縦軸を立て、左右に男女の年齢別人口を棒グラフで描き入れた図)を見ると、ベーゴマを下のほうで切ったような頭でっかちの形をしています。若い世代は、はるかに人数の多い、あまり働かない高齢層を支えなければなりません。

 親より子の人数が少なければ、住宅も道路も鉄道もトンネルもダムも発電所も、現在の数以上には要《い》らないかもしれません。すると経済は縮小再生産という負のスパイラルに落ち込んでしまいます。

 ですから、どこかで少子化に歯止めをかける必要があります。出生率が上向いても、労働力が増え始めるのは20年以上先ですから、対策はただちに講じるべきです。育児・児童手当の拡充、出産支援はもとより、少子化の原因として掲げた諸問題を取り除いていく国民的、国家的な努力が必要でしょう。

 産むか産まないか、結婚するかしないかは、あくまで個人の自由ですが、少なくとも「産みたいが産めない」「結婚したいのにできない」という人の数は減らさなければなりません。子どもが二人、三人と増えるほど補助金が増額され、子どもがいると楽で得になるような、思い切った施策も検討すべきではないでしょうか。

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