更新:2008年8月16日
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小選挙区比例代表連用制

●初出:月刊『潮』1993年7月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

中選挙区制は「制度疲労」

Question衆議院の選挙制度改革をめぐる議論で「小選挙区比例代表連用制」が
クローズアップされてきましたね。どういうものか教えてください。

Answerはい。衆議院の選挙制度改革をめぐっては、これまで自民党が「単純小選挙区制」を、社会・公明両党が「小選挙区併用型比例代表制」(以下「併用型」と呼ぶことにします)を主張してきました。そこに最近、有力な妥協案として浮上してきたのが「小選挙区比例代表連用制」(「連用制」と呼びます)です。これらの説明を始める前に、まず、現行制度の問題点を指摘しておきましょう。

 衆議院では現在、都道府県をいくつかに分けた選挙区ごとに三人〜五人(二人や六人の例外もある)の議員を選出する「中選挙区制」が採用されています。ところが、この制度では同じ党(とくに与党)の候補者が二人、三人と当選することから、政策論争が不毛《ふもう》となり、地元への利益誘導といったサービス合戦が横行しがち。また、同じ党の候補者同士の戦いは派閥政治を助長します。一方、定数が多いと得票率が低くても当選できるため、野党にも一〜二議席は割り当てられることになり、これに甘んじた野党が政権獲得の意欲を失っています。得票率が低くても当選できることは、汚職議員を選挙で辞めさせることができないという結果も招いています。

 こうした問題点から、いわば「制度疲労」を起こしている中選挙区制は見直さざるをえないというのが、与野党にほぼ共通した認識となっています。しかし、それに代わる新しい制度はなにかとなると、まだ意見が分かれているわけです。

単純小選挙区制の欠点

Question自民党の主張する単純小選挙区制は、
どのような仕組みなんですか

Answer小選挙区制は、一つの選挙区で当選者が一人(定数が一)という方式です。衆議院選挙では他の方式を導入したりせず、全国あまねくこの小選挙区制だけを採用するという意味で、「単純」という言葉がついています。自民党案では、全国を五〇〇の選挙区に分け、それぞれの選挙区で得票がもっとも多い者を議員に選びます。

 この方式では、選挙が白か黒かを決めるような一方的な結果になりがちです。そのため、安定政権ができやすく、政権交代も起こりやすいのです。しかし一方で大量の「死票」が出ることは避けられません。たとえば、与野党の総得票数の比率が六対四だとしても、ほとんどの選挙区で接戦のすえ与党が勝って、結局議席の大部分を与党が占めてしまうということが起こりえます。その場合、有権者の四割の声が国政に反映されないことになります。このように、得票率と議席獲得率が著しくかけ離れる恐れが大きいことが、単純小選挙区制の最大の欠点です。

 また、一億二〇〇〇万人を五〇〇で割ると一選挙区の人口は二四万人ですから、たとえば人口が八〇万人以上ある東京・世田谷区では小選挙区が少なくとも三つ含まれることになります。すると、区議会議員の選挙区のほうが衆議院議員の選挙区よりも三倍も大きいという奇妙なことになります。逆に人口の少ない島根県では、小選挙区がせいぜい三つ。これでは、地方の声を国政に反映させるのは難しいでしょう。

連用制の仕組み

Question併用型や連用制は、小選挙区制を取り入れながら、
しかも単純小選挙区制の欠点を是正しようというのですね

Answerええ。まず連用制について説明しましょう。この方式は、財界や労働界、言論界、学界などの代表がつくる政治改革推進協議会(いわゆる民間政治臨調。会長は亀井正夫・日経連特別顧問)が発表した改革案で、その骨子は次のようなものです。

 第一に、定数は小選挙区三〇〇と都道府県単位の比例代表二〇〇で、合計五〇〇とします。第二に、投票は二票制とし、有権者は投票の際、小選挙区の候補者名一人と比例代表の政党名一つを書くものとします。第三に、小選挙区はもっとも得票の多い一人を当選とし、比例代表は都道府県ごとの各政党の得票数と小選挙区の当選者数をもとに「ドント式」で議席を配分します。

 つまり、政権交代を可能にする仕組みとしての小選挙区制は全国的に採用します。しかし、それだけでは得票率と議席獲得率が大きくかけ離れる恐れがあるので、参議院の全国区で採用しているような比例代表制を、都道府県単位で導入します。

Question得票数トップの一人だけが当選する小選挙区はわかりますが、
比例代表の議席はどのように配分するのですか

Answerまずドント式を説明しましょう。これは、複数の政党に議席を配分する際、得票数を一、二、三……という整数で割り算し、その答が大きい順に決めていく方式。ある県の議席数が三で、ABCDの四つの政党が、それぞれ五〇万、二五万、一五万、一〇万票を獲得したとします。そこでAの五〇万票を一、二、三……で割ると、五〇万、二五万、一六・六万……となりますね。同様にBは二五万、一二・五万……、Cは一五万、七・五万……、Dは一〇万、五万……です。この答を大きい順に三つ書き出すと、Aの五〇万、Aの二五万、Bの二五万。そこでAが二議席、Bは一議席、CとDは議席なしと決めるのがドント式です。

 ところで連用制の場合は、以上の割り算を「小選挙区の当選者プラス一」の数から順に割ることにしています。右の場合、この県で同時に行われた小選挙区の投票で政党Aが二議席、Bが一議席獲得したとすると、Aの割り算は三(二+一)から、Bの割り算は二(一+一)から、CとDでは一(〇+一)から始めるのです。すると答の大きい順は、Aの一六・六万、Cの一五万、Bの一二・五万となり、ABC一議席ずつの配分となります。結局、小選挙区と比例代表を合わせると、この県での議席数は、政党Aが三、Bが二、Cが一となります。

 かなりややこしい方式ですが、このように連用制は小選挙区で議席の少ない政党ほど、比例代表の議席が優先的に配分されるため、野党側も受け入れる余地のある仕組みといえるでしょう。

真に望まれる政治改革とは?

Question連用制は、野党側がはじめ唱えていた併用型と、
どのように違うのですか?

Answer併用型は、総定数五〇〇のうち小選挙区が二〇〇、比例代表は全国一二のブロック制とし、投票では小選挙区の候補者名と比例代表の政党名を書きます。そして、比例代表の各政党の得票をもとにして、ブロック別にまず配分議席を決めます。この配分議席に対して、小選挙区での当選者をまず割り当て、残りは比例代表名簿の上位から順次当選とします。ただし、配分議席数を小選挙区の当選者数が上回る場合があるので、その分は超過議席として、そのまま認めます。

 つまり、併用型の基本はあくまで比例代表制で、これに小選挙区制を加味してあるのです。したがって、併用型は政党の得票率と議席獲得率がもっとも比例しやすい方式です。しかし、小党が分立しやすく政権が不安定になる、弱小野党の当選者は小選挙区でなく比例代表から出るため候補者と地元との結びつきが稀薄になる、などの弱点があります。これに対して連用制は、小選挙区制と比例代表制を両方取り入れた方式といえます。

 この点で連用制は、海部内閣が持ち出した「小選挙区比例代表並立制」と近いのですが、前述したように小選挙区で不利な政党(野党)を比例代表の議席配分で有利にあつかうという点が異なります。一方、小選挙区を三〇〇と多くしたことで、小選挙区に強い自民党にも受け入れる余地がある方式です。こうしたことから連用制が、与野党ともに受け入れる可能性のある有力な妥協案のひとつと考えられているのです。

Question今後の動きは
どうなるでしょう?

Answerそうですね。与野党とも、連用制を軸に妥協案を探る動きが始まっていますが、与党では単純小選挙区制、野党では併用型を主張する声も依然として強く、政治改革の見通しは不透明。しかし、与野党を問わず、自らの利害に拘泥してこの問題を先送りにすれば、政治に対する信頼が地に落ちることだけははっきりしています。また、議論が選挙制度だけに集中し、政治家とカネの問題が抜け落ちるようでは、やはり国民の政治不信はつのるばかりです。

 有権者が本当に望む政治改革とはなにか──政治家個人も政党も、そのことを真剣に問い直し、自らの使命を全《まっと》うしてもらいたいものです。

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