更新:2008年8月16日
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たまごっち

●初出:月刊『潮』1997年4月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question「たまごっち」というオモチャが大変なブームだそうですね。
どんなものなのか教えてください。

Answer「たまごっち」は、一九九六年十一月、オモチャのバンダイ(九七年秋にセガ・エンタープライゼスと合併予定)が売り出した携帯ゲーム。定価は一九八〇円で、メーカーは「デジタル携帯ペット」と称しています。本体は厚さ二センチ弱の卵形で、液晶画面がついており、キーホルダーとしても使えます。ボタン型の電池を入れ、時計を合わせて五分ほど待つと、画面上のたまごがかえって、謎の小動物(?)が登場。これが「たまごっち」です。

 赤ん坊のときは「ベビーっち」で、「こどもっち」をへて、四〜五日で「アダルトっち」へと成長します。ただし、放っておいては育ちません。きちんと世話をやき、気をつけて飼育してやらないとダメなのです。

食事やトイレの世話が大変

Question世話をやくって、
どうするんですか?

Answer「たまごっち」は、おなかがすいたり、遊んでほしかったりすると、「ピーピー」と電子音で泣きます。泣く時間は、夜中だろうが授業中だろうが、飼い主の都合など一切おかまいなし。

 液晶画面には、食事、トイレ、しつけ、予防注射といった「お世話マーク」が出るので、ボタンを操作して、食事をやったりトイレの世話をしてやります。トイレの世話を怠《おこた》ると、うんちがたまったりして、不衛生から病気になります。夜は暗くしてやらないと、不眠症になります。病気が重くなると「たまごっち」は死んでしまい、お墓マークが出ます。

 「こどもっち」や「アダルトっち」にも何種類かあり、育て方のよしあしによって性格がグレたり、醜《みにく》い姿になったりします。うまく育てると、「隠れキャラ」(特定の条件をクリアして初めて登場するキャラクターのこと)が出たりもします。

Question寿命は
どのくらいですか?

Answer何も世話をしないと、すぐ死んでしまいます。長く「生かして」おくのは意外と難しく、二〜三週間くらいで死んでしまうことが多いようです。未確認情報ですが、一日一歳と数えて九十九歳まで生きた記録があるそうです。これは「たまごっち」の”泉重千代さん”ですね。もちろん、死んだといっても「ゲームオーバー」ということですから、また初めから育てることができます。

二か月で一〇〇万個突破!

Question「たまごっち」は、どのくらい
売れているのでしょう?

Answer発売元のバンダイによると、一九九六年十一月二十三日に売り出して以来、十二月末までに三〇万個、一月末までに七五万個が売れたそうです。

 もともとのターゲットは、女子中・高校生や若いOLですが、男女を問わず若者や子供たちにウケています。雑貨店、玩具店、百貨店や量販店の玩具売り場に置いてありますが、入荷してもアッという間に売り切れる品薄状態が続いています。

 東京・原宿の大手玩具店「キディランド」では、九七年二月二日以来入荷がストップ。十七日にやっと三六〇個入る見込みが立ったので、十三〜十六日の四日間を抽選申し込み日とし、抽選に当たった人だけにハガキで連絡して販売。一日あたり数千人が申し込みました。

 この大人気は、バンダイでもまったく予想外だったようで、二月上旬には第二弾として「新種発見!!たまごっち」を売り出しました。基本的な遊び方は初代と同じですが、「新種」のキャラクターを採用したほか、「ごきげんとり」の遊び方が異なり、本体の色も春らしい新色になりました。

 バンダイでは、「たまごっち」「新種発見!!たまごっち」を合わせて、四月までに三〇〇万個、六月末までに六〇〇万個の販売目標を立てています。また、海外でも注目されており、五月には欧米で英語版とフランス語版が発売されるという話もあります。

シミュレーションゲームの一種

Questionこうしたオモチャというかゲームは、
テレビゲームなどでもありますか?

Answer似たようなものは、ずっと以前からあります。もっとも有名なのは、アメリカのパソコンゲーム「リトル・コンピュータ・ピープル・プロジェクト」でしょう。ソフトをパソコンにセットしてスイッチを入れると、画面に家が出現し、どこからか犬を連れた男がやってきて、生活を始めます。新聞を読んだり、シャワーを浴びたり、眠ったりするわけです。この男、食事をやらないと顔色を変えて怒り出します。男とポーカーをして遊んだりもできます。

 このゲームは、十年前にファミコンに移植されました。ファミコン版は「アップルタウン物語」といい、女の子と子猫が住んでいて、ピアノを弾いたり、病気になったりしました。やはり十年前のファミコン「ココナワールド」は、画面の中に住む魔法使いの卵の少女ココナが、ケーキが食べたい、風呂に入りたいと話しかけてくるゲームでした。

 これらは「シミュレーションゲーム」と呼ばれるジャンルのゲーム。このジャンルには戦争ゲーム以外に、プレイヤーがアリの生態を観察する、市長となって都市を作り上げていく、神となって国を作り上げていくなどさまざまなパターンがあります。飼い主となってペットを育てていく「たまごっち」も、広い意味ではシミュレーションゲームの一つといえます。

 最近は「電脳ペット」や「飼育ゲーム」という言葉も使われるようですが、もともと「育てる」ことはパソコンゲームやテレビゲームに不可欠な要素。プレイヤーが主人公となって冒険を繰り広げるRPG(ロール・プレーング・ゲーム)でも、主人公ははじめは弱く、戦いを重ねて強くなっていきます。その過程で、おにぎりを食べさせるとか、武器を購入してやるなど「世話」をやく必要があります。

Questionでは、ゲームそのものは、
とくに目新しくはない?

Answerと思います。メーカーもそう思っていたから、品不足に慌てているのでしょう。目新しいのは、第一に持って歩けるという携帯性です。第二に機能をできるだけ削って単純化し、十代の若者でも気楽に買える価格にしたことです。これらは右に紹介したゲームとまったく異なる点で、「たまごっち」の直前ブームになった「テトリス」と共通しています。

「テトリス」や「ポケベル」に近い

Questionこの「たまごっち」ブームを
どう分析しますか?

Answerこのブームは、マンションではペットが飼えないからだという人がいますが、どうでしょうか。そういう一面もあるかもしれませんが、犬を飼っている家の子供でも「たまごっち」に熱中しているはず。ハムスターや熱帯魚など、マンションでも飼えるペットは簡単に手に入りますから、「たまごっち」がペット(小動物)代わりというのは、ちょっと違うと思います。

 むしろ「たまごっち」は、携帯ゲームの「テトリス」、女子高校生がみんなもっている「ポケベル」や「PHS」(簡易型携帯電話)などに近いのではないでしょうか。

 つまり、基本は時間がつぶせる液晶携帯ゲーム。しかし、これに一人ではまっていると、かなり空しい(「テトリス」もそう)。そこで、「私のは何歳だよ。あなたのは?」「みてみて、こんなヤツになっちゃった」と友だちと情報交換しては楽しむ(「ポケベル」や「PHS」の楽しみと同じ)。見せっこしたり情報交換する楽しみは「プリクラ」(三〇〇円で一六枚つくれるシール写真)とも似ています。

 「たまごっち」ブームは、対人関係をうとましく思う若者が一人楽しむブームではなくて、対人関係を広げたい若者が皆でおもしろがっているブームなのだと思います。

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