更新:2008年8月6日
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住専処理(住宅専門金融会社の処理)

●初出:月刊『潮』1995年11月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question最近よく「住専」という言葉を耳にします。住専は
不良債権を何兆円もかかえているとか。どういうことですか?

Answerはい。住専は「住宅専門金融会社」の略です。預金などを受け入れないで、与信業務(貸し付け)を営む会社を、銀行に似ているが銀行ではないことから「ノンバンク」といいます。たとえば、リース会社、クレジット(信販)会社、消費者金融(サラ金)などですが、住宅専門金融会社もノンバンクの一員です。

 住専は、もっぱら個人むけ住宅ローンをあつかう会社として、一九七一年ころから銀行や保険会社によって設立されました。もちろんこれは、当時の大蔵省の住宅金融政策に基づいています。協同住宅ローン、住総、住宅ローンサービス、総合住金、第一住宅金融、地銀生保住宅ローン、日本住宅金融、日本ハウジングローンといった会社があります。

 これら住専の経営状態が悪いことは、かなり前から伝えられていました。農協系の協同住宅ローンを除く住専七社は、九三年から再建途上にあります。

 先日、大蔵省が連立与党の金融・証券プロジェクトチームに出した報告によると、住専八社の不良債権の総額は、実に八兆四千億円に上ります。言い換えると、住専が貸し付けているカネのうち、融資先が破綻したもの、利子の支払いが半年以上滞っているもの、利子をまけているものなどが、合わせて八兆四千億円もあるのです。これは、わが国の国家予算の十分の一にあたる額。住専が貸し出している総額十二兆円の七割以上が不良債権という、とんでもないことになっています。そして、このうち六兆三千億円が回収不能と考えられています。

個人むけ住宅ローンから逸脱

Question住専は、どうしてそんな状態に
なってしまったのですか?

Answer家が買えそうもない人は、借家住まいをします。払えそうもないのに住宅ローンを組む人は、そんなにはいません。クレジット地獄から抜け出せずに破産する人は増えましたが、住宅ローンを組むときは家が担保に入るのがふつうです。借り手に万一のことがあってもローンの残り分くらいは保険金が出ます。だから、個人むけ住宅金融は、貸し手にとってそんなにリスクが大きい商売とは思えません。

 実際、住専各社は、設立の母体となった銀行から資金を借り入れ、これを銀行よりやや高い金利で住宅を購入する個人に貸し付けるという商売で、それなりの業績を上げました。

 しかし八〇年代に入ると、住専は、しだいに商売のやり方を変えていきます。バブルの時代には、親である銀行が、子である住専を、企業むけ融資の別動隊として活用するようになったのです。銀行が表立って貸しにくい融資先に、系列の住専から貸し付けるということもさんざん行われました。住専は、本来の業務だった個人むけ住宅ローンから、どんどん逸脱していったのです。

 一方、バブルの時代に、住専の母体銀行は、不動産業融資総量規制といって不動産関連融資の伸びが融資総額の伸びを上回ってはならないという規制がかけられたため、住専は農林中央金庫、県信用農業協同組合連合会といった農林系の金融機関からの借り入れを増やしました。カネ余りで貸出先を探していた農林系金融機関は、住専むけ融資は金融機関むけ融資としてあつかってよいという大蔵省や農林水産省の了解のもとに、住専に資金をどんどん注ぎました。農林系金融機関の貸し付け残高は、五兆数千億円にも達しています。

 そこへ、バブルの崩壊が起こったのです。土地の下落はとどまることを知らず、株価も下がり続けました。バブル企業にとっては、もともと持っていた土地や株が値下がりしたのではなく、借金をして一番高値で買った土地や株が、半分とか三割というところまで値下がりしたのです。住専はそこに貸し出しをしていたので、七割以上が不良債権という結果になってしまったわけです。個人むけ住宅ローンへの住専の融資は、せいぜい総額の二割程度でしょう。

責任は母体行? 貸し手?

Question住専問題はどう
処理されるのでしょう?

Answer住専の回収不能債権は六兆三千億円。これに不動産や有価証券などの資産の損失(目減り分)が一兆四千億円あります。仮に、住専八社すべてを清算すると、損失額は七兆七千億円。これは、先日破綻した兵庫銀行の損失額の十倍という膨大な額です。これだけのカネがどこかへ消し飛んでしまっているわけで、誰かがこのツケを支払わなければなりません。

 そのツケの払い方に、二つの考え方があります。ひとつは「母体行責任」論、もうひとつは「貸し手責任」論です。

 母体行責任とは、住専の設立にあたった銀行が、親として責任を取るべきだという考え方。貸し手責任とは、住専に貸し込んだ農林系金融機関こそ責任を取るべきだという考え方です。農林系金融機関は当然、母体行の責任を口にしています。農林水産省も同じ立場です。一方、都市銀行や地方銀行など民間の金融機関は、貸し手の責任を主張しています。

 いま考えられているのは、両論のいわば妥協案で「修正母体行方式」と呼ばれる方式。母体行が住専に貸し出した分は全額放棄し、貸し手は残りの損を分担してかぶるというものです。

 これでは、体力のある銀行に比べて農林系の貸し手の負担が大きすぎるのではという見方もあり、住専問題の処理方法は依然として不透明です。ただし、このまま問題を先送りにしても事態が改善する見込みがないことだけは、ハッキリしています。

公的資金の導入の前に

Question公的資金の導入は、
住専問題でも検討されるのでしょうか?

Answer日本の金融システムを維持し、あるいはよりよいものにするために、どうしても必要ならば、公的資金の導入も検討されるべきであると思います。しかし、公的資金の導入には、前提条件がいくつか必要です。

 まず、住専が八兆円もの不良債権をかかえるにいたった責任が明らかにされなければなりません。住専の経営責任はもちろん、母体となった金融機関の責任、貸し込んだ農林系を含む金融機関の責任、住専の設立を認めた大蔵省の責任、農林系金融機関の貸し込みを認めた農水省の責任などが、明らかにされるべきでしょう。

 責任を明らかにするといっても、公的資金の導入とは、つまりは国民の税金を使うことですから、「悪かった」ではすみません。責任のある金融機関は、自らの組織をスリム化する、給与水準を下げる、過剰な福利厚生施設を処分するなどして、導入する公的資金を少しでも減らす努力が必要です。事業に失敗した企業や個人は、公的資金などもらえませんから、ふつうはそうするのです。それをせずに公的資金をあてにすることなど、許されません。

 大蔵省も、バブル経済をあおって国民に損害を与えた住宅金融行政を、抜本的に見直す必要があります。大蔵省の役人が、公的資金によって何らかの救済を受ける金融機関に天下るのも自粛すべきでしょう。一方で膨大な額の補助金行政を展開しながら、農林系金融機関がバブル経済に荷担するまで膨脹することを許した農水省も、自らの存在意義を厳しく見つめ直すべきです。

 住専問題の処理には、農協票を基盤にする農林議員、銀行をバックにする議員などが、それぞれの利害を代弁して介入してくるかもしれません。議論がかみ合わず、責任の所在が不透明なままに、公的資金の導入という政治的な判断が下されることもありえます。それでは、結局ツケを支払わされるのは国民ということになってしまいます。住専問題は、そんな曖昧なかたちで処理されてはならないと思います。

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