更新:2008年8月6日
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マグニチュード

●初出:月刊『潮』1994年12月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question地震の際、必ず耳にする言葉に「マグニチュード」があります。地震の規模を表す数値だと思いますが、もっと詳しく教えてください。

Answer地学の本には、一九三五年にC・F・リヒターが提案したマグニチュードの定義として、次のように書かれています。

 「マグニチュードとは、震央からの距離一〇〇キロメートル地点に置かれたウッド=アンダーソン式地震計が記録した最大振幅を、ミクロン単位で測り、その常用対数をとった数値である」

 これでは、何のことやらわかりませんから、できるだけやさしく解説してみます。

 地震は、地下の岩盤が急激に破壊されることによって起こりますが、その破壊が最初に始まった場所を「震源」、震源の真上にある地表上の点を「震央」と呼びます。その震央から一〇〇キロメートルと決めた場所に、地震計──空間に静止し続けようとする振り子(おもり)を利用して地面の動きを記録する機械──を置いて、最大一〇センチ揺れたとか一ミリしか揺れなかったという動きを比べれば、地震の大きさが比較できると、リヒターは考えました。

 振幅をミクロン(一ミリの一〇〇〇分の一)単位で測るからには、人には感じられない微小な震動まで測るわけです。ただし、揺れの幅のまま比べると、なにしろ一〇センチは一〇〇〇〇〇ミクロンですから、小さい地震は一で大きい地震では一〇〇〇〇〇というように、ケタが違いすぎて不便です。そこで、対数という数学の考え方を使って、地震計の最大振幅をあつかいやすい数値に直したのがマグニチュードなのです。

方式ごとに差が出る

Questionでも、いつも地震から一〇〇キロメートルのところに
地震計が置いてあるはずはないでしょう?

Answerその通りです。実際には、マグニチュードは、震央からの距離が異なる複数の地震計のデータを使って、計算で出します。

 また、実はリヒターの考えた方式には、いくつかの欠点がありました。たとえば、ウッド=アンダーソン地震計は、地震による波のうち短い周期の波(速く細かい震動の波)の影響を受け過ぎるため、必ずしも正確に震動の大きさをとらえられません。また、マグニチュードが7程度以上になると、地震の規模がいくら大きくても同じ数値しか出ないという頭打ち現象を起こしてしまいます。

 そこで、リヒターの考えをもとにマグニチュードを決める方式がいくつか考案されました。地震計にも改良が重ねられました。現在、日本の気象庁が発表するマグニチュードは、深さ六〇キロメートルより浅い地震については坪井忠二が考案した方法で、それより深い地震については勝又護が考案した方法で算出されます。国際地震センター(ISC)や米国地質研究所はまた別の方法で算出しており、同じ地震のマグニチュードでも、方式によって数値が異なるのが普通です。ですから、厳密な話をするときは、どの方式によるマグニチュードなのか、はっきりさせなければなりません。

 もっとも、同じ方式でマグニチュードを計算しても、異なった観測点のデータを用いれば、0・1や0・2くらいすぐ違ってしまいます。また、地下の岩盤がごくゆっくり破壊されていく地震だと、人体に感じたり地震計が記録したりする揺れが少なく、マグニチュードは低めに算出されます。ですからマグニチュードは、それほど厳密な数値とはいえません。しかし、いまのところ、地震の規模を表すのに、マグニチュードに代わる指標が存在しないことも事実なのです。

震度との違いは?

Questionマグニチュードと一緒に報じられるのが各地の震度
ですが、こちらはどのように決めるのですか?

Answerマグニチュードが、地震そのものの規模を表すのに対して、震度は場所ごとにどのくらい揺れたかを表します。日本では震度〇から震度七までの気象庁震度階級が使われていますが、外国では一〜一二階級の改正メルカリ震度階を使うことが多いようです。

 震度は、人(たとえば気象台の観測当番)が震度階級の表を参考に決めます。たとえば、地震計だけが感じる地震なら震度〇。立っていて感じないほどなら震度一の微震。戸や障子がわずかに動く程度で震度二の軽震。戸や障子がガタガタ鳴動し、電灯が相当揺れると震度三の弱震。家屋の動揺が激しく、眠っている人は飛び起き、恐怖感を覚えるのが震度四の中震。

 壁に割れ目が入り、立っているのがかなり難しいと震度五の強震。山崩れや地割れが生じ、家屋の倒壊が三〇%以下ならば震度六の烈震。家屋の倒壊が三〇%以上に達すると震度七の激震、という具合です。

Mが1増えれば30倍

Questionマグニチュードが1違うと、
地震の規模はどれくらい違うのですか?

Answer一九九四年十月四日夜、釧路など北海道東部を中心とする東日本一帯を襲った「北海道東方沖地震」で、気象庁は当初、地震の規模をマグニチュード7・9(M7・9)と推定しました。これは地震の直後に緊急発表した数値。その後、気象庁は全国の観測地点からのデータをより詳しく集め、計算をやり直してM8・1に修正しています。

 たった0・2増えただけと思われるかもしれませんが、これは地震のエネルギーが二倍も大きいことを意味します。つまり、M7・9の地震二回分と、M8・1の地震一回分のエネルギーは、ほぼ同じなのです。それどころか、M8・1の地震というのは、一九五二年の十勝沖地震(M8・2)につぐ規模。日本近海では今世紀で二番目に大きい地震といえます。

 このように、M8はM4の倍とはならないのが面倒ですが、マグニチュードが1増えるごとに地震のエネルギーは三一・六倍(約三〇倍)になるということを覚えておくと便利でしょう。同様に、マグニチュードが2増えると、エネルギーは一〇〇〇倍になります。

最大はチリ地震のM9・5

Question過去、いちばん大きい地震の
マグニチュードはいくつですか?

Answer理論的にはM15とかM10という地震もありえます。しかし、実際にはM9・5を超える地震は知られていません。観測史上もっとも規模の大きい地震は一九六〇年のチリ大地震で、M9・5でした。

 M9クラスの地震は、数百キロメートル〜一〇〇〇キロメートルといった範囲で巨大な地殻変動を生じます。ただしこのクラスの地震が日本付近で起こった記録はありません。M8クラス以上の浅い地震が内陸部や沿岸部に起これば、広い範囲にわたって大災害が起こります。海底に起これば、大津波が発生します。M7クラスでも内陸部で震源が浅い場合は、大災害をもたらします。M6クラスでも、人口密集地など条件の悪い場所では災害に結び付きます。M5クラスでは、被害が出ることはまずないといってよいでしょう。

 ちなみに、一九二三年九月一日の関東大震災は、マグニチュードこそ7・9と先日の北海道東方沖地震より小さいものの、東京や横浜という人口密集地を昼時に襲ったため大火災を引き起こし、死者約一〇万人、行方不明四万人以上という被害をもたらしました。

 逆に、マグニチュードが大きくても人口の密集地に遠ければ、被害は少ないのが普通です。ただし、これは地面の揺れそのものによる被害の話で、津波は別。一九六〇年のチリ大地震では、地震発生のほぼ二十四時間後、はるか太平洋を越えて大津波が来襲。三陸沿岸などを中心に死者・行方不明一三八人という被害をもたらしました。マグニチュードが8とか9という巨大地震では、震源が地球の反対側であっても津波を警戒しなければなりません。

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