更新:2008年8月6日
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ユーザー車検

●初出:月刊『潮』1996年2月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question車検を自分で取る「ユーザー車検」が増えていると聞きました。
どういうことか教えてください。

Answerはい。車検は、道路運送車両法に基づく「自動車検査」の通称です。公道を走る自動車は、ドライバーはもちろん、歩行者や他の車にとっても安全なものでなければなりません。公害をまき散らすのも困ります。そこで法律により、すべての自動車に車検を受け、自動車検査証を受けることが義務づけられています。

 検査証には、登録番号、車台番号、使用者・所有者、次回の検査期限などが記載されることになっています。

 この車検制度が、道路運送車両法の改正によって、一九九五年七月から大きく変わりました。一言でいうと、大幅に簡素化されたのです。

 これは、制度が繁雑で価格も高いというユーザー(使用者)の批判や、日米自動車交渉でアメリカが主張した市場開放要求など、規制緩和を求める内外の声に応えたもの。車の耐久性能が向上したことも背景の一つです。

 簡素化のおかげで、これまでごく一部でしか行われていなかったユーザー車検──整備業者に任せず自分で車検を取ることが、一般にも普及し始めたわけです。

制度改正のポイント

Question具体的に、どのような点が
簡素化されたのですか?

Answer制度改正のポイントは
四つあります。

 第一に、自家用自動車に義務づけられていた六か月点検が廃止されました。実際には、形骸化《けいがいか》していると思われる点検だからです。

 第二に、点検項目が大幅に削減されました。車の品質や耐久性は日々向上していますし、調子よく動いていること自体が点検代わりになる項目もあり、不要と思われる点検項目が少なくないからです。その結果、十二か月点検は六〇項目から二六項目に、二十四か月点検は一〇二項目から六〇項目に減りました。

 第三に、車齢十一年を越える自家用車の車検の間隔が、一年から二年に延長されました。車の更新期間が短い日本では車齢十一年を越える車が少なく、十年も走っている車はかえってこまめに点検されていると思われるからです。

 第四に、これまで「前整備・後車検」方式しか認められなかったのが、「前検査・後整備」方式も選べるようになりました。

 人にたとえると、「車検は定期検診、整備は治療」といえます。わざわざ医者に通って悪いところを治してから、保健所で定期検診を受ける人はありません。検診で悪いところを見つけて治すのが普通でしょう。

 けれども、これまでの制度では、事前の点検・整備なしに車検が受けられませんでした。まず病院に行き、人間ドッグ入りして治療を済ませたうえで、保健所で定期検診証明書をもらっていたわけです。すると、健康な人でも人間ドッグに入ればお金を取られるように、問題のない車でも余計な費用がかかります。それが、まず検査を受けられるようになりました。

 実は、この「前検査・後整備」方式導入が、改正の最大のポイントです。車検の前に、二十四か月点検の記録簿を作成・提出する必要がなくなり、ユーザー車検が格段に受けやすくなったのです。

ユーザー車検の実際

Question自分で車検を取るには、
どのような手順が必要でしょうか?

Answer実際にユーザー車検に挑戦しようという人は、参考書がいろいろ出ていますので、一冊買って読まれることをお勧めします。ここでは、だいたいの流れを説明しておきましょう。

 車検の期限が近づいたら、車検場(全国九一か所の陸運支局・自動車検査登録事務所)に予約します。予約は、有効期限の切れる一か月前、検査日の一週間前から受け付けています。

 検査に必要な書類は、(1)自動車検査証(車検証)、(2)自動車納税証明書(五月ごろ役所から送られる)、(3)自賠責保険証明書(車検の有効期間をカバーしているもの)、(4)継続検査申請書、(5)自動車検査票です。(4)と(5)は車検場に隣接する窓口で、四〇円で購入します。検査手数料は一四〇〇円ですから、車検にかかる費用は最低で一四四〇円となります。もちろん、税金や保険料は、これとは別です。

 車検の本番は、検査ラインに車を乗り入れ、電光掲示板の指示にしたがって進めます。サイドスリップ検査、ブレーキ検査、スピードメーター検査、排出ガス検査、ヘッドライト検査、下回り検査などを順次こなして行き、すべてオーケーならば検査終了。所要時間は十分程度ですみます。これで新しい車検証がもらえます。

Question不具合が見つかったら、
どうすればよいのですか?

Answerたとえば、直進性を調べるサイドスリップ検査で車輪の角度調整が不十分であるとか、ヘッドライト検査で光軸がずれているという結果が出たとします。他の項目に問題がなければ、車を整備工場へもって行き、不具合のあったところを整備してもらい、もう一度検査を受けます。ちゃんと整備されていれば、今度は合格します。あくまでケース・バイ・ケースですが、一か所整備するだけなら、料金も数千円程度ですむものと思われます。

しっかり日常点検を

Questionユーザー車検だと、ずいぶん簡単で、
しかも安上がりなんですね?

Answerただし、いま説明したのはトラブルがほとんどない車の場合です。それに車検に通ったからといって、その車の点検・整備が万全で、安全が保障される、というわけではありません。車検は、これに受かった車は公道を走ってよいと国が定めた、最低限の検査にすぎません。

 車検を通ったから点検・整備しなくてよいとか、車検を通すために点検・整備するという考え方は改めるべきです。

 車を点検・整備しなければならないのは、あくまでユーザーであって、整備工場や運輸省陸運局ではないのです。ふだんから車の異常に注意を払い、タイヤの摩耗や空気圧、ファンベルトの張り具合、エンジンオイルのチェックなど日常点検を怠ってはなりません。車検制度の簡素化は、ユーザーの自己責任を改めて浮き彫りにしたといえるでしょう。

頼むなら信頼できる業者に

Question整備業者や車検代行業者に頼む場合でも、
以前よりは安くなりますか?

Answerええ。「点検・整備と車検代行と税金・保険で、二〇万円は覚悟してくれ」などという業者は、さすがに少なくなりました。十分使える部品を取り替えてしまい、高い料金を請求する過剰整備も、減ってきました。

 たとえば二十四か月定期点検・整備料金は、点検項目がほぼ半減したことで、一四〇〇〜一八〇〇ccの大衆車で六万七〇〇〇円程度だったのが、五万八〇〇〇円程度まで下がっています。

 この五万八〇〇〇円が、先に説明したように、ユーザー車検の場合は数千円以下ですむことがあるわけですから、ユーザーをつなぎ止めるために、点検・整備料金を三〜二万円程度まで値下げする業者も続出しています。カー用品の量販店や、ガソリンスタンド・チェーンが、低価格を売り物に車検代行サービスに参入した例もあります。

 ただし、業者によっては、洗車だけして車検場にもち込むという悪質なケースもあるようです。また、部分的な調整だけを頼むと引き受けてくれない業者もあります。評判をよく確かめて、信頼できる業者を選ぶことが大切です。

 また、業者にまるごと頼みたくはないが、一から十まで自分でやるのは不安という人は、各地の「全国ユーザー車検友の会」「ユーザー車検友の会」(別組織だそうです)などに相談してみるのもよいでしょう。

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