更新:2008年8月6日
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拡大連座制

●初出:月刊『潮』1996年10月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question選挙違反に「拡大連座制」が適用されて、
話題になっていますね。どういうことですか?

Answer「連座」とは、ある犯罪についての責任を、犯人だけでなく、犯人となんらかの関係をもつ他人にも、連帯責任として負わせることをいいます。日本では、古代の律令に役人の犯罪について連座が定められていますし、江戸時代の五人組の連座も有名です。しかし、個人主義が確立した近代国家では、連座制は原則として姿を消しています。

 例外は選挙に関する犯罪の場合で、候補者以外の者が犯した選挙違反の責任を、当選を無効にするなどして候補者本人に負わせる制度が、広く各国で採用されています。

 候補者と密接な関係をもつ者が犯した悪質な選挙違反は、その候補者の選挙運動が全体として悪質なやり方で行われたことや、候補者が不正な手段で当選したことの証拠になる、という考え方です。

 日本の公職選挙法にも連座制の規定があります。しかし、この法律は長いこと「ザル法」とされ、実弟が務める公設第一秘書が事前運動で現金を配り有罪が確定したという悪質なケースですら、連座の対象になりませんでした。国会議員に限れば、連座で当選無効になった例は、一九五〇年代に一人あるだけです。

 これが、八九年のリクルート事件などを契機に高まった政治浄化の声を受け、ようやく九四年に改正されました。改正の目玉が連座制の拡大強化で、公職選挙法改正後の連座制を「拡大連座制」と呼んでいます。

責任者や親族以外にも拡大

Questionどんな点が
拡大されたのですか?

Answer第一に、連座制の適用対象者です。改正前は、選挙の総括主宰者、出納責任者、地域主宰者、候補者の親族でしたが、改正後はこれに、秘書と組織的選挙運動管理者が加わりました。

 第二に、連座制の適用される違反期間です。改正前は選挙期間中だけでしたが、改正後は選挙前の事前運動における違反についても、連座制が適用されるようになりました。ですから、改正前の「候補者の親族」は、改正後は「候補者または立候補予定者の親族」となります。

 第三に、対象者がどんな刑罰を受けた場合に連座制が適用されるかです。総括主宰者、出納責任者、地域主宰者の罰金刑以上が確定した場合で、執行猶予を含むという点は以前と変わりません。しかし、候補者の親族の禁固刑以上に適用され、執行猶予がつくと適用されないという点は、改正で執行猶予も含むとされました。秘書や組織的選挙運動管理者についても、親族と同じく禁固刑以上で、執行猶予を含むとされます。

 第四に、候補者に対する制裁です。改正前は当選無効だけで、落選の場合の規定がありませんでしたが、改正後は同一選挙区での五年間の立候補禁止が加わりました。

 なお、問われる選挙犯罪の内容(買収、利害誘導、新聞雑誌の不法利用、法定額違反)そのものは、変わりありません。買収には、現金の供与のほか、飲食の提供や旅行の招待も含まれます。個別訪問や文書違反は、連座制の適用にはなりません。

Question秘書はわかりますが、組織的選挙運動管理者とは
どんな人をいうのでしょう?

Answer内閣法制局や自治省の見解、さらに最近の判例を総合すると、ここでいう組織は、候補者や立候補予定者の政党、政治団体、後援会、選挙対策本部はもちろん、候補者を当選させる目的で運動した会社、宗教団体、労働組合、町内会、PTAなどが広く当てはまります。

 こうしたグループの組織的な選挙運動において、計画や作戦の立案調整、情報の収集分析、運動員の指揮監督、資金の調達などを管理する人が「組織的選挙運動管理者」です。

 たとえば、ビラ配り、個人演説会、電話作戦などの計画や指揮をする人、運動員の弁当や車の手配する人なども含まれるとされています。

社長の選挙違反で適用

Question具体的な判例を
教えてください。

Answer連座制の適用による当選無効や五年間の立候補禁止の訴訟は、検察官が当選人を被告として高等裁判所に提訴することになっています。九四年の公職選挙法改正後、九六年七月までに合計二二人が提訴され、二〇件の判決が出ました。そのすべてが、検察側の主張を認めた判決です。

 たとえば、九五年七月に仙台高等検察庁が提訴したのは、春の統一地方選で当選した青森県会議員のケース。

 同県議の選挙では、住宅建設会社社長が会社幹部と共謀して下請け業者三一人に一人あたり五七〇〇円の接待をしたとされ、社長が懲役一年執行猶予五年、会社幹部二人が懲役十か月同五年という青森地裁判決が確定。仙台高検はこの三人が「組織的選挙運動管理者」だとし、県議の「当選無効」と「五年間の立候補禁止」を求めて提訴したのです。

 県議側は「県議の選対、後援会、政治団体などに、社長も社員も誰一人入っておらず、会社は選挙組織ではない。だから社長らは組織的選挙運動管理者ではない」と主張しました。

 しかし、九六年七月に仙台高等裁が出した判決は、争点となった「組織」について「特定の候補者を当選させる目的で複数の人が役割を分担し、相互に協力しあって、活動する人の集合体」と規定。さらに「会社の構成員が、選挙運動に関与している部分が組織としての実態を有していれば、『組織』が成立していると解すべき」とし、社長らを「組織的選挙運動管理者」と認定しています。

 県議側は、この判決を不服として最高裁判所に上告しました。

Question県議は接待のことを
知っていたのですか?

Answer連座制の適用で問題となるのは、この社長が、候補者や選挙運動の総括主宰者などと「意思を通じて」(公職選挙法の規定より)選挙運動をしたかどうかです。

 判決は、明示であれ黙示であれ、組織的な選挙運動が行われることを互いに認識し了解し合えば、意思を通じたことになるとし、「候補者において、組織の具体的名称や範囲、組織の構成、構成員、選挙運動のあり方、指揮命令系統についての認識までは必要でない」と述べています。

 具体的には、県議が下請けを集めた会食や会社の朝礼に出席の返事をしたことなどから、会社が組織的に選挙運動をするとの認識があったと認定しています。「意思を通じ」た「組織的選挙運動管理者」が悪質な選挙違反をすれば、候補者は何が行われたか知らなくても、連座制を適用される可能性があるわけです。

従来の手法の見直しを

Question選挙のあり方が、
かなり変わってきそうですね?

Answerええ。国勢レベルの選挙では、政党や後援会以外の企業、宗教団体、労組など友好団体の支援が鍵といわれてきましたが、次回の衆議院選挙にむけて、政党や政治団体は選挙手法の見直しを迫られているといえるでしょう。

 いわゆる「企業ぐるみ選挙」は、かなりやりにくくなったと思われます。また、企業からは「拡大連座制は選挙協力を断る格好の口実」という声も聞かれます。

 青森県議のケースは、会社社長と役員の違反でしたが、宗教団体や労組(支部などを含む)の場合でも、幹部が選挙違反に問われ、候補者に連座制が適用される可能性があります。法律が変わったのですから、これまでのやり方を見直し、改めることが必要です。

 もっとも、議会政治のお手本の国イギリスの「腐敗・違反行為防止法」が制定されたのは一八八三年。今から一世紀以上も昔です。日本では、いままでの選挙を野放しにしすぎた、というべきではないでしょうか。

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