更新:2006年9月30日
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ペイオフ解禁

●初出:月刊『潮』2005年6月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

2005年4月から全面的に解禁

Question金融機関のペイオフが全面解禁されたと聞きました。
どういうことですか?

Answer「ペイオフ」は、「(借金などを)全部払う」「清算する」という意味の英語「pay off」からきた言葉です。「ペイオフ解禁」や「ペイオフの凍結解除」というときのペイオフは、金融機関が破綻した場合に、預金などの「一定額」を保護して支払うことを意味しています。

 これまで日本では、銀行をはじめとする金融機関が破綻――つまり経済的に立ち行かなくなって倒産したときも、預金だけは、公的資金(税金)を投入するなどして「全額」が保護されてきました。

 しかし、「護送船団」などと揶揄された金融の世界にもグローバル化の波が押し寄せ、市場原理や競争原理が働くようになって、金融機関が倒産する例が増えてきました。1998年以降に破綻した金融機関は145にのぼっています。

 こうしたなか、破綻した金融機関の預金を全額保護するのは、無関係な人びとが納めた税金で民間企業の損失をカバーすることになって望ましくない、という考え方が主流を占めるようになりました。預金者にも、銀行は倒産する場合があり、預金にはリスクが付きものだという意識が高まっています。

 そこで、2005年4月から、金融機関が破綻した場合に、従来は全額が保護されてきた預金などを、今後は一定額を限度として保護する(必ずしも全額は保護されなくなる)ペイオフの制度が、全面的にスタートすることになりました。これが「ペイオフの全面解禁」です。具体的には、一金融機関の一預金者について、預金1000万円とその利息までが保護されることになります。

 預金の払い戻しには、預金保険制度のもとで預金量に応じて金融機関が積み立てた基金を使います。どんな場合でも1000万円とその利息しか払い戻さないというのではなく、破綻した金融機関の財産がどの程度残っているかによって、1000万円を超える部分の払い戻し額が決まります。

保護される預金とは?

Question金融機関や預金の種類はいろいろですね。
どれが保護されるのですか?

Answerまず、全額が保護されるのは「決済用預金」と呼ばれるもので、当座預金・利息のつかない普通預金など。以上については1000万円までという枠はなく、万一、金融機関が破綻したとしても全額が戻ります。

 元本1000万円までとその利息が保護されるのは、「一般預金等」と呼ばれるもので、利息のつく普通預金・別段預金・定期預金・通知預金・納税準備預金・貯蓄預金・定期積金・掛金・元本補てん契約のある金銭信託(ビッグ等の貸付信託を含む)・金融債(ワイド等の保護預り専用商品に限る)・以上を用いた積立・財形貯蓄商品など。以上については、ある個人の名義のものを合算して「1000万円+その利息」を超える金額が、金融機関が破綻したとき戻ってこない可能性があります。

 預金保険制度の対象となる金融機関は、日本国内に本店がある銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・信金中央金庫・全国信用協同組合連合会・労働金庫連合会です。以上の(日本の金融機関の)海外にある支店・政府系金融機関・外国銀行の日本にある支店は対象外です。

 預金保護の対象となっていないのは、外貨預金・他人名義または架空名義預金・譲渡性預金・オフショア預金・日本銀行からの預金(国庫金を除く)・金融機関からの預金(確定拠出年金の積立金の運用部分を除く)・預金保険機構からの預金・無記名預金・導入預金・元本補てん契約のない金銭信託(ヒット等)・金融債(保護預り専用商品以外のもの)など。これらは、金融機関が破綻したときに全額が戻ってこない可能性があります。

 普通預金と定期預金しか利用していないという一般的な預金者は、その金額を足して1000万円以下であれば、預けている銀行が破綻しても全額が保護されますから、心配はいりません。総額が1000万円を超える人は、複数の銀行に分け、それぞれに預け入れる金額が1000万円を超えないようにしておけばよいわけです。

 心配な方は、一度、金融機関に相談されることをおすすめします。

家族名義の預金はどうなる?

Question家族名義や個人事業用の預金保護は、
どうなるのでしょう?

Answer同じ家族でも、夫婦や親子はそれぞれ別人格を持つ法的主体ですから、その名義に従って別々の預金者として保護の対象となります。ある銀行に夫名義で普通預金200万円と定期預金600万円、妻名義で定期預金が300万円あれば、夫800万円と妻300万円それぞれが1000万円以下ですから、全額が保護されます。

 ただし、家族の名義を借りただけの預金は、他人名義預金として保険の対象外となるので、注意が必要です。学資積み立てのため子ども名義の口座を作れば普通は他人名義と見なされることはないでしょうが、赤ん坊の名義で1000万円を預け入れ贈与税も払っていないという場合は、他人名義と見なされ保護されません。

 個人事業を営んでいる人は個人名義(たとえばヤマダタロウ)の預金と事業用(たとえばオフィスヤマダ)の預金が同一人のものとして合算されます。法人では、名義が社長だったり支店名だったりしても一法人として合算されます。もちろん、ある人の預金は、金融機関が同じであれば支店が違っていても合算されますから、ご注意を。

 そのほか注意が必要なのは、マンションなどの管理組合が修繕積立金を預金するケース。1戸当たりの積立金が150万円でも、全40戸で総額6000万円ということがあります。預けていた金融機関が破綻して5000万円が返ってこないというのでは、目も当てられません。金融機関を分散するか、管理組合が法人格を取得していない場合、規約に「居住者は積立金の分割請求権がある」という項目を盛り込むなどの対応が必要です。

 町内会・同窓会・趣味のサークルなどが会費などを預金する場合も、金額が多くなるときは、金融機関に相談したほうがよいでしょう。

破綻の際の段取りは?

Question金融機関が実際に破綻してしまったら、
どんな手続きが必要ですか?

Answer金融機関が破綻したときは、預金保険制度に基づいて預金保険機構が破産手続きを行います。個々の預金者は面倒な手続きは不要です。

 保護の対象となる預金は、「名寄せ」(同一人の預金を合算すること)を済ませ、払い戻しの準備が整ってから引出せるようになります。それまでに日数がかかりそうな場合には、預金者は普通預金一口座あたり60万円までを限度に仮払いを受けることができます。仮払いの実施は、破綻後1週間以内に決定され、新聞などで告知されます。

 その後に、1000万円までと利息が引き出せるようになります。1000万円を超える部分と利息については、その金額に、破綻した金融機関の財産の状況などに応じて決めた「概算払い率」を乗じて算出した金額が支払われます(概算払い)。

 さらに、破綻した金融機関を処理して回収された金額が、回収費用を差し引いても概算払い額を上回る場合には、その金額が追加で支払われます。ただし、1000万円を超える部分については、最終的に戻ってくる額がゼロかもしれない、というのがペイオフ制度なのです。

 ペイオフ解禁を、わずらわしく感じる方もいるかもしれませんが、これは時代や制度が避けることのできない大転換。私たちはしっかり受け止めて、よりよい暮らしに生かしていく必要があります。

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