更新:2006年9月30日
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京都議定書

●初出:月刊『潮』2001年9月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Questionニュースによく「京都議定書」の話題が出てきます。
どういうことですか?

Answer京都議定書について説明する前に、
地球温暖化の話をしておきましょう。

 「地球温暖化」とは、石油や石炭などを大量に燃やすことで大気の「温室効果」が進み、地表面の温度が高くなること。

 ちょっと難しい話ですが、温室効果は次のようなメカニズムで起こります。地球の表面は太陽の光で暖められますが、その熱は地表からの赤外放射(虹の七色でいえば赤色の外側にある見えない光の放射。熱の放射と考えてよい)によって失われます。

 ところが、この赤外放射は大気中の二酸化炭素や水蒸気に吸収され、地表面は二酸化炭素(CO2)や水蒸気から下向きの赤外放射を受けるようになるのです。すると、太陽の光は今日も明日も降り注ぐわけですから、二酸化炭素や水蒸気が暖める分、地表の温度はだんだん上がっていきます。

 温室効果がある大気中の物質は「温室効果ガス」と呼ばれ、二酸化炭素、メタン、フロン、亜酸化窒素など(水蒸気の発生は止めようがないので除外します)。このうち石油や石炭を燃やすことで発生する二酸化炭素は、18世紀末に始まった産業革命以来、放出量が飛躍的に増大しています。大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命前の約280ppm(1ppm=100万分の1)が1994年には358ppm。このままでは今世紀の半ば以前に、産業革命前の2倍に達するともいわれています。また、二酸化炭素以外の温室効果ガスも増加しており、全体では二酸化炭素と同じくらいの温室効果があると考えられています。

 この結果、今世紀の終わりには地球の温度は現在より2〜3度ほど高くなると思われます。すると、海水が膨張し極地方の氷・氷河が少し解けることによって海面が上昇。30センチ上昇しても日本の海水浴場はほとんど消滅し、1メートル上昇すれば珊瑚礁の島など国がまるごと水没する恐れがあります。また、異常気象、生態系の変動、農業への影響など、地球規模で極めて深刻な問題が起こると懸念されています。

京都議定書にCO2削減目標を明記

Question地球温暖化と京都議定書は、
どんな関係があるのですか?

Answer地球温暖化が確実に進んでいる事実と考えられるようになったのは1980年代のこと。88年には政府間の検討の場として「気候変動に関する政府間パネル」が設置され、91年からは「地球温暖化防止条約」(気候変動枠組み条約)の交渉が始まりました。

 これは二酸化炭素排出抑制のための条約で、二酸化炭素の国別発生量を、2000年時点とそれ以降、1990年のレベルに抑制するよう求めるもの。この目標設定には世界の二酸化炭素排出量の4分の1近くを占めるアメリカが反対したため「1990年の水準に戻すことを目指す」という表現に改められ、92年の5月に成立。6月の国連環境開発会議(地球環境サミット)の期間中に日本を含めて155か国が署名しました。

 95年以降は締約国会議が開かれ、条約の目標を達成するための具体的な取り組みをどうするかが話し合われました。その第3回目が、97年12月に京都で開かれた地球温暖化防止京都会議。この会議では、排出される二酸化炭素の具体的な目標削減量を含む法定文書(法的な拘束力をもつ文書)の成立に向けて、削減量、期限、各国一律の削減率とするかどうか、などが争点となったのです。

 その結果、国ごとに異なる削減目標数値が設定され、温室効果ガスの排出量を2008年から2012年の間に先進国(ロシアと東欧を含む)全体で1990年と比べて5・2%削減するという内容の議定書が採択されました。これが「京都議定書」と呼ばれる文書で、各国の削減目標は、日本6%、アメリカ7%、EU(ヨーロッパ)8%とされました。

 この数値には、世界の二酸化炭素の4分の1弱を出しているアメリカが日本より多く削減するのかと、疑問を感じる人もいるでしょう。これには実はカラクリがあり、京都会議では「ネット方式」(たとえば日本が東南アジアで植林すると二酸化炭素を吸収するから、その分排出量を増やせる)と「排出権取引」(たとえばアメリカがロシアの火力発電所に技術協力して二酸化炭素の排出を減らしたら、その分排出量を増やせる)という仕組みが認められました。アメリカは、ロシアと事前協議したうえで、7%という数字を出してきたといわれています。

アメリカが議定書から離脱か?

Question4年前の京都議定書が、
なぜまた話題になっているのでしょう?

Answerその後も締結国会議は続き、2000年から2001年にかけては第6回目が開かれ、運用のルールをについて話し合っています。ところが、民主党のゴア政権から共和党のブッシュ政権に変わったアメリカが2001年3月、京都議定書に反対する姿勢を打ち出したのです。

 京都議定書には先進国の削減目標だけが掲げられ、開発途上国の目標は書いてありません。これは途上国が、産業革命以降の大気中の二酸化炭素量の増加の責任はもっぱら先進国にあると主張し、先進国側もそれを認めたためです。アメリカは、これを問題にし「途上国が除外されている京都議定書は受け入れられない」と、議定書から離脱する姿勢を明らかにしました。

 もちろん背景には、ブッシュ大統領がテキサス州出身で、アメリカの巨大石油資本(メジャー)や自動車会社から強い支持を受けていることがあります。これは父親のブッシュ元大統領も同様で、1992年の地球環境サミットには直前まで出席をためらったほど。二酸化炭素の削減が、石油業界や自動車業界に打撃を与えることは明らかで、アメリカはその圧力によって態度を変えたのです。アメリカ議会も、もはや京都議定書に関心はないという空気のようです。

苦しい立場の日本

Question今後は
どうなるでしょう?

Answerアメリカに対して、EUはあくまで京都議定書を尊重すべきという立場。ヨーロッパには社会民主主義政権が多く、環境保護政党が連立政権に入っていたりしますから、アメリカ抜きでも批准して話を進めるという強硬姿勢です。

 苦しい立場に追い込まれたのは日本です。日本は京都議定書をまとめたときの議長国。地球環境問題を話し合う会議だからこそ、京都という古い街で開いたのです。それを自らの手で葬り去ることは、到底できません。

 一方、アメリカに次ぐ工業国である日本の産業界は、景気が悪いこともあって、地球温暖化対策によるコスト高はなるべく避けたい、あるいは先伸ばしにしたいというのが本音。何しろ「同盟国」ですから、アメリカと衝突したくないという気持ちも先に立ちます。そこで、小泉首相は「粘り強くアメリカを説得する」と繰り返し述べています。

 京都議定書は、締結国中55か国以上が批准し、批准した先進国の二酸化炭素排出量合計が全体の55%以上でないと発効しないとされています。このため、日本が批准すれば京都議定書は成立、日本が批准しなければ不成立になります。「アメリカ抜きでも批准する」と明言しない日本に対する批判は強まる一方。これ以上事態を引き伸ばすと、日本は京都議定書つぶしの汚名を着せられかねません。

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