更新:2006年9月30日
現代キーワードQ&A事典の表紙へ

ニート

●初出:月刊『潮』2005年2月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

ニートとは?

Questionテレビや新聞で「ニート」という言葉をよく見聞きします。
どういうことですか?

AnswerニートはNEETで、英語の新しい言葉(造語)です。これは「Not in Education, Employment, or Training」の頭文字をつなぎ合わせたもの。

 つまり「教育、雇用、職業訓練のいずれをも受けていない人」を意味しています。

 ただし、長年勤めた会社を退職し、孫の面倒を見ながら年金生活という人は、学校にいかず、働かず、職業訓練を受けていなくても、ニートには含みません。ニートと呼ぶのは若い人。その年齢であれば、学校に通うか、働くか、働く準備をするのが一般的と思われるのに、そのどれもしていない人だけです。

 この言葉は、イギリスのブレア政権が1999年に出した「Bridging the Gap」という調査レポートによって注目されるようになりました。このレポートは、イギリスで義務教育を終えた16〜18歳の9%(16万人以上)が毎年ニートになっていると報告。社会から排除されるかたちになっており、きわめて問題だと指摘しました。

 レポートでは、次のような分析がされています。16歳で学校を卒業した時点で5人に1人がニートである。その段階でニートだと、その先もニートであり続ける場合が多い。ニートの少年少女には薬物中毒、アルコール中毒、盗みなど不良行為、ホームレス化、妊娠や中絶など、深刻な問題をかかえる者もいる。ただブラブラとした生活を続けるだけでなく、うつ状態はじめ身体が不健康な者も多い。

 そして、日本でも、学校にも通わず、働きもせず、職業訓練を受けているわけでもないイギリスのニートと同じような若者が増えていることが、最近わかってきました。日本でテレビや新聞がニートを取り上げはじめたのは2004年の春以降です。

裕福で高学歴のニートも

Question日本のニートは、イギリスのニートと
ほとんど同じと考えてよいのですか?

Answer似ているところもありますが、違っているところもあります。イギリスは「階級社会」といわれるように、上流階級(貴族、資本家、大地主など)、中産階級(中小企業経営者、医者、弁護士、大企業エリートなど)、労働者階級が厳然と分かれています。そして、ニートは非白人に多い、白人の中では労働者階級に多い、場所でいえば旧炭鉱地域や都市のスラム的な地域に多いといわれます。先に紹介したレポートを出したのが労働党政権の「社会的排除防止局」だったのは、そのような問題意識があってのことです。

 ところが、「一億総中流」の日本では事情が異なります。日本では「労働者階級の中でも貧困な家庭からニートが生まれる」というような認識は、あまりありません。経営者や大企業の重役や地主や医者や弁護士の子どもでも、学校にいかず働きもせずブラブラしていて困るという若者がいるでしょう。

 イギリスでは、子どもをイートン校・ラグビー校からオックスフォード大学・ケンブリッジ大学に進ませるのは中産階級以上ということになっていて、イートン校出身のニートなど問題にされません。日本では東大に毎年数十人も送り込む名門私立高校で、不登校者が優に1クラス分いる(何年もやめずに高い授業料を払い続けている)という話があります。裕福な家庭のニート、高学歴ニートが珍しくないわけです。

 つまり、日本のニートは、「社会的な産物」というよりも、不登校や引きこもりの延長で「家庭や人間関係の問題の産物」という側面が大きいのです。また、行政による「職業訓練プログラム」が不十分ですから「職業訓練なし」がただちに問題ともいえません。

 そこで厚生労働省の「労働経済の分析」(2004年版労働経済白書)では、「仕事をしておらず、求職活動もしていない非労働力人口のうち、(1)15〜34歳、(2)学校を卒業、(3)未婚、(4)家事・通学をしていない者((1)〜(4)すべてにあてはまる者)を数えて、2003年に52万人に達したと発表。これが日本版ニートの数で、前年より4万人増えています。

タイプ別の増えた理由

Question日本でニートが増えた理由は、
どんなことが考えられますか?

Answerニートといっても、若者たちの事情は千差万別。タイプによって増えた理由は大きく異なります。

ニートを便宜的に三つに分けて説明しましょう。

 まず、「享楽《きょうらく》・非行型」とでも呼ぶべきグループ。これは中卒・高校中退者で、家庭があまり豊かでないことが多く、イギリス同様に深刻な不良行為(窃盗や薬物中毒など)におぼれる者もいます。ただし、学校や会社では受け入れられないが暴走族で大活躍することはあるわけで、きっかけさえつかめば、立派に更正する場合も多いでしょう。背景には貧困、受けた教育の悪さ、本人の資質などが考えられます。

 次に「引きこもり型」。不登校や引きこもりは小学校でも大問題ですが、その延長上にある場合が少なくありません。このタイプは人間関係をうまく結ぶ(社会的な生活を送る)ことができないので、問題は深刻です。うつ病など病気と診断されることも多いはず。小学生が「学校に行けない」というときは本当に頭やお腹が痛いことが多く、ただ「頑張って行きなさい」といっても解決になりません。このタイプの最大の問題は、家庭の子育てにあると思います。

 三つめに「モラトリアム型」。たとえば、高卒や大卒で一度は就職したが、早々に退職してしまいブラブラしている。あるいは、学校は出たものの自分に合った仕事とは何かを悩み、就職に踏み切ることができないなど。これには、軽度の引きこもりも含まれるでしょうが、周囲の期待や自分の理想が高すぎるケースもあるでしょう。一部企業を除き景気が悪く、企業のアウトソーシング(外部委託)化も進んでいるため、新卒採用が減っている背景もあります。いずれにせよ、このタイプのニートは、「さっさと家を出て働け」といわない親がいるから、存在しているわけです。

どう取り組むべきか?

Question私たちの社会は、ニートに対して、
どのように取り組むべきでしょう?

Answerこの問題を報じる新聞記事を見ると「ニートやフリーターが増えて困る。税収が減るからだ」と書いてあることが多いのですが、そもそもこの考え方から改めるべきです。

 ニートとフリーターは異なります(親のすねをかじるフリーター=中途半端なアルバイト生活者はニートに近いといえますが)。企業が正社員を減らし、不祥事ばかりで勤めがいのある企業も減れば、アルバイトやフリーターは増えて当たり前。税収が減って困るのは高齢者も同じですから、若者だけを責めるのも酷であると思います。

 「怠けぐせの甘ったれた若者が増えた」という見方も必ずしも当たっていません。江戸時代を描く落語には放蕩《ほうとう》息子が盛んに出てきますし、「高等遊民」は明治時代の言葉。50万やそこらのニートを養えないほど日本社会が衰退してしまったなら、それは若者のせいではなく「大人のせい」に決まっています。

 最後に、ニートを抱えている家庭へのアドバイス。まず、周囲が高望みせず本人にも高望みさせず、働いて自立する喜びを経験させることが必要です。100%を求めずに(それを求めると「100か0か」になってしまう)何でもよいから働かせ、少ない給料でも誉めてやってください。近所や親戚にも隠して家に置いておくというのが、いちばんいけません。病気ならきちんと医者に見せること。子どもや若者は、親の話を素直に聞きません。それが正常な成長ですが、ちょっと年上の先輩、いとこ、おじさんなどに憧れ、その人の言葉だけはよく聞くものです。そのような人からアドバイスを受けるのも効果的でしょう。

「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 2005-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.

Valid CSS! Valid XHTML 1.0! Another HTML-lint がんばりましょう! 月刊「潮」 坂本 衛 すべてを疑え!!

現代キーワードQ&A事典の表紙へ
inserted by FC2 system