更新:2008年8月16日
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担保不動産買い上げ会社

●初出:月刊『潮』1992年12月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

総合経済対策の一環

Question最近、新聞を読んでいると「担保不動産買い上げ会社」
という言葉が目につきます。どういうものですか?

Answerはい。ご存じのように、バブルの崩壊以後、わが国では深刻な景気低迷が続いています。株価は日経平均で一時一万五〇〇〇円を割り込みました。消費も停滞して、住宅や自動車が売れません。家電不況やAV(オーディオ・ビジュアル)不況という言葉も定着しました。とくに今回の不況は、銀行や証券など、経済の根幹にある金融システム自体が揺らぎ始めたことが、もっとも大きな問題です。

 そこで政府は一九九二年八月末、総額一〇兆七〇〇〇億円にのぼる「総合経済対策」を打ち出し、その中で金融制度の安定性を確保する方策を掲げました。その一つは、一兆五五〇〇億円を投じる公共用地の先行取得。もう一つは、金融機関が融資するときに担保に取った不動産の売却を促進し、不良債権の償却税務処理を迅速化するという方針です。

 この二つは、いずれも金融機関の救済が狙い。そして、後者の担保不動産の売却を促進する機関として、年内にも設立されようとしているのが、担保不動産買い上げ会社なのです。だから、担保不動産買い上げ会社は、政府の総合経済政策の一環であるともいえます。

塩漬けの土地を流動化

Question公共用地の先行取得や担保不動産買い上げ会社をつくることが、
どうして金融機関の救済に結びつくのですか?

Answerわが国の金融機関は、バブルの最中に異常な勢いでカネを貸しまくりました。「調査の興銀、審査の興銀」がキャッチフレーズだったはずの日本興業銀行が、大阪の料亭の女将《おかみ》一人に二千何百億円だかを貸し込んだというのは典型的な例。そのほかの金融機関も大同小異で、不動産や株式に投資する資金を、会社にも個人にもどんどん貸し出しました。さすがに、名の通った都市銀行が地上げ屋まがいの不動産会社に直接融資するようなことははばかられましたが、系列のノンバンクに融資し、さらにノンバンクが貸し出せば同じことです。

 しかし、これらの融資がバブルの崩壊によって必ずしも回収できなくなってしまいました。NTT株を一株三〇〇万円で買った人は、これまでのところ二百何十万円かを失ったわけです。同じことが、銀行から何百億円も借金して財テクに回した会社にも起こります。何百億、何千億と借金して土地を買い、転売したりゴルフ場を造成したりという不動産会社も、バブル崩壊で首が回らなくなります。そこで金融機関には、大量の不良債権と、融資先が担保(借金のかた)として差し入れた土地が残ります。

 この土地が売れればいいのですが、競って貸し込んだだけに担保価値の査定がいい加減な土地も少なくないのです。地上げの途中で虫食い状態という土地もあります。複数の抵当権者がいれば利害が複雑に入り組んで、売るための合意も難しくなります。しかも地価の下落で、売れたとしても担保割れは確実。こうして金融機関は、売りたくても売れない土地──塩漬けになった土地を大量に抱え込み、四苦八苦しているのです。

 この土地を、政府や自治体が公共用地として積極的に買えば、金融機関の救済になります。また、政府系金融機関の融資や日銀の特別融資など公的資金を導入して、担保不動産買い上げ会社が買うことにすれば、これも救済になります。このように土地の流動化が進めば、地価の下落にも歯止めがかかるというわけです。

公的資金の導入は留保

Question金融機関の不良債権は、
どれくらいあるのですか?

Answer大蔵省は、九二年三月末で都市銀行、長期信用銀行、信託銀行合わせて二一行の不良債権が七〜八兆円あったと推計しています。もっともこれは主催者側発表ですから、これより少ないことはないという数字。地方銀行や信用金庫、さらにノンバンクなどを含めると、少ない見積もりで三〇兆円、多い見積もりで四〇〜五〇兆円の不良債権があるといわれています。そして、その大部分の担保は不動産なのです。これはわが国の国家予算の半分というような膨大な規模。いま、日本の金融機関がどれほど不健全な状態にあるかが、よくおわかりでしょう。

Questionでも、焦げ付きが大量に出たからといって、売れない担保を政府や公的資金を入れた買い上げ会社に買ってくれというのは、虫がよすぎませんか?

Answerまったくその通りだと思います。銀行やノンバンクなど金融機関は、自らのデタラメな融資、見通しの甘さから、今日の事態を招いたのです。責任は金融機関自身にあり、自助努力で問題を解決するのが本筋です。ですから、たとえば宮沢首相は「金融機関が自助努力に徹するのであれば、公的資金の導入を考えてもよい」という意味の発言をしましたが、これ対する反発があまりに強く、公的資金の導入は当面見合わせることになりました。買い上げ会社は、都銀、長銀、信託銀行などが中心になって作りますが、必要な資金は参加する銀行が自ら調達します。

 しかし、民間金融機関の能力からすると、買い上げ会社に対する出資額や融資額はせいぜい一兆五〇〇〇億円程度。先ほどの三〇兆円といった額とはまったくかけ離れています。なにしろ、新興の大手不動産四社がかかえる不良債権(不動産)だけでも四兆円規模といわれているのです。銀行をつぶすわけにはいかないとすれば、時期を見て公的資金の導入が検討されると思います。公共用地の先行取得によって塩漬けの土地が買われるときは、公的資金で買われるのですから。

いっそうの自助努力を

Question担保不動産買い上げ会社は、何十兆円かのうち、
どこに手を付けるのですか?

Answer参加する銀行が持ち込んだ案件から、ということでしょう。「住専」と呼ばれる住宅専門金融会社──日本住宅金融、住総、総合住金、地銀生保住宅ローン、日本ハウジングローンといった会社─が、優先的に対象になるという話もあります。住専には都銀、長銀、信託銀行がそれぞれ貸し込んでいるので、共同して事を起こすのには都合がよい、また権利関係が複雑でない物件が比較的多いからというのです。しかし、住専以外をやらないと決めたわけではありません。また、買い上げ会社は不動産に限らず債権も買い取ります。

Questionしかし、公的資金が入らなければ、銀行の土地が、
買い上げ会社に移るだけではありませんか?

Answerそうですね。現在のやり方では金融機関のメリットはあまりないのでは、という意見も根強くあります。そこで金融機関側では、不良債権を無税で償却できるように認めてほしいと大蔵省に働きかけています。また、金融機関は、たいしたメリットなどないと承知のうえで、総合経済対策を打ち出した政府の顔を立てているだけだという説すらあります。そうこうしているうちに、公的資金が入ることになるだろうというのです。

 いずれにしても、担保不動産の買い上げ会社という発想の前に、金融機関がやらなければならないことはいくらもあるという気がします。まず、金融機関のトップは、バブル経済に踊って今日の事態を招いた責任を、まともに取っていません。口では責任を感じているとか、襟を正すなどといいますが、辞めるべき人間がほとんど辞めませんでした。

 また、一時帰休を始めたメーカーさえあるというのに、銀行の合理化や冗費節減は一向に進んでいません。役員報酬のカットなど、すべての銀行が始めておかしくない状況だと思いますが、ほとんどやっていません。給与水準も、銀行は公表を渋っていますが、メーカーとは比べ物にならない(高額な水準)でしょう。

 都心の一等地にゆったりとした社員アパートがある、二三区内に広いグラウンドがあるという例も少なくありません。公的資金をアテにする以前に、社有地の効率的な利用を考えるべきです。オイルショックや円高不況を乗り切ってきたメーカーは、そうした努力を重ねてきました。それができない会社は銀行に見放され倒産してきました。ところが銀行は倒産しないことになっていますから、始末に悪いのです。

 ですから、ギリギリの時点での公的資金の投入はやむをえないかもしれませんが、金融機関の血のにじむような経営努力のほうが先。銀行やノンバンクには、自己責任の原則のもと自助努力をいっそう重ねてもらいたいものですね。

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