更新:2008年8月6日
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活断層

●初出:月刊『潮』1995年4月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question阪神大震災の報道で「活断層」という言葉を耳にしました。
どういうものか教えてください。

Answerはい。活断層は読んで字のごとく「活動的な断層」のことです。まず、断層とはなにかという話から始めましょう。

 「断層」とは、地層や岩石にできた割れ目のうち、それを境に両側でずれを生じているものをいいます。イチゴがのったクリスマスケーキを思い浮かべてください。これにナイフを入れて断面を見ると、ふわふわしたスポンジケーキや、生クリームや、薄く切ったイチゴの層ができていますね。地中も同じように砂や土や岩の層ができています。これが「地層」です。

 そして、ケーキに入れたナイフを(切れ目だけ入れて)そのまま静かに引き上げたときのように、地層がずれていなければ断層とは呼びません。けれども、切ったケーキのどちらかあるいは両方が、上か下か前後にか一ミリでも動ごけば、これは断層のモデルになります。

 なお、断層の割れ目の両側が上下にずれて高さが違っているものを「縦ずれ断層」、両側の高さは同じで割れ目の走る方向にずれているものを「横ずれ断層」(水平ずれ断層)と呼んでいます。

活動する可能性がある断層

Question断層についてはわかりました。
それが「活動的」というのは、どういう意味ですか?

Answer活断層の「活」は、「最近まで活動しており、将来も活動する可能性がある」という意味です。過去にずれたし今後もずれるだろうと思われる断層を「活断層」と呼ぶのです。

 問題は「最近」とはいつごろのことをいうかです。厳密な定義はありませんが、一般に地質学上の時代区分のうち「第四紀」の後期以降とされています。これは「ここ数十万年で」と言い換えてもよいでしょう。地球の歴史はおよそ四六億年、巨大山脈をつくる造山運動は一〇〇万年から数千万年続いていますから、数十万年でもごく「最近」というわけです。

 ところで昔は、断層は地層や岩石が過去に動いた痕跡《こんせき》にすぎないと考えられていました。十九世紀には活断層という言葉はありません。しかし、一九〇六年のサンフランシスコ地震で以前から知られていたサン・アンドレアス断層が動いて以来、断層には活動をやめていないものがあるというのが定説になりました。

 その後、研究が進むと、活断層には常にゆっくりとずれ動くタイプと、普段は動かないのにときどき急激に動くタイプがあることがわかりました。前者はサン・アンドレアス断層の一部に見られ、年二センチほどずれ続けています。日本の活断層はすべて後者で、ずれるときに地震が起こります。

 今回、阪神大震災を引き起こした兵庫県南部地震は、淡路島を通る「野島断層」をはじめとする活断層「六甲断層系」が横ずれを起こしたものと考えられます。つまり、淡路島北端から神戸に延びる断層を境として、両側の地面がずれ動いたわけです。淡路島の北淡町江崎では、この断層が地表に露出しました。テレビや新聞報道でご覧になった方も多いでしょう。

地震と活断層の関係は?

Question地震は「断層が動くこと」
と考えてよいのですか?

Answerはい。とりわけ「浅発《せんぱつ》地震」と呼ばれる地下六〇〜七〇キロメートルより浅いところで起こる地震は、ほとんどが既存の断層の急激なずれ(すべり)によると考えられています。地震は断層の動きそのものといっても過言ではありません。

 地下三〇〇キロメートルより深いところで起こる「深発《しんぱつ》地震」については、やや議論が残されています。というのは、この深さでは高温・高圧のため岩石が流動を起こし、急激な破壊(新たな断層)は起こりにくいのではないか。また、圧力が高いため、断層があってもすべりが起こりにくいのではないかという考え方があるのです。

 しかし、現在もっとも確からしいと思われている説では、高温のために岩石から水が出て、その水圧が断層にかかるので、これが摩擦力を打ち消し、断層の急激なすべりが起こるとされます。この考え方によれば、やはり地震は断層の動きそのものといえるわけです。

Questionでは地震、つまり断層のずれやすべりは、
どうして起こるのですか?

Answer地球物理学によれば、地球はいくつかのプレート(岩盤)でおおわれています。ゆでたまごの殻がいくつかに割れているようなものです。ところが、この殻(地殻と呼びます)は動いています。ある場所ではぶつかって一方が他方の下に沈み込み、ある場所では離れていき、ある場所ではすり合わさっているのです。

 日本列島は、ユーラシア、太平洋、フィリピン、北アメリカの四つのプレートの境目に位置しています。ユーラシアプレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいるところへ、フィリピンプレートと北アメリカプレートがぶつかり、非常に複雑な力が働いているのです。

 この力が、引っ張る力や圧縮する力となって地殻に作用し、徐々にひずみを起こします。そして、ある限界を越えると、断層の両側がひずみを解消する方向に急激に動く(ずれたりすべったりする)のです。これが地震です。

活断層の有無より地震への備え

Question日本には活断層はどのくらいありますか?
また、どのくらいの頻度《ひんど》で動くのですか?

Answer地震国・日本には断層が数え切れないほどありますが、確認されている活断層は、「新編日本の活断層」(東大出版会)という本に載っているだけでも二一〇〇以上です。活発な活断層ほど動いた地形がはっきり残っていますが、さほど活発ではない活断層は浸食や堆積作用によって見つかりにくくなっています。海底にある活断層もそうです。二一〇〇が本当は五〇〇〇でも、まったく不思議はありません。

 次に頻度ですが、兵庫県南部地震は「一〇〇〇年に一度の地震だ」といわれました。なぜそんなことがいえるかというと、まず、過去に地震を起こした記録のある活断層を片っ端から調べます。すると日本内陸部では、マグニチュード(M)7クラスの地震で、断層の長さ約二〇キロメートル、もっとも動いた幅は約二メートルというようなおおよその平均値が出ます。一方、ある活断層を調べて長さ二〇キロメートル、五万年で一〇〇メートル(一〇〇〇年で二メートル)動いたことがわかったとします。するとこの活断層ではM7の地震は一〇〇〇年に一度くらいの割で起こるのではないかと考えられるわけです。

 もちろん一〇〇〇年で三度かもしれず、二〇〇〇年で一度も起こらないかもしれません。でも、その活断層で五〇年前にM7の地震が起こっていたら、たぶん今後一〇〇年や二〇〇年は、その規模の地震は起こらないだろうとはいえるでしょう。

Question住んでいる近くに活断層がありはしないかと心配です。
どうすべきでしょう?

Answerいまいったように、活断層には見つかっていないものが多いのです。また、東京のように一面を開発してしまった場所では、どこにどんな活断層があるかはわかりません。わかったところで、いつ地震を引き起こすかはわかりません。一方、近くに活断層がないことが確認できても、安心はできません。関東大震災を引き起こした地震は、東京の真下にある活断層が動いて起こったのではないからです。

 興味ある方は図書館などで調べるのもよいでしょうが、あまり活断層の有無にこだわるのはどうかと思います。

 むしろ、阪神大震災が教えた地震に対する備え(消火器や防火用水を用意し、火災は初期段階に自力で消す。倒壊の恐れがある古い木造家屋や塀は補強する。倒れてきそうな家具や家電製品は、壁や柱に固定する。食器棚やサイドボードのガラスに飛散防止フィルムを張る。三日分程度の飲料水と食糧を備蓄する。ラジオと懐中電灯を枕元に置く。生活用水をためる容器を用意するなど)を徹底することが大切です。

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