更新:2006年9月30日
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構造改革特区

●初出:月刊『潮』2006年7月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Questionニュースで「構造改革特区」という言葉を聞きました。
どういうことですか?

Answer「構造改革特区」は、小泉内閣が打ち出した経済活性化策の一つです。

 その仕組みですが、まず地方自治体(都道府県または市町村)や民間企業などに、一定の地域を対象とする経済活性化事業を独自に提案してもらいます。それを政府が検討して、実現可能と判断すれば、必要な規制の緩和や撤廃を、その地域に限り特例として認めるというものです。

 「構造改革特区」の狙いは、必ずしもその地域の経済活性化ではありません。結果的に活性化される地域が増えて、日本経済全体の活性化に結びつくことはありえますが、それはあくまで副次的な効果。本当の狙いは、全国的な規制緩和を進めるために、地域限定で一種の「実験」をおこなうことにあります。

 ある構造改革特区での新しい試みが成功し、規制を緩和してもとくに問題がないことがわかったとか、解決すべきいくつかの問題が生じたというような事例を集め、規制緩和を全国に広げていくための先行事例――突破口にしようというわけです。

 また、中央省庁が主導するこれまでの地域振興策と違い、地域の特色や事情に応じた地方自治体や民間の創意工夫を求め、地域間の競争を促進する効果も期待されています。

 小泉首相は、この構造改革特区を「『官から民』『国から地方』という小泉改革の柱となる」と位置づけています。なお、厳しい財政事情もあり、バラマキ型を避けて地方や民間の自助努力をうながすため、「構造改革特区」では補助金などの財政支援は行わないとされています。

骨太の方針第二弾の一つ

Questionどのような経緯で
始まったのですか?

Answer構造改革特区は、2001年の暮れに自民党の麻生太郎・政調会長が提唱。2002年4月24日の経済財政諮問会議では、平沼赳夫・経済産業大臣と民間の委員4人が提案。

その後、6月25日の閣議決定で、小泉内閣のいわゆる「骨太の基本方針(第二弾)」に盛り込まれ、7月には首相を本部長とする「構造改革特区推進本部」が発足しました。

 そして、地方自治体への説明会を開いた後、8月いっぱいで自治体からの提案を募集しました。10月上旬には、対象地域や必要な制度改正を盛り込んだ「構造改革特区推進のためのプログラム」が決定され、臨時国会での関係法改正案の成立が目指されています。

Questionどんな提案が
あったのですか?

Answer地方自治体が提案を検討した
事例を紹介すると、

などがあります。

 農業、流通、医療、教育、観光、情報、環境・エネルギーなど、さまざまな分野でユニークな提案が考えられたことがわかります。

中央官庁の抵抗で骨抜きに

Questionそれらの提案は、地方自治体の意向にそって
認められたのでしょうか?

Answer認められたものもありますが、地方から提案されたアイデアの多くは、残念ながら認められませんでした。

 政府の構造改革特区推進室によると、提案の募集に応《こた》えたのは、地方自治体231、民間企業11、大学6など249団体で、総数426件。分野別では農業94件、研究開発69件、観光・国際交流57件。そして、これらの提案を実現するための規制改革の要望、つまり「これこれの要件を緩和・撤廃してほしい」という地方や民間の声は、903項目に上りました。

 ところが、急激な規制緩和を嫌う中央省庁が抵抗した結果、構造改革特区の実施が認められたのは93件、規制改革の項目数では80項目にとどまりました。地方自治体などから寄せられた提案には、そもそも刑法に触れてしまうというような突飛《とっぴ》なアイデアが含まれていたことも確かですが、少なくとも三百数十件は実現可能と判断されました。しかし、特区は90余りとされたのです。

 これには小泉首相もキレた様子で、10月11日に首相官邸で開かれた構造改革特区推進本部の会合では、「常識で考えて、反対する事務当局の説明に疑問を思ってください。バカなこと言ってること、結構あるから」と、特区の骨抜きを狙う中央省庁への批判を口にしています。

 推進本部では、2003年1月まで地方自治体から提案の追加募集を行うことを決めたほか、病院の株式会社方式の是非など、積み残した課題についての協議を続ける方針です。

小泉改革の試金石

Question中央省庁の役人たちは、
なぜ地方自治体の提案を受け入れようとしないのですか?

Answer一言でいえば、「規制こそが役人の権力の源泉だから」です。日本という国は、一見すると先進的な資本主義国のように見えますが、実は中央官庁の握る権限が非常に強く、規制だけを見ると非常に社会主義的。

 とりわけ、法律で決まっていない政令・省令・行政指導・監督といったレベルでの行政の裁量余地が極めて大きく、自治体や企業はそれに振り回され、天下りや汚職の温床となっています。特定の企業や法人の意向を代弁し、その既得権益を守る族議員も、構造改革特区の足を引っ張っています。

 今回、小泉首相が狙っていたのは、学校、病院、農業経営への株式会社の参入だったといわれ、閣僚懇談会で坂口力・厚労相、遠山敦子・文科相、大島理森・農相を名指しで、「役人にだまされないように」とハッパをかけました。けれども結局、実現したのは農業分野だけで、学校や病院の運営への株式会社の参入は「質が低下する」として排除されてしまいました。

 しかし、現在の医療法人や学校法人の制度でも、カネ儲け主義で質が低いの病院や学校は明らかに存在し、その不祥事が次々と露呈しています。株式会社のカネ儲け主義では、立派な病院や学校を運営することなど金輪際《こんりんざい》できないなどと、本気で思っている人はいないはず。病院や学校が健全かどうかは法人格が何であるかではなく、患者や生徒がどう扱われているかによるのです。この点は引き続き検討が必要です。

 中央省庁が族議員と組んで立ててきた政策の多くが破綻しつつあるいま、本当の現場である地方に権限と財源を移管することが求められています。その意味でも、小泉内閣の試金石《しきんせき》としての構造改革特区の今後を、注意深く見守る必要がありそうです。

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