●初出:月刊『潮』2002年5月号「市民講座」●執筆:坂本 衛
外務省問題を伝えるニュースに「NGO」という言葉がよく登場します。
どういうことですか?
NGOは、Non-Governmental Organizationsの頭文字で、「非政府組織」を意味します。名付け親は国連で、もともとは国連憲章第七一条にも明記され、国連の経済社会理事会に対して協議資格を持つ民間団体を指していました。
その基本的な特徴は、政府から独立している私的な団体であること(非政府性)、組織のあり方や活動の目的が国境を越えて自由な運動を高める国際的なものであること(国際性)、多国籍企業とは異なって営利を目的としないこと(非営利性)など。
この意味でのNGOのルーツは、植民地時代にキリスト教会がおこなった慈善活動でしょう。1855年にできた世界YMCA同盟や1863年の五人委員会などがそれで、後者は後の赤十字国際委員会。
その後、二度にわたる世界戦争で、戦争被害者の救済活動や戦災を受けた都市の復興活動に取り組む団体が、次々に生まれました。1960年代以降は、アジアやアフリカに誕生した独立国(発展途上国)を支援するNGOが登場します。ソ連の崩壊で東西冷戦が終わった90年代以降は、返って地域紛争が激化したため、世界各地で難民支援のNGOが盛んに活動しています。
現在では、冒頭に紹介した国連に関係する非政府組織以外にも、地球的な視野が必要な活動に非政府・非営利の立場で取り組んでいる市民団体をNGOと呼んでいます。
国連も、1996年にNGOについての考え方を改正。かつて国連が登録するNGOは3か国以上に支部を置く必要がありましたが、いまでは国内だけのNGOでも資格を得られるようになっています。
有名なNGOには、国際条約を成立させた「対人地雷禁止国際キャンペーン」、紛争地域で活躍する「国境なき医師団」、野生動物保護の「世界自然保護基金」(WWF)、反核・反環境破壊運動の「グリーンピース」などがあります。
NPOという言葉も、ニュースなどでよく見聞きします。
NGOとどう違うのですか。
NPOは、Non-profit Organization の頭文字。こちらは「非営利組織」、または政府や地方自治体などと区別する意味で「非営利民間組織」と訳します。
「NGOとNPOはほとんど同じ」という人もあり、そう考えてもあまり不都合は生じませんが、両者はルーツが異なります。NPOはアメリカで使われ始めた言葉で、非政府・非営利の民間組織を指します。NPOのほうが大きいくくりで、NGOはNPOに含まれると考えていいでしょう。
アメリカでは、連邦政府・州政府・市・半官半民の特殊法人など公的部門を第一セクター、企業など民間の営利部門を第二セクター、法人格をもつ市民団体・公益法人・学校法人・社会福祉法人など民間の非営利部門を第三セクターと呼びます。この第三セクターに含まれる組織がNPOです。(なお日本では、行政を第一セクター、企業を第二セクターと呼ぶところまでは同じですが、第三セクターは半官半民の組織――たとえば県と地元企業が半々で出資する鉄道会社などを指します)
アメリカの制度では、NPOを法人として認定するのは州法で、設立の要件は州によって異なります。一般的にいえば、NPOの設立はきわめて簡単で、名称、活動目的、住所、代表者名などを決められた書式に記入し、署名のうえ法人登録税(10万円を超えないような金額)を添えて窓口に出すだけ。申請が受理されるまでの期間は2日〜数日といいます。
ずいぶん簡単ですが、
どうしてですか?
アメリカは、まだ建国から200年ちょっとの若い国。ヨーロッパから渡ってきた人びとが、東海岸から西部へフロンティア(開拓地)を進めながらつくった国で、教会や学校をはじめさまざまな組織や制度は、そこに住むと決めた人がゼロからつくったわけです。ですから、NPOのような民間団体をつくることは市民の自由であり権利であるという考え方が根強くあります。簡単につくれるだけでなく、NPOを積極的に育成して社会の一翼を担わせようという考え方も、社会全体で認められています。
たとえば、NPOには税制上の優遇措置や、郵便料金の割引があります。州法上の優遇措置は州ごとに異なりますが、連邦法上の優遇措置は、税控除と被寄付控除資格の二つ。
このうち税控除は、ほとんどのNPOが受けることができます。被寄付控除資格は、より公益性が高いNPOにだけ認められます。これは、資格を持つNPOに対して寄付をすると、寄付をした側が企業であれば10%まで、個人であれば50%までを、課税所得から控除してよいという仕組み(アメリカ内国歳入法第五〇一条c三項)。たとえば、所得税500万円を払わなければならない人は、250万円を資格を持つNPOに寄付し、残り250万円を税金として納めることにしてもよいのです。
実際は、現金の寄付、土地や建物の寄付、遺産の寄付などの別や、寄付する先のNPOの活動内容によっても、控除率が細かく分かれています。いずれにせよ、アメリカは税金を納めるとき、その何割かをNPOへの寄付に回すかどうか選べる仕組みで、これがNPOの発展の大きな原動力になっています。
日本のNGOやNPOの
現状を教えてください。
戦前の日本では、国のために命を捨てるのが当然でしたから、民間の非営利活動も国に奉仕するものばかりでした。
戦後は、労働運動、消費者運動、平和運動、反公害運動など、政府と対峙《たいじ》するような住民・市民団体が生まれ、これらは、現在のNGO・NPOのルーツともなりました。ただし、自分たちの権利を守るためやむなく立ち上がったという側面が強く、戦場で敵味方の区別なく看護するというようなボランティアとは、根本的に違います。
日本で、NGOやNPOが本格的に認知されたのは、ついこの間――1995年の阪神・淡路大震災のときのこと。このときは、若者を中心に全国からボランティアが集まり、さまざまなNPOを結成して大活躍しました。
以来、こうしたボランティア活動を支援する制度の導入が検討され、1998年にはいわゆるNPO法(特定非営利活動促進法)も成立しました。
しかし、これは申請する市民団体にNPOとしての法人格を与えることがねらいで、アメリカのような税制上の優遇措置はありません。4000以上あるNPOのうち、昨年、免税措置を受けられたのは、わずか2団体。現在の日本には、NGOやNPOを社会を担う大きな存在に育てようというシステムがないのです。
政府主催のアフガニスタン復興支援に関するNGO会議で、特定のNGO関係者が出席を拒まれた事件も、政府から独立しているからこそ意味があるはずのNGOを「政府のコントロール下に置かなければならない」と、政治家や官僚が考えている証拠。先進諸国では考えられない時代錯誤といえます。
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