更新:2008年5月31日
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サブプライムローン

●初出:月刊『潮』2008年1月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

米・低所得者むけ住宅ローン

Questionニュースでよく聞く「サブプライムローン」とは、
なんですか?

Answer「プライム(prime)」は「最初の」とか「最重要な」という意味。「プライムレート」といえば、銀行がもっとも信用のおける優良企業に融資するときの金利を指します。この最優遇金利は最低の金利ということで、銀行はあまり信用がおけない人にはもっと高い金利で貸し出すわけです。「サブ(sub)」は「副」とか「主でない」という意味。「ローン(loan)」は貸付のこと。

 まとめると「サブプライムローン」は「準・最優遇貸付」という意味になります。ようするにアメリカで行われている信用度の低い人向けの住宅ローンのことなのですが、「非・優遇貸付」といってしまうとイメージが悪いので、そう呼びます。普通席を準VIP席と呼ぶような感じでしょうか。

 サブプライムローンは、比較的所得が低く、信用力に欠けた人むけの住宅資金の貸付ですから、審査がゆるい代わり、銀行側にとってはリスクが大きいので、当然、高い金利が付きます。ところが、サブプライムローンは、たとえば最初の2年間は金利据え置きで6〜7%程度、3年目以降は金利が10%以上(12〜14%程度)にはね上がる仕組みなのです。これを「行きはよいよい、帰りは怖いの住宅ローン」と表現した人がいます。

 日本の住宅ローンは、たとえば借入金3000万円・30年返済・長期固定金利3%・ボーナス払いなしという条件で毎年の返済額が152万円弱。年収500万円の人ならなんとか返せるという話になります。しかし、金利10%は2000万円借りても毎年の返済額が210万円以上ですから、年収500〜400万円以下の人には極めて重い負担です。

 アメリカでは、住宅ローンを借りる人の15%ほどがサブプライムローンを利用しているといわれます。もともと賃金が低く、出世も遅ければ昇給も小幅という人びとが対象なので、返済が滞る人が急増して、大問題になっています。

アメリカの住宅バブル

Questionなぜ、低所得者には返せそうもないローンが
普及したんですか?

Answerたしかに年収400万円の人は、「最初の2年間だけは返済額が100万円、3年目以降は200万円」なんて無理なローンは組まないはずだ、と誰でも思いますね。それが通用したのは、住宅バブルが起こっていたからです。

 アメリカでは2000年春までIT(情報技術)産業の調子がたいへんよく、IT関連企業の株価が急上昇。企業買収も盛んに行われ「ITバブル」と呼ばれました。

 しかし、このバブル経済が崩壊し株価が急落したので、FRB(連邦準備制度理事会=日本の日銀にあたる)は、それまで「インフレ警戒」の見方から5〜6%に設定していた公定歩合(中央銀行が一般の市中銀行に貸し出す金利)を「景気重視」に見方を変えて、一気に引き下げたのです。アメリカの公定歩合は2001年暮れに1・25%、2002年暮れに0・75%と低金利に突入しました。

 そこで、連動して銀行の貸出金利が一気に下がって、45年ぶりの低金利になりました。カネがダブつく一方、株式投資はパッとしないので、みんな土地や建物など不動産に投資を始めたのです。こうしてアメリカの不動産価格は、2003年から2006年前半まで毎年10%以上も値上がりしました。これが、アメリカの「住宅バブル」です。

 すると、2000万円借りて家を買った人は、1年目と2年目で合計200万円返した段階で、その家が2400万円で売れた、というような話になるわけです。給料は大して上がっていないのに、今度は2500万円の家に移ったりします。あるいは、家を売らなくても、家の担保価値が膨らむので、住宅ローンの借り換えをして、何年かはカネをうまく回していけます。

 ところが、 FRBは2004年暮れに3・25%、2005年暮れに5・25%と、公定歩合を小刻みに上げていきました。つまり、借金して不動産投資をしてもみんなあまり儲からなくなり、住宅価格の上昇率は下がりはじめます。これが「住宅バブル」の崩壊で、低所得者は家の転売やローンの借り換えができなくなり、もともと過剰だった借金を返せなくなってしまったのです。

影響は全世界に拡大

Questionアメリカの住宅ローンの話なのに、
なぜ日本でも大騒ぎなんですか?

Answerいま、アメリカのサブプライムローン問題は、世界中を震撼させています。

 なぜ、そんなことになってしまったかといえば、低所得者むけ住宅ローンは、一つひとつが30年で6000万円返してもらえるというような「債権」ですね。そこで、これを何千何万と束ねて、一つの塊にします。仮に5000世帯分のローンをまとめれば、30年で3000億円返してもらえる「権利の塊」ができるでしょう。アメリカの金融機関は、これを元に小口債券化した新しい金融商品を作って販売したのです。

 たとえば、5000人の借り手が毎年12%の金利負担で返済したとき総額3000億円になるとすれば、貸し倒れ分、貸付金の回収費や事務費、利益を4%分と見込んで、利回り8%の債券を作って投資家に販売します。この種の金融商品は、住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)と呼ばれ、アメリカだけでなく、ヨーロッパやアジアでもガンガン売り出されたわけです。

 すると、利回りは年何%という「××ファンド」に投資したら、日本株や外国株、公社債、その他の金融商品に分散投資しており、知らないうちにサブプライムローンも組み込まれていて、その分が焦げ付いてしまうということが起こります。アメリカだけでなく、ヨーロッパでも、日本でも、中国でも起こるのです。

 こうして、アメリカのメリルリンチ証券は約9000億円(2007年第3四半期)、シティグループは約2兆円(同年第3四半期と第4四半期予想)という莫大な損失を出しました。日本でも野村ホールディングスが1456億円(2007年1〜9月)、みずほフィナンシャルグループが1700億円(2008年3月期見込み)など損失が拡大しています。

 ある経済ジャーナリストは「肉屋に吊してある牛肉は、見ればいい肉かどうかわかる。でも、肉をミンチにしてハンバーグにしちゃうと、よくわからない。現在は、サブプライムローンという怪しげなミンチ入りハンバーグ(=ファンド)が世界中で売られ、誰もどれに入っているかわからず、誰も手を出さなくなってしまった状態」と表現しています。

混乱はしばらく続く

Questionサブプライムローン問題、
今後の見通しは?

Answerアメリカの住宅ローンの貸出残高は約10兆ドル(1100兆円)、うちサブプライムローンは約1・3兆ドル(150兆円)とされます。アメリカの国内総生産は約13兆ドル(1400兆円)ですから、サブプライムローンの3分の1やそこらが焦げ付いても、最終的に吸収はできるでしょう。しかし、アメリカの住宅マーケットがどこまで冷え込むか、金融機関の損失がどこまで拡大するかは予断を許さず、混乱はしばらく続くと思います。

 さらに問題は、イギリスやスペインなどヨーロッパでアメリカ以上の不動産バブルがあったこと。サブプライムローン問題をきっかけにヨーロッパの住宅バブルが本格的にはじけると、影響は深刻です。日本の金融機関がサブプライムローンに貸し込んでいる額は1兆円程度とされ、その影響は限定的。むしろ日本では、アメリカや中国の経済落ち込みや、アメリカの金利低下による円高ドル安が、輸出企業に与える影響を警戒すべきでしょう。

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