更新:2008年8月6日
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花粉症

●初出:月刊『潮』1995年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question今年は花粉症の当たり年だと聞きました。
発病の仕組みや対策について教えてください。

Answerはい。後ほど詳しく説明しますが、花粉症はスギの花粉によって引き起こされる鼻の病気です。学会に報告されたのは三〇年ほど前。その後、戦後に植林されたスギが成長し花粉そのものが増えたことに加えて大気汚染も影響し、患者の数は増え続けています。

 患者の数や症状がピークを迎えるのは、毎年二月末から四月上旬くらいまで。その程度はスギの花粉の多少によって異なります。一九九四年の春は、九三年の記録的な冷夏の影響でスギ花粉が少なく、花粉症の人もそれほど苦しまずに済みました。しかし、九五年の春は、九四年の猛暑によってスギの花芽の生育が大変よかったため、スギ花粉の飛散量が多くなっています。

 飛散量は、スライド(小さなガラス板)を外に出しておき、実際に飛んできた花粉を数え、一平方センチメートルあたり何個かで表します。九五年の一月ごろには各地で、前年の一〇倍とか二〇倍というスギ花粉が観測されました。雨や寒さで、飛散がいくぶん抑えられる日もありますが、少なかった去年はもちろん、平年よりも多いことは確実。今年は五月ころまで飛び続けると予測する人もありますので、花粉症に悩まされている人はご注意ください。

花粉による鼻アレルギー

Question花粉症は、
どのような病気なのですか?

Answer花粉症は、主としてスギの花粉によって引き起こされる「鼻アレルギー」という病気の一種です。以前はアレルギー性鼻炎とも呼ばれていましたが、症状は鼻炎だけではないので鼻アレルギーという名前のほうがよいでしょう。

 主な症状は、くしゃみ、のどの痛み、鼻づまり、鼻水、目のかゆみ、なみだ目など。そのことによるイライラや、仕事の能率低下、不眠なども起こります。初めて花粉症の症状が出るとき熱を出すケースもあるようです。

 なお、鼻アレルギーには、花粉によって起こるもの以外に、家のほこりの中のダニやそのフン、動物の皮膚や毛などが引き金になるものもあります。

 花粉症の発病の仕組みを知るには「アレルギー」とは何かを理解する必要があります。アレルギーという言葉はギリシャ語から来ており、もとは「変わった反応」とか「変化した働き」という意味。何が「変わった」かというと、花粉症では、今までスギ花粉に何の反応も示さなかった人が、今年の春から突然、花粉症に悩まされ始めたというケースが少なくないのです。同じスギ花粉に対して、人間の体の反応がそれまでとは「変わった」から「アレルギー」と呼ぶわけです。

 なぜ、そんなことが起こるかというと、人間の体にはもともと「抗原抗体反応」と呼ばれる反応が備わっています。たとえば、BCG注射でごく少量の弱い結核菌を体の中に入れてやると、それに反応してある物質ができます。すると、次に同じ結核菌が入ってこようとした時、その物質がたくさん生じて菌をやっつけてくれるようになり、二度と結核にはかかりません。この場合、最初に入れた結核菌を「抗原」、体の中にできた物質を「抗体」と呼びます。抗体は抗原にくっついて、その力が発揮できないように防衛します。

 ところが、この抗原抗体反応が、体に害をおよぼす(病的症状を示す)ようになる場合があります。花粉症の場合がそうで、抗原のスギ花粉に対して生じた抗体が、再び体に入ってきた花粉とくっつきます。これが鼻の粘膜に作用すると、鼻の粘膜からヒスタミンという物質が出てきます。これが、鼻づまりや鼻水などの症状を引き起こすのです。こうした反応を「アレルギー反応」と呼びます。つまり、アレルギー反応は、体を守るはずの抗原抗体反応のうち、過剰に反応しすぎて体に害を与えるまでになったものをいうわけです。

 なお、アレルギー反応を起こす抗原をアレルゲンと呼びます。症状は同じでも、アレルゲンがスギ花粉だったりダニだったりすることは珍しくありません。もちろん、スギの花粉や家のほこりがいくら舞っていても、一向に平気という人もいます。

アレルギーは体質に関係

Question同じアレルゲンのスギ花粉が体内に入るのに、アレルギーを
起こす人と起こさない人がいるのは、どうしてですか?

Answerまず、その人の体質(素因)が深く関係しています。この体質には、遺伝的な傾向があることもわかっています。アレルギー性の体質を持つ人は、全人口の二割くらいといわれています。ぜんそく、じんましん、鼻アレルギー、アトピー性皮膚炎といったアレルギー(のうちどれか一つ)がある人のおよそ半数には、何らかのアレルギーがある家族がいます。アレルギーがない人のうち、アレルギーがある家族がいるのは、およそ一割程度です。

 しかし遺伝に関係があるといっても、アレルギー性の体質を持つ人が、みんながみんなアレルギーになるわけではないのです。

 アレルギーは心理的な側面に左右され、よくなったり悪くなったりすることがあります。生活態度や気の持ちようが関係するのです。「子供は風の子」の反対で、家に閉じこもりがちだったり、過保護でやたらに重ね着させられたりすると、こうした病気は進みやすくなります。ある花の花粉でぜんそくを起こす人が、その花の造花を見ただけで発作を起こしたという例すらあります。マスコミの花粉症情報や、職場や家庭での花粉症の話題が、病気の裾野を広げている可能性も否定できないでしょう。

花粉症の対策は

Question花粉症対策には
どんなものがありますか?

Answerアレルギーでは、アレルゲンに触れないことが、最大の予防であり対策です。そこで、メガネやマスクを着用し、スギ花粉との接触をできるだけ少なくします。目のよい人も、度のついていないメガネをかけるようにするのです。マスクは花粉症用として、二重加工や特殊なフィルター入り、鼻の形に合わせて加工したものなどが市販されています。帽子やスカーフもつけたほうが効果的でしょう。

 室内や車の中ではエアコンや空気清浄器を使うとよいでしょう。説明書通りにフィルターをチェック(清掃)してください。こまめに掃除すること、ふとんや洗濯物をしまう前に花粉やほこりをよく振るうことも大切です。うがい、洗顔、洗髪などもふだんより念入りにしましょう。ある花粉症の女性が「目玉を取り出してタワシでゴシゴシこすりたくなる」といっていましたが、きれいな手で目も洗いましょう。

 薬は、まず医師に相談して予防薬を飲むという手があります。花粉症の症状が出てしまったら、内服薬(カプセルが多いが、ドリンクタイプや顆粒タイプもあります)で緩和します。鼻の穴に差し込んで薬を噴霧する点鼻薬や、目薬タイプの洗眼液もあります。これらの薬は、抗ヒスタミン剤と呼ばれるものが主流です。そのほか薬局には、鼻洗浄器(一種のハッカ水で鼻を洗う)、鼻汁吸い取り器(注射器のようなかたち)なども置いてあります。症状によって、試してみたらいかがでしょう。なお、薬を必要とするほどではないのだがという人は、ペパーミントのガムやアメをお試しください。気分壮快になるだけでなく、軽い鼻づまりや鼻水には効果があるようです。

 最後に「減感作療法」を紹介しておきます。ある抗原に対して体が過敏になった状態を「感作」といいますが、これはその程度を軽くしようという治療法です。花粉症の場合は、スギ花粉の溶液を注射して、体を慣らしていきます。最初は薄い溶液から始めてだんだん濃くしていき、体に抵抗力をつけるのです。症状がひどい人は医師に相談してください。

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