更新:2008年8月16日
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改正男女雇用機会均等法

●初出:月刊『潮』1999年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question一九九九年四月から、改正男女雇用機会均等法が施行された
と聞きました。これについて教えてください。

Answer男女雇用機会均等法は、女性の社会進出を背景に一九八五年に成立し、翌八六年から施行されました。この法律は、労働者の募集と採用について、事業主は「女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない」とし、配置と昇進についても「女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めなければならない」と定めています。

 また、労働者の業務の遂行に必要な基礎的能力を付与する教育訓練(のうち労働省令で定めるもの)、住宅資金の貸し付けなどの福利厚生措置(同)、定年と解雇についても、事業主は「女子であることを理由として、男子と差別的取扱いをしてはならない」と、規定しています。

 つまり、募集と採用、配置と昇進について、男女差別の解消を企業の努力義務とし、教育訓練と福利厚生の一部、定年と解雇については、男女差別を企業に禁止したのです。

 また、こうした問題で女子労働者と事業主の紛争があれば、都道府県の婦人少年室(現在は女性少年室に名称変更)長が助言、指導、勧告できるほか、婦人少年室におく機会均等調停委員会に調停を行わせると定めています。

 この法律は、第二次世界大戦後につくられた労働法制を見直し、時代の変化と調和させようとしたもので、その意味では画期的な新法制定でした。ただし、労使間や男女間で意見の対立が大きかったこと、世の中の動きをさらに見極める必要があったことから、最後の条文である第二〇条で、政府は施行後適当な時期に検討を加え、必要な措置を講ずるとされました。

 ですから男女雇用機会均等法は、初めから改正が想定されていたといえます。労働省などで見直し作業が始まったのは、施行の五年後の九一年ころからでした。

努力義務から禁止規定へ

Question見直しのポイントは
どんなことですか?

Answer均等法は、ゆるやかな規制としてスタートしました。右に紹介したように、募集と採用、配置と昇進については、企業は男女差別をしないように努力しなければならないと言い方で、禁止しているわけではありません。また、教育訓練、福利厚生、定年と解雇については、男女差別を禁止するという言い方をしていますが、違反したときの罰則が書かれているわけではないのです。

 ですから、当初から「ザル法」という声があり、実効性に疑問をもつ人も少なくありませんでした。実際、八六年から九〇年までの五年間に各都道府県の婦人少年室に寄せられた相談件数は、四万八〇〇〇件近くに上りました。たとえば「四年制大卒募集といいながら実際には男性しか採用しない」「結婚や妊娠を理由に退職を強く勧められた」という苦情やトラブルが、全国で年に一万件近くあったのです。

 そこで、労働組合や弁護士会などから提言が出され、労働省も研究会を設置するなどして見直しを始めました。その方向は、一言でいえば均等法の強化です。具体的には、「努力義務」とされていることを「禁止規定」に、「禁止規定」とされていることを「罰則つき禁止規定」に、それぞれ格上げするという方向です。

 一方、労働基準法が、女性保護のために深夜労働や時間外労働を規制していますが(夜一〇時〜朝五時までは就業禁止、事務など非工業的労働の場合の残業は年一五〇時間、週三六時間まで)、この保護規定を原則として廃止することも検討項目とされました。女性を深夜に働かせてはダメ、残業もダメといいながら、男女差別をするなというのは受け入れ難い、という経営側の強い主張があったからです。

 そうこうするうちにバブル崩壊が襲い、就職の際に女子学生が門前払いを受ける、パートの主婦が解雇されるというような状況になり、時間のかかる法律の改正を待っていられなくなりました。そこで九四年、均等法に基づく「事業主が講ずべき措置の指針」(省令)の改正という応急措置が取られました。たとえば、男女とも採用するときは男女別の予定枠を設けない、会社案内の送付や説明会の開催を男女別にしない、結婚を理由に配置や昇進で女性差別しないなど。もっとも、これも努力義務であることに変わりはありませんでした。

セクハラ防止も盛り込む

Questionなかなか改正に
たどり着きませんねえ。

Answer労使が真っ向から対立する問題であることに加えて、労働基準法、育児・介護休業法など関連する法律がいくつもあり、それらとの整合性を保たなければなりません。この二つが、時間のかかった大きな理由でしょう。

 九五年秋に始まった婦人少年問題審議会(労相の諮問機関)では、(1)努力義務から差別禁止への格上げ、(2)労働基準法の女子保護規定の改廃、(3)罰則など制裁措置の導入に加えて、(4)調停制度をどう実効性のあるものにするか、(5)アファーマティブ・アクション(積極的な差別是正策)を取り入れるかどうか、(6)セクシャル・ハラスメント(性的ないやがらせ)問題をどうあつかうか、などが議論されました。

 その結果、改正案では、(1)採用から定年や解雇まで、雇用のすべての段階で、男女差別が禁止されました。また、(2)労働基準法の保護規定も原則として撤廃されました。(3)禁止規定の罰則については、違反企業の名前を公表することが盛り込まれています。(4)調停については、これまで労使双方の同意がなければ開かれなかった(九七年までにたった一件だけ)のを、一方の申請があれば開けるように改めました。

 (5)アファーマティブ・アクションとは、たとえば少数民族差別を禁じるアメリカの法律にある、企業は少数民族を社員の何l以上雇用しなければならないというような積極的な差別是正規定のこと。これは、時期尚早という判断で見送られました。(6)セクハラについては、改正均等法はその防止を定めた日本で初めての法律となりました。二一条で「事業主は、職場において行われる(中略)性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない」と企業の努力義務を掲げています。

法律の精神を自覚し、積極的行動を

Question私たちは、改正された男女雇用機会均等法と、
どう付き合っていくべきでしょうか?

Answer第一に、企業の担当者だけではなく、大企業から零細企業にいたる経営者や労働者、とりわけ女性の労働者に、この法律を熟読してほしいと思います。経営者はもちろん、働く女性の中にも、「妻である女性が、夫であり一家の主である男性に比べて、職場である程度の差別を受けることはやむをえない」と思っている人が少なくないようです。採用募集広告に「10人募集(うち女性4名)」と書いてあっても、大多数の人はおかしいとは思わないでしょう。しかし、そんな考え方は時代遅れというのが、この法律の根本精神です。

 第二に、この種の法律そのものには、具体例をこと細かに書き込むことができませんから、指針や規則という形で、禁止されるべきことが示されています。リーフレットなどでもPRされていますから、これも一読してください。とりわけセクハラに関しては、男女や年齢によって許容範囲が大きく異なります。男性上司がスキンシップのつもりで体に触れても、女性が苦痛に思えばセクハラなのだということを、世の男性は肝に銘じておくべきです。

 第三に、法律というのは精神的なもので、実効性を伴うかどうかは私たち社会の構成員の行動次第だということを忘れないでください。問題が起こったら、自分一人で悩まずに、同僚やしかるべき上司に相談し、職場で話し合い、それでダメなら都道府県の女性少年室などに積極的に相談すべきだと思います。

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