更新:2008年8月16日
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地球温暖化

●初出:月刊『潮』1997年12月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question地球温暖化という言葉を最近よく聞きます。
どういうことか教えてください。

Answer「地球温暖化」とは、文字どおり地球が暖かくなること。ただし、自然にではなく人類の活動によって暖かくなる現象を、問題としてとらえた言葉です。

 地球は太陽によってつねに暖められていますね。しかし、どんどん暑くなるわけではなく、地表の気温は平均約一五℃と安定しています。これは、地球が吸収する太陽エネルギーと、地球(地表や大気)から放出されるエネルギーとが、つりあっているからなのです。

 ところで、地表に到達する太陽エネルギーと、地表から放出されるエネルギー(赤外放射)を単純に計算すると、放出エネルギーのほうが大きく、地球の気温はマイナス一九℃近くまで下がる見積もりになります。

 実際そうなっていないのは、地表からの放出エネルギーの大部分が、大気中の雲、水蒸気、二酸化炭素(CO2)、オゾンなどによって吸収され、逆に地球にむけて放射されているためです。つまり、大気中に水蒸気やCO2が存在することによって、地球の大気は適度に暖められているわけです。このことを「温室効果」と呼び、CO2のような気体を「温室効果ガス」と呼んでいます。

 そして十八世紀末に始まった産業革命以来、こうした地球大気のメカニズムに、ある異変が起こってきたのです。

気温上昇で海面も上昇

Question二酸化炭素(CO2
の増加ですね?

Answerええ。人類が石炭や石油などの化石燃料を大量に消費するようになって、大気中のCO2が目立って増えはじめたのです。

 ハワイのマウナロア観測所では、一九五八年から大気中のCO2濃度を観測していますが、五八年の〇・〇三一五%が九七年は〇・〇三六三%と、三十九年間に一五%も増えました。南極の古い氷の分析から、産業革命以前は〇・〇二八%程度だったと推定されています。

 一〇〇のうちの〇・〇三が、〇・〇三五や〇・〇四になっても、どうということはないように感じられるかもしれません。しかし、CO2は微量でも非常に大きな温室効果をもつ気体。この調子で大気中のCO2が増加していくと、事態はきわめて深刻です。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、二一〇〇年にCO2濃度が一九九〇年の二倍になれば、平均気温は一〜三・五℃ほど上がると考えられています。これが「地球の温暖化」です。気温上昇とともに、極地方の氷が溶け、海面が一五〜九五センチほど上昇すると考えられています。

 たった三〇センチの海面上昇でも、現在日本にある砂浜の六割が姿を消す恐れがあります。珊瑚礁の島国ではもっと深刻で、南太平洋のフィジー、ツバル、ニューカレドニア、インド洋のモルディブなどでは、国土のほとんどが水没しかねません。ゼロメートル地帯が多く堤防の国で有名なオランダでも、事情は同じです。

異常気象の頻発も

Question気温が上がって、海面が上昇するほかに、
どんな影響が考えられますか?

Answer動植物の生態系に大きな影響が出ると思います。極地方でシロクマの生息域が狭まるというようなことが、世界的に起こるでしょう。気温の上昇は降雨量の減少につながり、アフリカのサバンナで雨がほとんど降らなかったのが、まったく降らなくなるといった変化をもたらす恐れがあります。そうなると、絶滅の危機に瀕する動植物も出てきます。マラリアなどの流行地域が拡大する恐れも指摘されています。

 また、何が起こるか正確には予測できないのですが、「暖かくなった」という以外に異常気象が頻発する恐れがあります。異常気象は、気温や降水量などが、統計的に二十五年〜三十年に一回観測される程度、平均からズレる現象です。世界七三地点での異常高温や異常低温を、一九〇一年から十年ごとに集計すると、一九五〇年以降、明らかに多発しているというデータがあります。

 この異常気象は、暑夏、熱波、暖冬だけでなく、かんばつ、冷夏、寒冬、長雨、豪雪など、さまざまなかたちで現われます。CO2の増加が最近の異常気象の一因である可能性があり、今後大気中のCO2が増え続ければ、世界中をさらに厳しい異常気象が襲う恐れも否定できないでしょう。

CO2排出量を減らすしかない

QuestionCO2の増加による「地球温暖化」を防ぐには、
どのような手立てがありますか?

Answer人類は、化石燃料をすでに二百年以上燃やし続けていますから、温暖化を完全に防ぐことはできません。今からできることは、CO2の排出量をなるべくおさえ、温暖化の影響を小さくすることだけです。

 それには、(1)化石燃料の消費そのものを抑制する、(2)化石燃料に代わるエネルギーを使う、(3)化石燃料から出るCO2を吸収する手立てを講じる、といった方策があります。

 まず(1)ですが、日本の例でいうとCO2は、産業部門四〇%、運輸部門二〇%、家庭一三%、オフィス一二%という割合で出ています。ですから、産業部門の省エネルギーをいっそう進めるとともに、自動車の低燃費化や、モータリゼーションの見直しが必要でしょう。同時に、家庭やオフィスの省エネが欠かせません。

 (2)は、水力、風力、太陽光、原子力など、火力以外のエネルギー開発が必要ということ。最大の問題は、世界的に原子力発電に対する信頼が大きく揺らいでいることです。当面は、原子力発電に依存しなければ、本格的な地球温暖化対策は不可能ではないかと思うのですが。

 (3)は、化石燃料から出てしまったCO2をどうにかして処理すること。現在の地球でCO2を吸収・固定している最大のものは海、ついで森林です。植物は、光合成という働きによってCO2を吸い酸素(O2)を出します。差し引きの炭素(C)が植物の体になるわけで、緑を増やすことはCO2の抑制につながります。

CO2抑制の日本案に失望

Question世界各国の動きは
どうでしょうか?

Answer地球温暖化は、九二年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)あたりから、各国に切実なテーマと考えられるようになりました。 九七年十二月には、「気候変動枠組み条約」(温暖化防止条約)の第三回締結国会議(京都会議)で、CO2削減の具体的目標を決めることになっています。

 ところが、京都会議の議長国に自ら名乗りをあげた日本政府の情けない対応が、世界中から失望をかっています。九七年十月になって、日本案の骨子が明らかになりましたが、それによると、「二〇一〇年までに、CO2排出量を九〇年水準の五%減とすることを基本とする。ただし、国ごとの差異や弾力的な実施方法を認める」というのです。

 これは、対外的には世界最大のCO2排出国アメリカ(全世界の四分の一近くを出しています)を納得させることだけに心を砕き、国内的には環境庁、通産省、外務省などが自らの省益だけを主張して妥協に至った提案。対して、EU(欧州連合)諸国や地球環境運動を展開するNPO(非政府組織)から、強い批判の声が上がっています。

 問題を難しくしているのは、産業革命以来もっぱらCO2を出し続けて成長を遂げた先進諸国と、これから成長を目指す開発途上国の立場の違いです。途上国に対して、CO2が出るから成長をあきらめろとは決していえません。といって、途上国の協力なしにCO2抑制はできません。そんな困難な舵取りを、日本政府に求めるのは、荷が重すぎるようです。

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