更新:2006年9月30日
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鳥インフルエンザ

●初出:月刊『潮』2004年4月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

鳥インフルエンザ

Question鳥インフルエンザが流行していますね。
どのような病気なんですか?

Answer人がかかるインフルエンザはインフルエンザ・ウイルスが引き起こす感染症(うつる病気)です。

 ウイルスとは、細胞に寄生し、細胞内でしか増殖できない病原体で、細菌より小さく(数百ナノメートル以下。1ナノメートルは10億分の1メートル)、光学顕微鏡では見えません。なお、インフルエンザを「重いかぜ」と誤解している人がありますが、かぜを引き起こすウイルスはライノウイルスやコロナウイルスですから、かぜとは異なる病気です。

 人のインフルエンザにはA型、B型、C型の三つのタイプがあり、中でもA型はさまざまな亜型(少しずつ異なる型)に分かれ、歴史的にも大流行してきました。鳥インフルエンザは、このA型インフルエンザ・ウイルスが引き起こす鳥の感染症です。ただし、同じA型でも人のものとはタイプがやや違っており、H5N1型、H7N7型などに分類されています。

 鳥インフルエンザの宿主は、もともとはカモなどの水鳥。これがニワトリ、七面鳥、ウズラ、アヒルなどの家禽《かきん》や海鳥にも感染します。鳥インフルエンザのうち、全身症状などとくに重い症状を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼びます。

 鳥がこれに感染すると全身症状を起こして、神経症状(首曲がり、沈鬱《ちんうつ》)、呼吸器症状(せき、「ゼーゼー」いう呼吸音)、消化器症状(下痢、食欲減退)などが現れます。有効な対策がなく、養鶏場などではほぼ100%死滅してしまいますので、感染が確認された場合は、その養鶏場のすべての鳥を処分し消毒します。

 日本では1925年以来、鳥インフルエンザは見られませんでしたが、2003年末に山口県阿東町の養鶏場でH5N1型が発生。2004年2月には大分県九重町の民家で飼われていたチャボへの感染も確認されました。

 世界でも、アメリカ(H5N2型。1983年、2003年)、オランダ(H7N7型。2003年)、ドイツ(同)、韓国(H5N1型。2003年)、香港(H5N1型。1997年、2003年)、ベトナム(H5N1型。2004年)など各地で発生しています。とくに中国や東南アジアなどアジア地域で感染が広がっています。

人にも感染する

Question鳥インフルエンザは、鳥以外の動物や
人にも感染するのですか?

Answer鳥インフルエンザは鳥のほか、ブタ、ウマ、クジラ、オットセイ、アザラシなどにも感染します。

さらに、まれにですが、人にも感染します。

 香港では1997年、18人が鳥インフルエンザに感染し、6人が死亡しました。2003三年には2人が感染し、1人が死亡しました。症状は発熱、咳など人がかかるインフルエンザと同様のものから多臓器不全に至る重症なものまでさまざまで、主な死亡原因は肺炎でした。

 2003年春に鳥インフルエンザが見られたオランダでは、防疫に従事した人など89人が感染し、1人が死亡しました。うち数十人が結膜炎にかかり、十数人がインフルエンザの症状を呈しました。死亡した獣医師の肺からは鳥インフルエンザ・ウイルスH7N7型が見つかっています。また、養鶏業者の家族3人に結膜炎と軽い呼吸器症状が見られ、人から人への感染が疑われた例もあります。いま流行中のベトナムやタイでも2ケタの感染者がおり、死者も出ています。

 ただし、人に感染するといっても、現在までのところでは、ニワトリなどに接触する機会のない普通の人が心配する必要はありません。死者が出た香港では生きたニワトリの小売りが一般的ですが、日本では事情が違います。これまでの感染例を見ると、感染した鳥を飼っていた、さばいていた、防疫業務に携わったなど、病鳥とごく近距離で接触したり、その内臓や排泄物に接触したケースが多いのです。感染した家禽とその糞便(または糞便で汚染された土壌)は、人への感染源になります。

 ですから、養鶏業者、庭でニワトリを飼っている農家などでは、鳥の様子に気を配って異常があればすぐに関係機関に連絡し、自分の健康状態にも注意する必要があります。もちろん防疫や輸送に携わる人は、ゴム手袋、医療用マスク、ガウン、ゴーグル、ブーツなどを着用し、手洗いと消毒を励行するといった基本的な感染予防対策が必要です。しかし、そのような人を除けば、日常生活の中で特別な予防策を講じる必要はありません。

肉や卵は心配ない

Question鶏肉や卵から感染する心配はないのですか?
また、ペットの小鳥にはうつりませんか?

Answerこれまでのところ、鶏肉や鶏卵からの感染の報告は、世界的にもありません。

 日本では高病原性鳥インフルエンザは、家畜伝染病予防法上、家畜伝染病(法定伝染病)として位置づけられており、発生した場合は、鳥の間での拡大を防ぐために発生の届出、隔離、殺処分、焼却又は埋却(土に埋めて処理する)、消毒など、蔓延《まんえん》防止措置が実施されることになっています。ですから、鳥インフルエンザに感染した鳥やその卵が食品として市場に出回ることは、原則としてありません。

 なお、WHO(世界保健機構)によると、ウイルスは適切な加熱により死滅するとされており、一般的な方法として、食品の中心温度を70度に達するよう加熱することを推奨《すいしょう》しています。どうしても心配な人はそのようにしても結構ですが、現時点で、たとえば生卵を食べないほうがよいのではというような心配をする必要はありません。

 鳥インフルエンザはニワトリやアヒルのほか、さまざまなトリにも感染しますから、ペットとして飼っている鳥に感染する恐れは、まったくないわけではありません。しかし、家の中で鳥かごに入れて飼っている場合は、感染源との接触が起こりませんから、心配はないでしょう。

 もっとも鳥や動物は、人に感染するかどうかは別として、人と共通のウイルスも人と異なるウイルスも、保有することが知られています。ですから鳥や動物を飼うときは、触った後の手洗い、糞尿を速やかに処理しつねに清潔にすることなどが大切です。動物の様子がおかしいときは獣医に、飼い主が身体に不調を感じたときは早めに医者にかかってください。

正しい知識を得て、騒がない

Question山口や大分で発生した鳥インフルエンザのその後は、
心配ありませんか?

Answer農林水産省では、家畜防疫の観点から、鳥インフルエンザが発生した農場の飼養鶏全羽の殺処分、消毒、半径30キロ以内の区域の周辺農場における移動の制限(出荷の制限)、疫学調査の実施などを進めています。

 また、厚生労働省では、人への感染の防止や患者の発生に備えて、鳥インフルエンザが発生した農場に対し、出荷された鶏卵の自主回収、関係者の健康状態の確認、感染防御の徹底を指導するほか、患者が発生した場合に備えて、医療機関などへの情報提供の協力要請などをおこなっています。

 農水省による移動の制限は、鶏や鶏糞を埋めて処分するなど防疫作業を完了してから28日以上とされており、2004年1月21日に作業を終えた山口県では2月19日に解除されました。つまり、山口県では感染を封じ込めることができたわけです。大分県ではまだ終わっていませんが、落ち着いて事態の推移を見守ってください。

 感染症については「知識こそ最良のワクチン」という言葉があるそうです。テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどで正しい知識を得て、風評に惑わされず不必要に騒がないことが肝心です。

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