更新:2008年8月16日
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国連ボランティア(UNV)

●初出:月刊『潮』1993年6月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

国連ボランティアとは?

Questionカンボジアで国連ボランティアの日本人が射殺された事件に驚きました。
国連ボランティアについて教えてください。

Answerはい。ボランティアの語源は「私は望む」という意味のラテン語です。それが後に志願者とか義勇兵という言葉になりました。今日、社会福祉事業などで自発的に奉仕する篤志《とくし》活動家をボランティアと呼ぶことはご承知でしょう。

 そこで「国連ボランティア」ですが、これを「国連が募集したボランティア」のことだと思っている方が少なくないようです。それも間違いではありませんが、実はこれは一九七〇年に創設された国連の一機関の名前なのです。国連機関としての国連ボランティアは“United Nations Volunteers”の頭文字をとってUNVと呼ばれています。本部事務局はスイスのジュネーブにあります。

 国連には開発途上国への技術・開発援助をおこなっている国連開発計画(略称UNDP)という機関があります。UNVはその下部機関として、ボランティア活動のプログラムを作り、各国でボランティアを募集採用し、必要な国々に派遣しています。開発に対して実際的な貢献をするほか、国際的なボランティア運動の高揚を図ることも目的のひとつ。また、途上国の開発の即戦力となると同時に、現地での人材育成にも力点を置いています。

世界全域で活躍中

Question国連ボランティアは、どのような国に
派遣されているのですか?

AnswerUNVのメンバーとして世界で活動中のボランティアは、一九九三年二月末の時点で二四九六人。発足以来ののべ人数は一万人以上を数えます。彼らが活動する国(UNVの受け入れ国)は一二〇か国です。内訳は、アフリカ四二か国一〇一五人、アジア三四か国一五八三人、アラブ諸国一四か国一四三人、ヨーロッパ六か国三二人、ラテンアメリカ二四か国一四八人でした。国連ボランティアは一部の先進国を除くほとんどの国に派遣されているわけです。

 UNVがもっとも多く派遣されているのは、カンボジアの六九八人。次いで多いのはアフリカのニジェール共和国で七九人。もちろん一人や二人という国もたくさんあります。カンボジアへの派遣が群を抜いて多いのは、同国では国連の安全保障理事会が設置したUNTAC(カンボジア暫定行政機構)によって、過去に例のない大規模なPKO(平和維持活動)がおこなわれているからです。七〇〇人弱のうち四百数十人が、近くおこなわれる予定の総選挙の監視に携わっています。尊い犠牲となった中田厚仁さんも、その一人でした。

Question国連ボランティアは、どんな
活動をしているのですか?

Answer従事する活動は非常に多岐にわたり、カンボジアの選挙監視はむしろ例外に属します。メンバーは「国連ボランティア専門家」と呼ばれる各分野のスペシャリスト。応募資格も、二十一歳以上(年齢の上限はなし)で、大学卒業後二年以上の勤務経験を持っているか、専門資格取得後五年以上の勤務経験が必要とされ、専門家としての資質が重視されています。専門分野はとくに決まっておらず、エンジニアでも、教師でも、薬剤師でも、栄養士でも、環境問題の専門家でも、受け入れ国の要請と合致すれば何でもいいのです。個人の経験や技能を最大限に活用する専門分野の多様性は、UNVのユニークな特色のひとつです。

Question先進国出身者の参加が
多いのですか?

Answer必ずしもそうではありません。UNVのメンバーの出身国をみると、インド一四三人、ミャンマー一二九人、バングラディシュ一二七人、スリランカ一一七人など、開発途上国のほうが多いのです。先進工業諸国はアメリカ九五人、フランス六〇人、イギリス五八人、日本五七人など。先進国出身者は二四九六人中六六六人で約二七%を占めています。先進国からの参加者が一二〜一三%だった二〜三年前よりは、かなり改善されましたが、この比率は五〇%でもおかしくないと思います。

 もっとも、開発途上国から開発途上国へのボランティアが多いことは、UNVの活動のユニークな点でもあります。先進国が開発途上国にボランティアを派遣するという枠組みでは望めない、途上国間の技術協力や国際交流が可能になりますから。

各国の拠出金で運営

Question国連ボランティアの活動には、
誰が資金を出しているのですか?

AnswerUNVの創設と同時に、UNV特別基金という基金が設けられました。これは、UNVの活動に対する各国政府、非政府組織(NGO)、個人からの寄付を募るもの。UNVはこの基金を財源としていますが、特定の目的を持った事業に対する各国政府の拠出金を受け入れる制度もあります。

 日本は、UNVの上部機関であるUNDPに財政貢献(九一年度□□□□□万米ドル)しているほか、特定プログラムごとに資金を拠出しています。たとえば、アフガニスタン復興に協力する国連ボランティア派遣のため□□□万米ドルという具合。また、UNVの日本における協力機関に海外青年協力隊があり、経験者を国連ボランティアとして送り込んでいますが、その経費は日本政府が負担しています。

 九一年度の各国の拠出金をみると、日本は□□□□□万米ドルで世界第□位でした。国連全体の予算分担率をみると、日本はアメリカの二五%に次いで多い一二・四五%を負担していますが、UNVの財政面でも大きな貢献をしているといえます。

Questionボランティアの派遣先での生活費も、
こうした拠出金から出されるのですか?

Answer現地生活費は、ふつう受け入れ国の政府が現地通貨で支払います。金額は国によって違い、一九八九年一〇月現在で月四四〇〜一二〇〇米ドル相当でした。家族随伴の場合は二〜三割増ですが、それでも数万〜十数万円で、文字通り生活費以上のものではありません。生活費と同様に住居も、受け入れ国が無料で提供することになっています。

 しかし、現地政府が支払うといっても他国からの経済援助を振り向けていることもありますし、拠出金から出るケースもあります。今回のカンボジアの選挙監視ボランティアは、なにしろ正統的な政府をこれからつくろうというPKOの一環ですから、現地生活費はUNVから支給されています。金額は未婚者で月約七三〇ドル(日本円で約八万二〇〇〇円)、扶養家族のいる人で月約九七〇ドル(同一一万円)です。また、契約時に保険に入るので死亡時には一〇万ドルが支給されますが、こうした待遇や条件は、もちろんPKOで現地に行っている自衛隊員とは異なります。海外青年協力隊を通じて応募した経験者と、UNVと直接契約した人でも異なります。中田さんは後者でした。

国連ボランティアは危険か?

Question待遇や条件がいちばん悪いボランティアが、
いちばん危険な所へ行ったことになりませんか?

Answer残念ながら、結果的にはそうなります。しかし、大部分の国連ボランティアは、日常的に身の危険を感じるような場所で活動をしているわけではありません。先ほども触れたように、カンボジアはいまのところ例外的なケースなのです。中田さんの事件からただちに、国連ボランティアを非常に危険な仕事だと考えるのは、誤りだと思います。

 ただし、任地にもよりますが、カンボジアの選挙監視員という仕事がいまや非常に危険なものになったことは確かです。カンボジアは、九一年秋の「パリ合意」によって、事実上UNTACが停戦、各派の武装解除、総選挙の実施を主導するという和平への道を歩み始めました。しかし最近、ポル・ポト派が孤立を深め、不穏な動きを繰り返しています。残虐な恐怖政治をおこなった同派は国民からまったく支持されておらず、総選挙を実施されると自派の存続すら危ういのです。中田さんを射殺したのも、選挙妨害を目論む同派だとみられています。

 国連ボランティアは、自らの意志によって、自らの利益を顧みることなく奉仕に徹するという崇高な仕事です。しかし、この仕事を強制することなど誰にもできません。受け入れ国やUNTACなど関係機関が、派遣されたボランティアの安全を確保するのも当然の責務です。中田さんらが、事件の直前に身の危険を訴える手紙をUNTACに出していたことからも、安全確保に手落ちがなかったのかという疑問は残ります。関係機関の対応を見守りたいと思います。

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