更新:2008年8月16日
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持ち株会社

●初出:月刊『潮』1997年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question「持ち株会社解禁へ」というニュースを聞きました。
どういうことですか?

Answer日本の独占禁止法は、第九条第三項で持ち株会社を「株式を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社をいう」と規定しています。

 このように持ち株会社の定義まで書き込んだ法律は、国際的にみてもあまり例がありません。持ち株会社は英語で「ホールディング・カンパニー」ですが、この言葉は海外ではもっと一般的に「株式を所有している会社」の意味で使われます。そして持ち株会社には、株式所有を主たる事業とする「純粋持ち株会社」と、それを主たる事業としない「事業持ち株会社」の二つがある、と考えるのです。

 たとえば、日本の銀行はグループの事業会社の株式を、また巨大メーカーは系列メーカーの株式を所有していますから、ホールディング・カンパニーといえます。しかし、株式所有以外に本業をもっていますから、持ち株会社や純粋持ち株会社とはいえません。

 ところで持ち株会社は、ある会社の株式を所有すること(理論的には五〇%以上の所有が必要だが、実際はもっと少なくてすむ)によってその会社を支配できます。持ち株会社が親会社で、株式を所有されている会社が子会社です。

 さらに、子会社が孫会社を支配する、孫会社がひ孫会社を支配するというピラミッド型の支配構造をつくれば、比較的少額の資金で巨額の資金を支配することができます。すると、持ち株会社制度を通じて、少数の人びとによって産業が支配される恐れや、子会社・孫会社の一般株主の利益が損なわれる恐れが生じます。

 その悪い例が、戦前の日本の財閥。三井、三菱、住友などの財閥は、持ち株会社である財閥本社を核とする巨大なコンツェルン(多くの産業にまたがる独占的な支配システム)でした。そこで戦後、財閥は連合軍によって解体され、持ち株会社も独占禁止法によって全面的に禁止されてきたのです。

経済構造改革の起爆剤に

Question戦後五十年禁止されてきた持ち株会社が
解禁とは、なぜですか?

Answer持ち株会社解禁の議論が持ち出された背景には、まず、バブル崩壊後いっこうに回復しない日本経済の閉塞状況があります。八〇年代までの日本は、世界でもっとも経済的に成功を収めた国というイメージでしたが、当時の姿はいまや見る影もありません。

 しかし、持ち株会社制度を導入すれば、企業が事業再編・再構築(リストラクチャリング)のために事業部を分社化し、持ち株会社に権限を集中させて戦略的・効率的な経営を進めることができます。また、持ち株会社を通じて将来性のあるベンチャー企業を傘下に収めるとか、逆に不採算部門を切り捨てるといった、ダイナミックな企業経営が可能となります。先に述べたように、持ち株会社を使えば、ゼロから会社を興すよりはるかに少ない資金で他の会社を支配できますから、M&A(企業買収・合併)もこれまで以上に活発になります。こうして経済構造の改革を促し、日本経済の再生を図ろうというのです。

 もう一つ、持ち株会社解禁の強い追い風となっているのは、金融システム改革です。日本の金融システムは、「護送船団方式」の呼び名とおり、政府による厳格な規制と見返りの優遇措置によって守られてきました。しかし結果、世界の金融ルールから取り残され、東京市場の地位は低下の一途をたどっています。そこで「ビッグバン」と呼ばれる金融改革の必要性が叫ばれており、銀行、保険、証券の相互乗り入れをはじめとする規制緩和・自由化が準備されているのです。

 持ち株会社は、こうした金融システム改革をダイナミックに進める手段となります。また、金融業界はいまだに数十兆円以上にも達する不良債権を抱えています。持ち株会社制度は、リスクの分散や切り捨てが容易なので、この点でも金融業界から待望論があがっています。

財閥復活の恐れは?

Question持ち株会社が経済の活性化に役立つことはわかりました。
しかし、解禁して、持ち株会社のマイナス面が出てくる心配はないのですか?

Answer持ち株会社の解禁をめぐって、政府・与党が九七年二月に合意した独占禁止法改正案の骨子は、次のようになっています。

 (1)持ち株会社は原則自由(解禁)。(2)事業支配力の過度の集中を招くものは排除。(3)これらの規範は法令で明らかにし、行政裁量の範囲を少なくする。(4)規模が巨大であるものとしての基準は、総資産規模一五兆円とする。届け出は資産額三〇〇〇億円とする。(5)違反に対して公正取引委員会は実効ある排除措置を講じる。(6)金融会社の株式保有制限は維持する。金融関係業法の改正(金融持株会社法制定を含む)を早急に別途整備し、独禁法施行に間に合うように国会に提出するよう努める。(7)(6)の法案作成は与党独禁法協議会に諮る。(8)大規模会社の株式保有総額の制限は当面維持する。(9)今回の改正は五年で見直す。

 解説が必要でしょう。「事業支配力の過度の集中を招く」とは、持ち株会社が、大手都市銀行のような巨大金融会社とともに、総合商社や不動産会社などを傘下に置く場合などを意味します。たとえば、東京三菱銀行、三菱商事、三菱地所を同時に支配するような持ち株会社はダメということです。また、総資産一五兆円を超えるような持ち株会社は設立できませんから、たとえば住友グループ(総資産二一兆円)の会社すべてを傘下に収める持ち株会社はダメということです。

 さらに大蔵省の方針によると、銀行や保険会社がつくる持ち株会社は、預金者・契約者保護や産業支配防止の観点から、一般企業を傘下に収めることを禁止します。傘下に収めることができるのは、銀行(の持ち株会社)なら証券、保険、リース会社など、保険(の持ち株会社)なら銀行、証券、リース、健康・福祉関係などと制限されます。

 こうした制限から、持ち株会社を解禁してもただちに戦前のような財閥が復活するとは考えにくいことがわかります。

企業のあり方を大きく変える可能性

Question労使関係はどうですか。いままで事業部だったのが分社化され、
ある日突然、社員が聞いたこともない会社に合併されるような心配は?

Answer持ち株会社と株式を所有されている会社の関係は、現在の親会社と子会社の関係と同じとみなされます。現在のグループ労組も、ほぼそのまま機能すると思います。ただし、企業経営がダイナミックに動くということは、労働者もまたダイナミックに動くということ。経営側は持ち株会社のメリットとして「人事・労務管理の効率化」をあげていますから、労使関係にも影響は避けられないと思います。社員の会社への帰属意識も、これまでとは大きく変わってくるのではないでしょうか。

 もっとも、今回は独占禁止法の改正だけで、持ち株会社制度に不可欠とされる連結決算、連結納税制度の導入が見送られています。単独決算・納税をやめ、親・子会社やグループ会社での連結決算・納税を認めると税収が大幅に減ってしまう大蔵省が、強硬に反対しているからです。このため、持ち株会社をつくるとかえってコストがかかってしまい──たとえば赤字部門を別会社にすると課税所得が増える、別会社に資産を移すと簿価でタダ同然でも時価が顕在化し税金がかかるなど──合併がやりやすくなることを除けば、それほど大きなメリットはないという見方もあります。

 将来、連結納税制度が認められれば、持ち株会社制度は、日本の企業のあり方を大きく変える可能性があると思います。

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