更新:2008年8月6日
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関西国際空港

●初出:月刊『潮』1994年11月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question一九九四年九月四日、関西国際空港が開港しましたね。
その意義や問題点について知りたいのですが。

Answerはい。関西国際空港は、大阪湾南東部の泉州《せんしゅう》沖約五一〇ヘクタールを埋め立てて造られた日本初の海上空港です。本土とは道路や鉄道が走る長さ三・七五キロメートルの連絡橋で結ばれます。当面は長さ三五〇〇メートルの滑走路一本で運用され、空港としての能力は年間離着陸回数で約一六万回。将来はさらに埋め立てを進め、現在のものと平行する滑走路を一本、斜めに走る補助滑走路を一本増設し、年間離着陸回数約二六万回を可能にするという構想もあります。

 運輸省が、関西空港について調査を始めたのは一九六八年。運輸大臣の諮問機関である航空審議会が、伊丹空港(大阪空港)の廃止を前提に泉州沖が最適地であるという答申を出したのが七四年。八四年には、関西空港は成田空港のような公団方式でなく第三セクター方式で運営されることが決まり、関西国際空港株式会社が発足。以後、中曽根民活第一号プロジェクトとして建設が進められました。場所が決まってから開港までに要した期間は二〇年。建設費も膨大で、総事業費は一兆五〇〇〇億円以上に達しています。

二十四時間運営のハブ空港

Question関西国際空港はどんな特徴を
もった空港なのでしょう?

Answer第一の特徴としてあげられるのは、海上空港であるために騒音や公害の心配が少なく、二十四時間の運営が可能なことです。市街地に近い伊丹空港は騒音問題が深刻で、夜間の発着が制限され便数を増やせない、騒音対策に費用がかかるといった欠点がありました。

 しかし、二十四時間運営ができれば空港の能力をフルに活用できます。日本ではなくたとえばアメリカで都合のよい時間に合わせて、飛行機が発着できますし、夜間の利用が多い貨物専用便も増やせます。国際線の中継地として利用するにも、二四時間運営は不可欠な条件です。

 第二に、国際線と国内線がともに乗り入れ、乗り継ぎに便利な空港だということです。ニュースなどで「ハブ空港」という言葉を聞かれたことがあるかと思いますが、ハブとは自転車の車輪の中心にある円筒状の部分のこと。自転車は、このハブから放射状にスポークが伸びてタイヤを支えていますね。関西空港は、このハブの役目、つまり拠点・中継地の役目が期待されているのです。

 たとえば、札幌の人が成田空港からヨーロッパ行きの国際線に乗ろうとすれば、まず国内線で羽田へ行き、羽田からリムジンバスで成田へとなります。この所要時間は三時間一五分。しかし、国内線で関西空港まで行き、そこで国際線に乗り継げば、一時間五五分ですみます。以上は国内の場合ですが、たとえば韓国から関西空港に行き、そこでアメリカ行きに乗り換えるケースも考えられます。こうした利用が増えれば、関西空港は「国際ハブ空港」としての役割を果たすことになります。

四二か国が乗り入れに合意

Question開港後の利用状況は
どうなっていますか?

Answer政府間の航空交渉によって、開港までに関西空港への乗り入れに合意した国は四二か国ありました。ベトナム、ブルネイ、ネパール、モンゴル、南アフリカなど九か国は、初めて日本との直行便で結ばれます。こうした国は、日本への乗り入れを希望しながら、成田空港や伊丹空港の能力が限界に達したため待たされていたのです。もっとも、四二か国すべてが初めから飛行機を飛ばすわけではなく、開港時点で乗り入れたのは二一か国となっています。

 航空会社の数でいうと三〇社、便数では週三三九便の就航が予定されています。成田空港が週一〇〇〇便ですから便数はおよそ三分の一。関西空港会社が目標としていた週六三〇便の半分程度ですから、まだまだ少ないようです。

 一方、国内線については、二四の空港と毎日六七便で結ばれています。こちらは関西空港会社の目標をほぼクリアできたようです。国際線は廃止し国内線だけとなった伊丹空港と比べると、関西空港は北海道、東北、九州など比較的遠い空港からの乗り入れが多くなっています。西日本をはじめ、成田へのアクセスが悪い地域から海外に出るのに関西空港を利用するという人が、今後は増えるでしょう。

 また、関西から海外へ旅行する人(年間約二〇〇万人)の四分の一はこれまで成田空港を利用していましたが、その大半は関西空港を利用することになると思います。飛行機で輸入される貨物も、成田経由のものは関西空港に降りるようになるでしょう。ただし、開港からまだ日が浅いので、利用者や貨物がどれくらい増えるかははっきりしません。

借金は一兆円以上

Question大変な建設費がかかったようですが、
経営はうまくいくでしょうか?

Answerそれが最大の課題です。建設費は当初一兆円程度と見込まれていましたが、埋め立てが予想外に難航。九三年三月に予定された開業も遅れ、建設費はどんどん膨らんでいきました。空港が建設された海底は、鉄棒を手で突き刺しただけで三メートルも潜ってしまうという軟弱な地盤。地盤沈下は一一・五メートルに達し、地盤改良工事や予想外に沈んだために土砂を積み増した費用がかさみました。地盤沈下は今後も数十年間は進むので、九〇〇本もある旅客ターミナルビルの柱にそれぞれジャッキをつけ、下がった場合には柱を持ち上げ、鉄板をかまして高さを調節する方式を取っています。当然ながら普通のビルよりも高くつきます。

 結局、一兆五〇〇〇億円もかかったわけですが、このうち国が二〇%、大阪府や大阪市など地元自治体が五%、関西財界が五%を負担し、残り七〇%が関西空港株式会社の借入金です。つまり、空港は一兆円以上の借金を背負っているわけで、金利だけで毎日二億円近く返さなければなりません。そして毎日二億円払っても、一兆円の借金は一向に減らないのです。

Question収入の見通しは
どうですか?

Answer関西空港株式会社の収入は、着陸料や空港使用料(飛行機一機で重さによりいくらと決められ、航空会社が払う。旅客も二六〇〇円を払う)など本業からの収入と、その他(テナントの賃貸料など)からなります。関西空港では、これらの料金が世界上どこの飛行場よりも高く設定されています。実はこれが関西国際空港の最大の特徴かもしれません。

 こうした収入で一兆円の借金が返せるかどうかですが、はっきりいってこれは絶望的。来世紀中かかっても無理でしょう。この借金を返すには、いつかは国のカネ、つまり国民の税金をつぎ込まなければならないことは、間違いありません。

ハブ空港への道も多難

Questionそれでも、国際ハブ空港として
うまく機能するのですか?

Answerこれもかなりの難問です。関西空港ができる前は、日本の地方空港から韓国・ソウルの金浦《キンポ》空港へ飛び、ここでヨーロッパ行きやアメリカ行きに乗り換える人が大勢いました。西日本の旅客の六割方はそうだったといいます。そのソウルでは、大規模な新国際空港の建設が進んでいます。中国や香港でも同様です。関西空港はこれらと競争しなければならないのです。しかも、滑走路が一本きりでは国際ハブ空港などと胸を張れませんが、莫大な借金のため関西空港の将来構想は実現が危ぶまれています。

 すでに神戸空港建設の機運が高まっており、これは関西空港の弱点である横風対策用滑走路も兼ねるという構想です。大阪中心部からのアクセスも神戸のほうがよいため、関西と神戸で一つの空港といったシステムになるかもしれません。いずれにせよ、関西国際空港の前途は大変険しいといわなければなりません。

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