更新:2006年9月30日
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三位一体改革

●初出:月刊『潮』2003年8月号「市民講座」第208回●執筆:坂本 衛

「三位一体改革」とは?

Question「三位一体改革」という言葉がニュースに出てきます。
どういうことですか?

Answer「三位一体改革」は、小泉内閣が進める地方分権政策(国と地方の税財政改革)の、いわばキャッチフレーズです。

 三位一体《さんみいったい》とは「三つの要素が結び付いて本質的には一つである」こと。この場合の三つの要素は、「国から地方への補助金の削減」「国から地方への税源移譲《いじょう》」「国から地方への地方交付税の見直し」です。以上のどれか一つが欠けてもダメで、三つをワンセットとして国と地方の税財政を改革し、地方分権を進めるという話です。

 この三位一体改革を打ち出したのは、首相が議長を務める経済財政諮問《しもん》会議。2002年6月、聖域なき構造改革のいわゆる「骨太の方針」第二弾の中で提唱され、1年以内に改革案をつくる予定が組まれました。

 このスケジュールに従って、2003年6月18日の経済財政諮問会議で、公共事業を含む補助金を2006年度までの3年間に約4兆円削減し、その削減額の8割程度を目安に地方に税源移譲し、地方交付税の総額を抑制することが決まりました。これが小泉改革の「骨太の方針」第三弾の目玉ということになります。

地方分権が日本を変える

Questionそもそも日本で地方分権を進めなければならないのは、
なぜですか?

Answerいま日本は、戦後最大最悪のデフレ不況下にあり、失業や倒産も最悪の水準、国や地方の財政赤字も合わせて700兆円と、出口の見えない閉塞《へいそく》状況におおわれています。

 これをバブル崩壊以後の経済の舵取りを間違えたからだとか、東西冷戦の終結で中国などが国際経済の表舞台に本格的に登場してきたせいだという人がいます。しかし、それらも理由の一部ではありますが、もっと巨大で根本的な理由は、明治時代以降百数十年続いた近代日本のさまざまなシステムが、もはや時代に合わなくなってきたからです。

 たとえば日本の総人口は、あと3年ほどで減り始めますが、これは歴史上初めての出来事。15〜64歳の生産年齢人口はすでに1995年から減少に転じています。96年からは東京圏(一都三県)の人口が減り始め、地方への流出も本格化しています。バブル崩壊以後、日本人の生きがいは「仕事」から「仕事以外」へと、はっきり変わりました。人びとは仕事・生産・企業よりも、余暇《よか》・消費・家庭を重視しています。つまり、日本では「右肩上がりの時代」はもう終わったのです。

 ところが、明治の初めにできた中央集権的な行政システムは、ここ百数十年ほとんど変わっていません。このシステムは、国が一丸《いちがん》となってある目標に突き進むときにはとても効率がよく、先の戦争や戦後の高度経済成長では大きな役割を果たしました。しかし、中央が統一方針を打ち出して全国の画一化を進めるシステムですから、国民が仕事より家族を優先するというような社会では、住民や地方の多様性を軽視して逆に活力を奪ってしまいます。

 だから、国際社会で国としてやるべき仕事や全国的に統一すべき仕事を除けば、地域の行政は地域住民が自分たちで決め、決めるからには責任も負うというシステムをつくることが必要なのです。そうすれば住民や地域の実情に合わせてキメ細かくムダのない施策が実現できます。これが地方分権を進めなければならない理由です。

 こうした考え方から、1999年には地方分権一括法が成立。このとき「機関委任事務」といって地方自治体が国の代行として担当していた事務が廃止され、たとえばパスポートの発行や都市計画の認定は、正式に自治体の仕事となりました。しかし、この段階では仕事についての地方分権を決めただけ。裏付けとなる財政面での地方分権は先送りされました。その資金面での地方分権の進め方を決めたのが、今回の三位一体改革なのです。

大枠だけで詰めはこれから

Question補助金削減、税源移譲、地方交付税の見直しの三つについて、
詳しく教えてください。

Answerまず、国と地方の税財政がこれまでどのような仕組みになっていたか、説明しましょう。

 2001年度の丸めた数字では、国民の支払った税金(国と地方の歳入額)は総額で86兆円。内訳は国税50兆円に地方税36兆円で、ほぼ国が6に対して地方が4の割合。ところが歳出額は国57兆円に地方自治体96兆円で、こちらは国が4に対して地方が6の割合。合計する153兆円で、86兆円との差額は国債や地方債による借金です。

 税金は国が地方より多く取っているのに、支払いは地方が国より多いことに注目してください。国から地方におカネを回す仕組みが必要ですね。そこで、国は地方に対して補助金(国庫補助金と国庫負担金の二種類)を出し、さらに地方交付税交付金(自治体間の財政力の差を解消し、すべての自治体が一定の行政サービスを確保できるように配分する資金)を出しています。2003年度予算では、補助金が20兆円で地方交付税交付金が18兆円です。。

 このような現状に対して、「三位一体改革」で補助金と地方交付税交付金を、一部ですが削ります。削るばかりでは自治体は仕事ができませんから、代わりに税源(税金がかかる対象)を地方に渡します。これが税源移譲です。ただし、国の台所は火の車ですから、削った補助金分の税源を渡すのではなく、その8割分の税源を渡し、スリム化を図ります。

 もっとも今回決まったのは「3年で4兆円」といった大枠だけで、どんな補助金を削り、どんな税源を移譲するかなど細かい点は、これから詰めていくことになります。

利権がからみあい難航も

Question細かい点が
すんなり決まるでしょうか?

Answerこの問題は、国と地方の問題というだけでなく、同じ国でも省庁によって思惑がまったく違います。さらに補助金には政治家の利権がからむので、細部の調整は難航するでしょう。

 莫大な借金を抱えた国の金庫番である財務省は、とにかく補助金や交付金を減らしたいと思っています。国が持っている税源もなるべく地方には渡したくないのです。削減額の8割分の税源しか移さないということは、2割分のカネを地方から取り上げるわけです。

 地方自治を所管する総務省(旧自治省)は、補助金削減には賛成ですが、地方交付税削減には反対の立場。というのは、総務官僚は交付税の配分を通じて地方自治体をコントロールしたいからです。県知事や副知事をはじめ自治体幹部に総務省出身者が多いのは、総務省が地方自治体に渡すカネを握っているためです。

 一方、補助金を受け取る業界や企業や学校などを所管する官庁(国土交通省、文部科学省、厚生労働省など)は、同じ政府部門でも補助金の削減には反対です。地方自治体はもちろん、政治家(地方選出の族議員)も、たとえば公共事業費が減らされるわけですから、補助金削減には強く抵抗しています。

 このように利権がらみで賛成・反対が入り乱れる三位一体改革ですが、時代遅れの中央集権システムを壊して地方分権を進めるという大方針に、疑問の余地はありません。木を見て森を見ない落とし穴に陥《おちい》ることなく、地方分権が骨抜きにされないように、注意深く見守る必要があります。

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