更新:2008年6月25日
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緊急地震速報

●初出:月刊『潮』2007年12月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

二〇〇七年一〇月からNHKでも

Question緊急地震速報がスタートしたと聞きました。
どういうことですか?

Answer「緊急地震速報」は、地震が発生した直後に、震源に近い場所にあるいくつかの地震計のデータから、震源の場所や地震の規模を推定し、まだ揺れていない地域に「何秒後に、どの程度の地震が来るか」を知らせるものです。

 同じようなものに、鉄道の「ユレダス」(Urgent Earthquake Detection and Alarm System=緊急地震検知警報システムの頭文字をつづった名)があり、東海道新幹線では一九九二年に全面稼働しました。これは太平洋岸一四か所に地震計を置き、地震の揺れを感じた直後に送電を止め、運転席にも警報を出します。新幹線を停止させられないまでも、できるだけ減速させて、大事故を防ぐ仕組みです。

 その後、一九九五年一月に襲った阪神・淡路大震災では、震度計の故障や伝送システムのトラブルで肝心の神戸、洲本の震度6がなかなか伝わらず、政府や自治体の初動体制に致命的なマイナスとなりました。死者六四〇〇人以上の巨大災害に、日本の地震対策は再検討を余儀なくされたのです。

 気象庁が、気象庁、国立大学、防災科学技術研究所などの地震計の地震データを統合(一元化)処理しはじめたのは九七年。そのころから高感度地震観測網の整備も進みました。同時に、通信技術も発展し、鉄道など専門分野に限られていたシステムを社会全体に広げていくことが可能になりました。

 気象庁は、二〇〇六年八月から「高度利用者向け緊急地震速報」をスタート。高度利用とは、速報されたデータをコンピュータで受けて処理し、列車や工場の機器を止めるといった使い方のことです。

 二〇〇七年一〇月からは、高度利用者向けよりも情報を制限するかたちで(推定震度が5弱以上の場合に限って)「一般向け緊急地震速報」が始まりました。NHKは一〇月一日以降、テレビとラジオの全チャンネルで緊急地震速報を流すと決め、民放のテレビやラジオも追随する方向です。携帯電話でも緊急地震速報の配信が計画されています。

 専門業者からは、インターネットに常時接続しておき、緊急時に「震度5。一〇秒前、九、八、七……」と秒読みする警報装置も販売されています。

P波をとらえて解析

Question緊急地震速報の仕組みを
もっと詳しく教えてください。

Answerみなさんも経験があるでしょうが、地震は、まず細かくカタカタと揺れ、続いて大きくグラグラと揺れますね。この二つを「初期微動」と「主要動」と呼びます。

 地震では、振動と進行方向が平行な「縦波」、振動と進行方向が垂直な「横波」が同時に発生して広がります。縦波は秒速約七キロで進み、最初に届くので「最初の(Primary)」という意味でP波、横波は秒速約四キロで進み、遅れて届くので「二番目の(Secondary)」という意味でS波と呼びます。

 たとえば、東京から八〇キロほど離れた相模湾の中心部(深さは無視)で地震が起こったとすると、東京では発生の一一秒後からカタカタ揺れはじめ、二〇秒後からグラグラ大揺れになります。地震計を相模湾に沈めておき、これでP波をとらえれば、その情報を中央の大型コンピュータに送る時間は一瞬ですから、S波が来る前に「相模湾方面から地震が来るぞ」と警報を出せる可能性がありますね。

 実際には日本全国約一〇〇〇か所の地震計を使います。その一つがP波をとらえると、最初の一秒で地震波が来る方向が、最初の二秒で震源までの距離が、おおよそわかります。その観測点では、以上の二つの情報と、毎秒の揺れを中央のコンピュータに送ってきます。二つめの地震計がP波をとらえると誤報(故障や落雷)の恐れがほぼなくなり、より正確な位置がわかります、三つめ以降が揺れ出すと、震源位置、深さ、規模がほぼわかります。これらを経験的に得られている式にあてはめれば、各地の震度と到達予測時刻がわかります。

 緊急地震速報は、震度が本当は5のところ4や6と間違えたとしても、一秒でも早く情報を伝えたほうがよいという考えから、観測点が一〜二つの段階で中央での処理を始めます。平均すると数秒で結果が出るとされ、そこから情報提供サービス会社や放送局などに伝えるのに二〜三秒なら、地震発生からたとえば一〇秒程度で、一般向けに緊急地震情報が出せるというわけです。

一〇秒で何をすべきか?

Questionテレビが伝える緊急地震速報は、
具体的にはどんなものですか?

AnswerNHKはテレビの場合、どんな番組を放送中でも、専用のチャイム音を流すと同時に、画面下半分に「緊急地震速報(気象庁)」の見出しで「千葉県で強い地震 強い揺れに警戒 千葉 茨城 栃木 群馬……」という文字と、強い揺れが予測される地域と震源を示す地図を表示し、自動音声で「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」と伝えます。ラジオでは、チャイム音の後で、テレビと同じ内容を自動音声で伝えます。

 この速報が出たら、表示された地域では、数秒〜十秒ほどで震度4以上の地震が始まり、もっとも強く揺れる地域では震度5弱以上の地震になる可能性があります。震度3以下の弱い地震では速報そのものが出されず、震度や、発生までの秒数も表示しません。なお、当たり前のことですが、テレビをつけておかなければ、緊急地震速報は流れません。

 緊急地震速報を見たら、大声を出して家族に知らせ、タンスや本棚から離れ、机の下にもぐって脚を持つなど、身を守る姿勢を取ってください。ガスコンロやストーブに手が届けば火を消し、熱いナベや油から離れます。わざわざ火を消しに行ってはダメです。震度5や6ではどうせ火は消せず、熱湯や油を浴びる恐れがあります。強い地震ではガス台やストーブは自動消火するはずで(そういう製品を使ってください)、万一火が出ても消火器(必ず常備してください)があれば、揺れが収まってから消すことができます。とにかく、あわてないでください。

 外では、周囲の状況を確かめ、塀や自販機から離れる、ビルの窓ガラス・看板・照明などの落下に備えるなどします。車では、急ブレーキや急ハンドルは厳禁です。ハザードランプをつけ、ゆっくり左側に寄せて停車してください。

切り札になるのか?

Question緊急地震速報は、
地震対策の切り札になりますか?

Answer残念ながら切り札にはなりません。阪神・淡路大震災のような直下型地震では、緊急地震速報はまったく役に立たないと思ってください。震源の深さ一〇キロ、震源までの距離二〇キロというような場所では機能しません。震度5以上の地震は、震源との距離が近いからこそ大きく揺れるので、間に合わないことのほうが多いでしょう。

 阪神・淡路大震災の死者の八割、約五〇〇〇人は耐震性のない古い家屋の倒壊によるか、家具・大型家電製品の下敷きになった圧死・窒息死で、ほとんどが即死に近い状態でした。四万四〇〇〇人近い負傷者のうち、やはり八割の約三万五〇〇〇人は、同じ理由によるケガだったのです。

 ですから、第一にもっとも重要な地震対策は、古い家の耐震補強をすることです。古い木造家屋は一〇〇万円程度の負担で倒壊を予防できます。行政の補助制度も活用してください。自宅の耐震性が心配な方は、必ず二階で寝るようにしてください。

 第二に重要な地震対策は、家具の固定です。上にのしかかってきたら大ケガしそうな家具は、L字金具やチェーンで壁や柱と必ず固定してください。

 第三に消火器や防火用水を常備してください。

 第四に、メガネや入れ歯をなくさないように。

 阪神・淡路大震災で、餓死者や飲み水がなくて亡くなった人は一人もいません。非常食や飲料水の備蓄は、右の四つと比べればどうでもいい話です。

日録メモ風更新情報から関連記事の抜粋(すべてを疑え!! MAMO's Site)

2008年5月8日

●午前1時45分ごろ、茨城県沖を震源とする強い地震があり、水戸市と栃木県茂木町で震度5弱。私は起きていたので、揺れている最中に家族の部屋を見回ったら、「震度はいくつ?」というから「3くらいだろ」と返事。居間に戻ってテレビを点けると、しばらくしてNHKが番組を中断し地震のニュース。「緊急地震速報」の画面を出していた民放局もあった。今日の夕刊には「また間に合わなかった」という記事が載っていますが、ご参考まで、2007年10月に私が『潮』に書いた記事の一部を掲げておきます

(中略)

●上の原稿には書きませんでしたが、緊急地震速報で肝心なことは、普通の日本人はテレビやラジオに接している時間が平均4時間程度なので、24時間中20時間は見逃すという事実。つまり6回速報が出ても、うち5回は見聞きすることができません。私は50年ほど生きておりますが、震度5以上の地震というのは経験がなく、震度4まで。ハッキリ記憶していないが、それも2〜3回でしょう。あと10年ほど生きて、震度5以上の地震が1回くらいあるかもしれないが、そのとき私がテレビを見ている確率は十数%以下。しかも、間に合わないことのほうが確実に多い(地上デジタル放送では、現行放送よりなお2秒ほど遅れる)のだから、「一般向け緊急地震速報」に多くを期待するほうが間違っていると思います。携帯を起動して知らせるというなら、まだ期待できますが。なお、二〇〇六年八月からスタートしている「高度利用者向け緊急地震速報」(高度利用とは、速報されたデータをコンピュータで受けて処理し、列車や工場の機器を止めるといった使い方のこと)は、もちろん大いに期待できます

参考リンク

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