更新:2006年9月30日
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教員免許制度

●初出:月刊『潮』2006年11月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

更新制の導入へ

Question教員免許に更新制が導入されると聞きました。
どういうことですか?

Answerまず、現在の教員免許制度を紹介しましょう。教育職員の資質の保持と向上を図ることを目的とする「教育職員免許法」は、第三条で「教育職員は、この法律により授与する各相当の免許状を有する者でなければならない」と定めています。

 ここでいう「教育職員」は、学校教育法第一条に定める小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、盲学校《もうがっこう》、聾学校《ろうがっこう》、養護学校および幼稚園の教諭、助教諭、養護教諭、養護助教諭、栄養教諭および講師のこと(教育職員免許法第二条)。

 免許状には、普通免許状、特別免許状、臨時免許状の三つがあります。煩雑《はんざつ》さを避けて、以下はもっとも一般的な普通免許状に限ってお話しします。

 普通免許状は、学校の種類ごとの教諭の免許状、養護教諭の免許状、栄養教諭の免許状の3種類。それぞれ専修免許状(大学院修了)、1種免許状(4年制大学卒業)、2種免許状(短大卒業)に分かれます。中学校と高校は教科別で、国語、数学、理科などに限定した免許状です。

 大学などで、必要とされる教科と教職に関する単位(最低単位数は教育職員免許法の別表に載っています)を修得すれば得ることができ、都道府県の教育委員会が授与します。

 ようするに、学校(大学を除く)の先生になるには、原則として高校卒業後に、教職課程のある大学で必要な単位を取り、免許状を取得しなければなりません。公立校の場合は、さらに教育委員会が実施する教員採用試験に合格する必要があります。

 ところで現在、教員の免許状は一度取得すれば生涯有効とされています。公立学校の教員が懲戒《ちょうかい》免職になったとき失効、国立・私立学校の教員が懲戒免職に相当する事由で解雇されたとき取り上げ、免許状を持つ者に法令違反や教育職員にふさわしくない非行があって情状が重いとき取り上げといった例外を除けば、免許状は「一生もの」なのです。

 これに対して、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会は2006年7月11日、教員免許更新制の導入などを盛り込んだ最終答申をまとめ、小坂憲次・文科相に提出しました。これを受けて、文科省は制度改正や準備期間をへて数年後からの実施を目指します。安倍晋三首相も、自民党総裁選の立会演説会で「先生に向かない先生がいるのも事実だ。教師の免許更新制度をしっかり導入したい」と述べています。

有効期限は10年

Question導入される教員免許の更新制は、
どんな内容なのですか?

Answerまず、現在は期限の定めがない免許状の有効期限を10年とします。そして有効期限が満了となる直前の2年間に、最低30時間の講習を義務づけます。8年間務めた教員は、たとえば9年目と10年目に、夏休み3日と冬休み1日をかけて、日に3〜4時間の講習に通う必要があるわけです。

 講習は、大学や都道府県の教育委員会が国の認定基準に基づいて実施します。その内容は今後の検討課題ですが、ただ講義を聴きノートを取るだけでなく、模擬授業やグループ討議など実践的な内容が盛り込まれる見込みです。

 確かに講習を修了したという認定を、どのような形にするかも検討課題です。答申には「修了の認定は、あらかじめ修了目標を定め、受講者の資質能力を適切に判定した上で、修了の可否を決定することが適当である」と書いてあります。これ以上の具体的な方針は、現時点ではハッキリしません。

 この講習を修了すれば免許は更新され、修了しなければ免許は失効します。失効した場合でも、同様の「回復講習」を受講・修了すれば、免許再授与の申請が可能になります。

 更新制の対象となるのは、免許保有者全員です。つまり、約109万人いる現職教員と、免許を持ちながら教壇に立っていない人(車の免許を持っていても運転しない人を「ペーパードライバー」と呼ぶように「ペーパーティーチャー」と呼びます)約400万人も対象になります、

 「ペーパーティーチャー」については、定期的な更新は必要なく、教職に就《つく》くなど免許の再取得が必要になった時点で回復講習を受講・修了することになります。

教員不信を払拭《ふっしょく》?

Question更新制導入の背景は?
どんな効果があるのでしょう?

Answer導入の背景には、世の中の教員に対する不信感があるといえるでしょう。教育関係者の間で「M」「Mちゃん」などと呼ばれる「問題教師」をはじめ指導力に欠けた教員の存在が、学校の大きな問題の一つであることは否定できません。この状況を受けて2004年、中山成彬・前文科相が中教審に教員免許更新制の導入を諮問しました。

 今回の答申から、更新制の必要性や意義に触れた部分を抜き書きすると、次のようになります。

 「教員として必要な資質能力は、本来的に時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有して」います。たとえば「子どもの学ぶ意欲や学力・体力・気力の低下、様々な実体験の減少に伴う社会性やコミュニケーション能力の低下、いじめや不登校等の学校不適応の増加、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)や高機能自閉症等の子どもへの適切な支援といった新たな課題の発生等、学校教育をめぐる状況は大きく変化して」います。

 だから「教員免許状に一定の有効期限を付し、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)を行うことが必要」なのです。更新制の導入で「我が国全体における公教育の改善・充実が期待でき、公教育に対する保護者や国民の信頼が確立する」とその効果を謳《うた》っています。

 なお「更新制は、いわゆる不適格教員の排除を直接の目的とするものではなく、教員が(中略)自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていくという前向きな制度」だとも書いています。

疑問視する声も

Question10年ごとに30時間の講習で、
そんなに効果があるでしょうか?

Answer効果を疑問視する声は小さくありません。朝日新聞は2006年6月28日「更新制までは必要ない」、読売新聞は同年7月3日「『更新制』にする意味はない」と、いずれも社説で否定的な立場を表明。

 実は、教員免許更新制は、2002年2月21日に出された中教審答申で見送られたことがあるのです。その答申には、次のように書かれています。

 「免許状授与の際に人物等教員としての適格性を全体として判断していないことから、更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みは制度上とり得ない」「我が国全体の資格制度や公務員制度との比較において、教員にのみ更新時に適格性を判断したり、免許状取得後に新たな知識技能を修得させるための研修を要件として課すという更新制を導入することは、なお慎重にならざるを得ない」

 この4年間で、前回の答申を覆《くつがえ》す決定的な状況の変化があったとは考えにくいでしょう。また、多くの保護者は、指導力のない教員は教育の現場から退場してほしいと思っているはず。更新制が不適格教員の排除を目的としないなら、どんな効果があるのか疑問に感じる人も少なくないと思います。

 というのは、公立学校の教員は「教育公務員特例法」という法律で「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」とされ、1年目の「初任者研修」や「10年経験者研修」が義務づけられているからです。更新時の講習は、これに屋上屋《おくじょうおく》を架すものだという批判も根強くあります。更新制の導入には、なお議論や検討を重ねることが必要でしょう。

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