更新:2006年9月30日
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プルサーマル

●初出:月刊『潮』2001年8月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Questionニュースで「プルサーマル」という言葉を聞きました。
どういうことですか?

Answer「プルサーマル」は、「プル」つまり「プルトニウム」と、「サーマル」という二つの言葉を合体させた造語です。

 まず「プルトニウム」ですが、これは放射性元素(放射能を出す物質)の一つで、元素記号はPu、原子番号は94。原子炉の燃料に使われるウランとおおよそ似たような物質であると思ってください。ただし、ウランと大きく異なる点が二つあります。

 第一に、ウランが天然の鉱物として存在するのに対し、プルトニウムはウランを原子炉で燃やした後に得られます。アメリカの原爆製造計画の過程でもたらされた1940年当時は、天然には存在しない物質と考えられていました。その後、ウラン鉱物中にごくわずか含まれることがわかっています。

 第二に、原子炉でウランを燃やすことによって得られるプルトニウムは、使用済み燃料を再処理して燃えかすを取り除くなどすれば、核燃料として再利用できます。

 現在の原子炉で燃料に使うのは、天然ウランに0・3%しか含まれていないウラン235という物質。99・3%を占めるウラン238という物質は、現在の原子炉では燃料になりません。しかし、この物質が中性子を吸収してできるプルトニウム239という物質は、さまざまな中性子と反応して核分裂を起こしやすい核燃料なのです。

 一方「サーマル」は、熱や熱いという意味の英語ですが、ここでは「サーマル・ニュートロン(熱中性子)炉」、つまり「軽水炉」と呼ばれる原子炉を意味します。これはアメリカで開発された商業用の原子炉で、現在の原子力発電の主流を占めています。

 以上まとめると、プルサーマルは「プルトニウムを一般的な原子炉で利用すること」という意味になります。

 現在の原子炉でも、燃料寿命(普通は3〜5年)の後期では、炉の中でウランがプルトニウムに変わって、それが燃えています。プルトニウムが燃えることで得られるエネルギーは、全体の3分の1程度といわれています。

高速増殖炉の挫折で浮上

Question実際にはプルトニウムは原子炉の中で燃えているのに、
なぜわざわざ「プルサーマル」が考え出されたのですか?

Answerここで断っておかなければならないのは、原子炉の中で燃えているウランがプルトニウムに変わって燃えることと、使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し再び原子炉の燃料とすることは、原理は同じでも、まったく異なる話だということです。

 原子炉でウランを燃やして得られるプルトニウムは、もともと軽水炉ではなく、「高速増殖炉」と呼ばれる新しいタイプの原子炉で燃やそうという研究が世界中で進められてきました。

 高速増殖炉とは、ウラン235やプルトニウム239を高速中性子により核分裂させてエネルギーを取り出し、その過程で放出される中性子をウラン238に吸収させ、消費したよりも多くのプルトニウム239を作り出すタイプの原子炉のこと。

 天然ウランの99・7%を占めるにもかかわらず使い道のないウラン238を利用でき、燃料を燃やすと最初の燃料よりも多くの燃料が得られるわけですから、高速増殖炉は「夢の原子炉」とも呼ばれます。理想的な計算では、高速増殖炉が実用化すれば数万年の間、人類のエネルギーをまかなっていけるだろうとも考えられています。

 こうしてフランスは1984年に高速増殖炉「スーパーフェニックス」を完成させ、日本は77年に実験炉「常陽」を、95年には原型炉「もんじゅ」を完成させました。

 ところが、高速増殖炉は冷却材にナトリウムという極めて危険な物質(水と触れるだけで発火・爆発する恐れがある)を使うため、制御性に問題があります。実際「もんじゅ」は95年12月にナトリウム冷却材漏れ・火災事故を起こし、動燃(動力炉・核燃料開発事業団)による情報秘匿《ひとく》など信頼性を損なう事態が明るみに出て、現在は止まっています。スーパーフェニックスもナトリウム漏れを起こし、98年に停止が決まりました。

 一方、プルトニウムは現在稼働中の原子炉でどんどん作られます。そこで、高速増殖炉が当面使えないならば普通の原子炉で燃やそうと、「プルサーマル」計画が立てられたわけです。

実施のメドは立たず

Questionプルサーマルの
現状は?

Answerプルサーマル計画の推進は97年2月に閣議了解され、現在、国は2010年までに全国16〜18基の原発でプルサーマルを行う計画を立てています。まず実施が目指されているのは、新潟県の柏崎刈羽、福島県の福島第一、福井県の高浜の三つの原子力発電所です。

 ところで、原子炉から出た使用済み燃料は再処理工場に運ばれ、取り出したプルトニウムはウランと混ぜてMOX燃料(混合酸化物燃料)と呼ばれる燃料に加工されます。これはイギリスやフランスの再処理工場に委託される一方、青森県六ヶ所村で事業費2兆円を超える再処理工場の建設が進んでいます。

 しかし、99年9月、イギリスで作られ高浜原発のプルサーマルに使われる予定だったMOX燃料について、検査データが捏造《ねつぞう》されていた事件が発覚。高浜原発でのプルサーマルは頓挫《とんざ》しました。さらに同月、茨城県東海村で核燃料加工会社JOCにおいて、ウランが連続して核分裂反応を始める日本初の「臨界事故」が発生。現場から半径10キロ圏内の住民30万人以上に屋内避難が呼びかけられるという最悪の事態で、日本の原子力行政・業界への信頼性は一気に損なわれてしまいました。

 2001年2月には福島県知事が福島第一原発でのプルサーマルの凍結を表明。5月には新潟県刈羽村でプルサーマル実施をめぐる住民投票が行われ、反対53・4%、賛成42・5%という結果が出ました。こうして、日本でのプルサーマル計画は当面、実施のメドが立たない状況になっています。

Question今後の見通しは
どうですか?

Answerまず、地球環境問題への関心が強まり、世界的に原子力政策の見直しが進んでいるという状況があります。ドイツは脱原発を打ち出しましたし、スリーマイル島の大事故を経験したアメリカでも原発の新規建設は止まっています。(以下ファイル欠如、調査中)

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