更新:2008年8月6日
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文字・活字文化振興法

●初出:月刊『潮』2005年11月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

文字・活字文化振興法とは?

Question文字・活字文化振興法という法律ができたそうですね。
どんな法律なのですか?

Answer「文字・活字文化振興法」は、2005年7月22日に国会で成立した法律です。超党派の国会議員286人でつくる「活字文化議員連盟」が提出し、衆参両院とも事実上の全会一致で成立しました(事実上と断るのは、賛成なのにボタンを押し間違え反対してしまった議員がいたからです)。

 「文字・活字文化」とは何かは、法律の第2条で定義づけられています。それによると、活字その他の文字を用いて表現されたもの(文章)の読み書きを中心として行われる精神的な活動、出版活動その他の文章を人に提供するための活動、それら活動の文化的所産(出版物その他)をすべてひっくるめたものが文字・活字文化です。

 ですから、日記を書く、手紙やメールを書く、作文や論文を書く、本や新聞や雑誌を読む、それらを出版・発行するといった行為や、その結果として生まれた日記、手紙やハガキ、文集、本、新聞、雑誌などは文字・活字文化に含まれます。インターネットのホームページやブログ(日記のように継続して更新されるホームページ)の多くは文章でできていますから、これも文字・活字文化です。

 業界でいえば、出版・新聞・印刷業界をはじめ、ワープロソフトを作るソフト開発メーカー、ホームページサービスを提供するIT業者、パソコンメーカーも、文字・活字文化を担っているわけです。

 そのような文字・活字文化は、人類の知識や知恵の継承・向上、豊かな人間性の涵養《かんよう》(水がしみこむようにじっくり養い育てること)、健全な民主主義の発達に欠くことができないとの考えから、文字・活字文化の振興についての基本理念を定め、国や地方公共団体の責務を明らかにするとともに、文字・活字文化の振興策を推進し、それによって知的で心豊かな国民生活と活力ある社会の実現に寄与する。

 これが、文字・活字文化振興法の第1条に書かれた法律の目的です。

活字離れにストップ

Questionこの法律が作られた背景について
解説してください。

Answer一言でいえば、現在の日本で進行している「活字離れ」が背景にあります。

 全国学校図書館協議会は毎日新聞社と共同で、全国の小・中・高等学校の児童生徒の読書状況について調査しています。毎年5月の1か月に読んだ本・雑誌の冊数、書名、ふだん読んでいる雑誌名などをたずねるもので、同協議会のホームページでは1968年から2004年までの調査結果が公開されています。

 それによると、1980年代半ばから2000年頃までの間、平均読書冊数は小学生が7冊前後でほぼ横ばい、中学生が2冊強から微減、高校生が1・5冊前後から微減という状況でした。一方、「0冊」と回答した者(不読者)の割合は、小学生が10%前後から15%前後へ、中学生が40%台から50%台へ、高校生が50%台から60%台へと、いずれもやや増えています。つまり、子どもたちの活字離れは、少しずつ進んでいました。

 もっとも小・中・高校生ともに、2000年頃から平均読書数が増加に転じ、不読者数の比率も減少に転じています。ですから、青少年の活字離れにやや歯止めがかかり始めた気配はあります。

 これは、全校一斉読書(朝の10分間などに全員が好きな本を読む)の普及効果が大きかったといわれています。朝の10分間読書が広がるきっかけとなった「子どもの読書活動の推進に関する法律」ができたのは2001年でした。文字・活字文化振興法もそのような活字離れにストップをかける動きの一つと見ることができます。

 法案づくりに尽力した国会議員の声を聞くと、OECD(経済協力開発機構)の2003年国際学習到達度調査で、日本の高校生の読解力が低下しているというデータが出され、その報道に接して危機感を持った議員が少なくなかったようです。

 また、全国の市区町村の半数近くに公立図書館がないという不十分な読書環境、テレビの活況に加えインターネットの普及によって書籍、新聞、雑誌などこれまでの出版メディアの将来に陰りが見え始めたことなども、文字・活字文化振興法ができた背景といえるでしょう。

具体的な振興策は?

Question文字・活字文化振興法では、
具体的にどんな振興策が謳《うた》われているのですか?

Answer第1条の目的と第2条の定義は先に紹介しました。第3条は基本理念(全国民の自主性を尊重しつつ誰でもどこでも平等に文字・活字文化の恩恵を受けられる環境整備、国語が日本文化の基盤であることに十分配慮、学校教育での読み書きの力や言語に関する能力の涵養に十分配慮)、第4〜6条は国の責務、地方公共団体の責務、国・地方公共団体と関係機関との連携強化について書いてあります。

 以上は考え方や責務の所在など宣言的な部分で、文字・活字文化の具体的な振興策は第7〜第12条に掲げてあります(この法律は全12条)。

 第7条は地域振興策についてで、市町村は必要な数の公立図書館の設置に努める、国・地方公共団体は、司書の充実はじめ人的体制の整備、図書館資料の充実、情報化の推進といった施策を講ずるなど。

 第8条は学校教育における言語力の涵養についてで、国・地方公共団体はその効果的な手法の普及、教育方法の改善、教育職員の養成・資質向上に必要な施策を講ずるなど。

 第9条は国際交流についてで、国は外国出版物の日本語への翻訳支援、日本語出版物の外国語への翻訳支援など文字・活字文化の国際交流の促進施策を講ずる。第10条は学術的出版物の普及についてで、国はその支援など必要な施策を講ずる。

 第11条は文字・活字文化の日についてで、これを10月27日とし、国・地方公共団体はその趣旨にふさわしい行事が実施されるように努める。

 第12条は財政上の措置などについてで、国・地方公共団体は、文字・活字文化の振興策の実施に必要な財政上の措置を講ずるよう努める。

 もっとも、ここに列挙されているのは、いずれも大枠の努力目標です。実際には、これを参考に国や地方公共団体が具体策を立て、予算を組んで実施していくことになります。

家庭でできることは?

Question国や自治体の方向性はわかりました。
家庭でできることもありそうですね。

Answer私たちが家庭でできることは、決して少なくありません。子どもたちや若者のコミュニケーション能力不足が問題になっていますが、読み書きする力は、その能力向上におおいに役立ちます。

 算数の文章問題が解けない子どもには、国語力が足りずそもそも題意を把握できていないケースが多いとよく指摘されます。社会や理科も、少なくとも小学校のそれはほとんど国語のようなもので、国語力はあらゆる学問の基礎をなすものといえます。

 読書は楽しみながらその力が付くわけですから、読書を習慣にしている子どもは幸せだと思います。しかし、つまらない本や子どもの能力と合わない本を押しつけて「読め!」といえば、子どもを本嫌いにしてしまいます。幼児に絵本を読んでやる、子どもが読んでいる本を親も読みあれこれ話し合う、子どもが興味を示した本があれば続編や同じジャンルの本をさりげなく買ってくるなど、自然なかたちで文字に接する機会を与えてやるのがよいと思います。

 文章を書く機会を与えるのも読書と同じで、押しつけは逆効果でしょう。「学ぶ」とは「まねぶ」(真似する)だといいます。親がよく手紙を書いたり留守にするときメモを残したりしていれば、子どもも自然に同じことをするようになるのではないでしょうか。

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