更新:2008年8月6日
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NPO法案

●初出:月刊『潮』1996年8月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question最近ニュースで「NPO法案」という言葉を
耳にします。どんな法案ですか?

AnswerまずNPOの説明から始めましょう。NPOは、Non-Profit Organizationの頭文字をとったもので、非営利組織の意味。似た言葉にNGOというのがありますが、これはNon-Governmental Organizationの頭文字。こちらは非政府組織と訳します。

 では、営利を追求していない政府や市役所はNPOかというと、そうではありません。同じように、政府に属さない民間会社はNGOかというと、これも違います。

 厳密な定義が存在するわけではないのですが、おおむね、(1)政府や自治体など行政組織に属さない民間団体、(2)営利追求を目的としていない、(3)市民の自発的な意思に基づき設立され活動している、の三つに当てはまる組織をNPOと呼んでいます。NGOもほぼ同じ意味ですが、とくに「非政府」という点が強調されています。従来からある言葉でNPOに近いのは「市民団体」ですね。

 NPOの活動ジャンルは、社会福祉、教育・生涯学習、文化、スポーツ、国際交流、地域社会、環境保護、リサイクル、人権擁護、差別解消、消費者保護、防災・災害復旧など、実にさまざまです。

 こうした組織が大活躍したのが、一九九五年一月の阪神・淡路大震災。「ボランティア」という言葉が日本に定着したのはこのときですが、何かできないかと集まった若者たちを見事に組織化したのは、役所でなくNPOでした。薬害エイズ問題の追及、官官接待の告発、情報公開の推進などでも、NPOは活躍しています。

 いま日本では、国・地方を問わず官僚組織が肥大化し、縦割りや縄張り争いの弊害、上意下達システムの非効率、先例主義による硬直化、日常化した伝票操作が象徴する腐敗など、さまざまな問題が噴出しています。

 NPOは、こうした官僚システムの堕落と平行するように盛んになり、行政の補完的な役割さえ果たしてきました。NPOは、大事なことを官僚まかせにしておけないという、草の根民主主義的なムーブメントともいえるのです。

NPO法案のねらい

Question法案は、NPOを
どうしようというのでしょう?

AnswerNPOという言葉の発祥地アメリカでは、NPOはどのように位置付けられているでしょうか。アメリカでは、NPOが州に登記を申請すれば法人(法律が権利・義務の主体として認める団体)とみなされます。NPOが寄付などの受け取りについて税制上の優遇措置を受けるには、連邦歳入局に免税団体資格取得の申請をします。ここに登録されているNPOは、一〇〇万団体以上にのぼっています。

 これに対して日本のNPOは、法人としての明確な位置づけがされていません。NPOには「法人格」がなく「任意団体」とみなされています。いくら組織がしっかりしていて、歴史や伝統があるNPOでも、法律的なあつかいは、飲み仲間がつくるゴルフを楽しむ会と変わらないということです。

 NPOは、営利を追求しないのですから、株式会社や有限会社にはなれず、社会福祉法人でも学校法人でも宗教法人でもありません。公益法人(財団法人や社団法人)になるチャンスは皆無とはいえませんが、たとえば財団法人化には数億円の基本財産と、所管官庁の認可が必要です。日本に存在する多くの財団が、官庁の外郭団体として設立され、天下りの受け皿となっていることは周知の事実。それは草の根NPOの対極に位置する団体というべきでしょう。

 ところで、法人格がないと、銀行口座ひとつとっても組織名では開設できないということになります。もちろん融資の対象にもならず、NPOの代表者が個人として借り入れざるをえません。事務所を借りる際も組織名ではダメで、代表者個人の署名と実印が必要となります。

 こうしたことは、明らかにNPO活動の制約となっています。そこで、NPOとは何かを定義づけ、これに法人格を与えて、NPO活動を支援しようというのが、このところ議論されているNPO法案の最大のねらいなのです。

優遇税制の導入も

Question税制上の優遇措置についても、
検討がなされたようですね。

Answer活躍が伝えられるNPOですが、資金面ではどの組織も苦しい運営を強いられています。なにしろ非営利組織ですから、メンバーの払う会費が最大の財源。カンパや街頭募金には限界がありますから、足りない分は営利法人である企業からの寄付を求めたいところ。ところが現在は、会社が(個人も)NPOに対して寄付をしにくい仕組みになっています。

 というのは、公益法人に対して寄付する場合は、その金額を損金に参入することができるのです。しかし、NPOのような任意団体への寄付は、経費で落とすことができません。申告のときボランティア組織の領収証を添付しても、税務署ではその組織への贈与や利益処分と見なします。これは課税対象となり、金額に応じて税金がかかります。

 もっとわかりやすくいうと、年間売上高一億円の会社が、仕入れ金額や人件費や家賃や水道光熱費を払ったあとで三〇〇万円残ったとします。これを神戸で震災ボランティアを続けるNPOに寄付すると、税金として一〇〇万円やそこらをもっていかれるのです。三〇〇万円の社用車を買えば税金はタダですから、寄付をやめてクルマを買う社長のほうが多いでしょう。

 これを改めて、寄付をする企業や個人の側に優遇措置を設けることも、NPO法案では検討されています。

NPO論議の対立点

QuestionNPO法案の行方を
教えてください。

AnswerNPO法案は、九五年十一月に新進党が国会に提出し、その後、自民・社会・さきがけの与党案や共産党案が提出されました。九七年六月に終わった通常国会でもこの三つが審議されましたが法案成立には至らず、野党案二つは廃案、与党案は継続審議となりました。この過程で、NPO法案をめぐる対立点も明らかになってきました。

 主として与党側から提起されたのは、法律で認めるNPOの要件を緩やかにしすぎて、たとえばオウム教団のような組織が、簡単に法人格を取得したり、税制上の優遇措置を受けるのはまずいという意見。ベンツに乗る暴力団幹部が生活保護費を受け取っていたというような話になっては困るというわけです。

 すると、登録を求めるNPOには会員名簿を提出させる必要がある、というような議論まで出てきます。当初の与党案には、会員名簿の役所への提出のほか、法令違反などが疑われた場合は役所が報告を求め、立ち入り検査や改善命令、認証取り消しなどができる、という内容が盛り込まれていました。

 ところが、NPOは政治や行政を批判をする場合があります。薬害エイズ問題で活動するNPOで、厚生省を批判しないものはなかったはず。環境保護を訴えるNPOが、原発反対や再開発反対を叫んで、運輸省や建設省と対立するケースだってあるでしょう。

 すると、NPOに役所への名簿提出義務を課したり、役所に立ち入り調査権を与えたりすると、行政のNPOに対する不当な干渉を招くのではないか、という意見が当然出てきます。

 また、野党案は税制措置を盛り込んでいますが、与党案は税制措置について触れておらず、これまでの任意団体と同じあつかいです。NPO関係者には、これではほとんどメリットはないという意見が多いようです。

 というわけで、今回はまとまりませんでしたが、NPO活動の重要性が日増しに大きくなっていることは事実。さらに議論を重ね、本当にNPOを支援し、草の根民主主義を育てる法律を、成立させてほしいものです。

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