更新:2008年7月6日
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食糧高騰

●初出:月刊『潮』2008年7月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

夏以降、値上げラッシュに

Question食料品の値上がりが目立ちます。
どのくらい上がったのでしょう?

Answer主婦のみなさんは、スーパーや商店で食料品の値上がりを実感されていると思いますが、国の統計ではどうなっているか、まず紹介しておきます。

 「消費者物価指数」というものさしをご存じでしょう。たとえば、電気代と航空運賃が1年間に3%値上がりしたとして、どちらが家計に響くかといえば電気代ですね。電気を使わない家庭はありませんが、1年間飛行機に乗らない人は大勢いますので。ですから物価の変動は、全国の世帯が買うモノやサービスの価格それぞれが家計に占めるウエイト(比重)を考えて、総合的に測定する必要があります。これが消費者物価指数です。

 その最新数値の2008年3月分を見ると、総合指数は2005年=100として101・0。1年前の2007年3月と比べると、1・2%の上昇でした。大したことないと思うかもしれませんが、「生鮮食品を除く食料」(外食を除く)で見ると、前年同月比で1・8%の上昇です。

 個別品目を調べると、1年前の3月と比べて、スパゲッティが26・6%、チーズが22・6%、即席めんが17・9%、マヨネーズが17・5%、食パンが10・5%も値上がりしています。うなぎかば焼き、マーガリンは9・5%、かつお節、カレールウも8%以上の値上がりです。

 食品各社が値上げの動きを見せはじめたのは、2007年後半でした。右の食品以外では、9〜10月に食肉大手各社がハム・ソーセージなどを約10%値上げ、缶詰・冷凍食品大手が10月に10〜15%値上げという具合です。菓子メーカー各社も2007年秋までに、内容量を5〜15%ほど減らしました。

 現在までに、牛乳・バター・ヨーグルト・アイスクリームなどの乳製品、食用油、味噌・しょうゆ、果汁飲料、ビール・焼酎、水産練り製品、小麦粉などが、数%〜最大20%程度値上がりしています(一部、6〜7月に値上げ予定を含む)。

輸入穀物や石油が値上がり

Question頭が痛くなってきました。
値上げの理由はなんですか?

Answer最近の日本における食料品値上げのいちばん大きな原因は、輸入している穀物の価格高騰です。

 日本は、食料を国内で作っている割合、つまり食料自給率が、極端に低い国として知られています。よく使われる食料自給率はカロリーで計算する「カロリーベース総合食糧自給率」で、日本は39%。米128%、仏122%、独84%、英70%などを見れば、主要先進国の中で最低水準とわかります。

 食料自給率には、重さで計算する「重量ベース自給率」というものもあって、小麦の重量ベース自給率はたったの13%(=小麦の国内生産量÷消費量×100)。食用大豆は25%、トウモロコシにいたってはほとんど0%です。

 そこで、海外で小麦の価格が上がると、小麦を原料とする小麦粉、カップめん、インスタントラーメン、スパゲッティ、食パン、カレールウなどが値上がりします。海外で大豆の価格が上がると、大豆を原料とする食用油、味噌・しょうゆなどが、値上がりします。海外でトウモロコシの価格が上がると、コーン缶詰、ミックス野菜の冷凍食品などが値上がりします。

 ところが、トウモロコシの場合は、それだけでは済みません。牛、豚、ニワトリのエサとして大量に使われているからです。牛肉の生産には、10倍以上の重さのエサ(穀物)が必要とされます。ですから、トウモロコシの価格が上がると、配合飼料が値上がりします。実際、この1年間に3割ほど上昇しました。すると、玉突き現象で肉製品、牛乳、乳製品、卵などが値上がりします。あおりを受けて、乳業会社が作る果汁飲料まで値上がりしたりします。

 輸入穀物の価格高騰に次ぐ原因は、海外で原油価格が高騰し、ガソリンや重油など石油製品の価格が値上がりしたことです。これは、工場や事務所の光熱費、輸送費に影響しますし、ハウス野菜の暖房費や、ビニールハウス代にも影響するでしょう。

 穀物にせよ石油にせよ、値上がり幅が小さければ、これほど大規模な食料品値上げラッシュには、つながりません。今回は、海外の穀物価格や石油価格が短期間に、極端に高騰しているわけです。

商品市場に投機マネー

Questionでは、海外の穀物価格は、
なぜ極端に跳ね上がったのですか?

Answerいくつかの理由が複雑にからみあっています。第一に、長期トレンド(傾向)として、中国、インドをはじめとする新興国の人口増があります。

 各国は人口が増えるとともに豊かになり、食生活も変わって、以前あまり食べなかった肉類、乳製品、パンを食べるようになります。戦後の日本と同じです。すると、トウモロコシや小麦の需要が増えます。しかし、農業生産が追いつかなかったり、穀物生産国が輸出量を抑えたりするので、価格は上昇します。この傾向は、今後30年やそこらは続きます。

 第二に、穀物の需給(需要と供給)とはあまり関係ない理由があります。それは、このところ世界的に続いているカネ余りです。

 穀物の取引は、膨大な数の生産者と膨大な数の消費者が個別に売買するわけにいきませんから、売りたい者と買いたい者が商品取引所に集まって値付けをします。このとき「先物取引」といって、売買を約束した時点で商品がなくても、いつまでに受け渡しするという条件で売買できるのです。これは、商品を持っている者だけに好き勝手に価格を決めさせず、適正な価格をつけるための仕組みと思ってください。

 しかし、カネ余りの時代には、ダブついた資金が商品取引所に集中し、受給関係とあまり関係なく商品価格を上昇させることがあります。穀物価格の世界的な指標となる米シカゴ商品取引所では、小麦、大豆、トウモロコシの価格が2年間で2倍に暴騰しました。

 余ったカネとは、ヘッジファンドその他の投機マネーです。アメリカの住宅バブルが崩壊し、2007年にはサブプライムローン問題が爆発して、投機マネーが株式市場から逃げ出しました。これが、行き場を求めて商品市場に流れ込んだわけです。実は、原油価格の暴騰も同じ理由によるのです。

長期的な対策が重要

Question食料高騰への対策には、
どんなことが考えられますか?

Answer新興国の人口増や世界的なカネ余りに、ただちに有効な対策というのはありません。穀物価格の上昇には、最近の異常気象(洪水被害や砂漠化による農地減少など)、温暖化対策によるバイオ燃料(トウモロコシやサトウキビをアルコール発酵して作る)の増産なども影響していますが、これも同様です。異常気象は止められず、堤防建設や土壌改良には長い年月がかかります。「トウモロコシはバイオ燃料向けでなく食糧や飼料に回せ」といって、そうなるのは、食糧や飼料がバイオ燃料より値上がりしたときの話。

 ですから対策は、高い食糧から安い食糧への転換、食糧自給率の向上、安定的な供給先の確保、政府備蓄の増強といった地道な対策を、積み重ねていくしかないでしょう。自給率向上ひとつとっても、減少し続ける農業の担い手の確保や育成、農地や農業用水などの農業資源の確保、農業への大規模資本の参入など、問題は山積しており、実現は容易ではありません。

 もっとも、家庭でできることも少なくないと思います。作りすぎ・食べ残しや期限切れで処分する量を減らす。健康にも留意して、肉を減らし魚を増やす。子どものためにも、インスタント食品を減らして手作りを増やす。あれこれ考えれば、1割くらいの値上がり分は吸収できるかもしれませんよ。

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