更新:2008年8月16日
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ブリッジバンク

●初出:月刊『潮』1998年9月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Questionニュースで「ブリッジバンク」という言葉を見聞きします。
これについて教えてください。

Answerブリッジは「橋」でバンクは「銀行」ですから、ブリッジバンクは懸け橋となる銀行、つなぎ銀行の意味になります。

 ブリッジバンクは、アメリカで金融機関の破綻が相次いだとき、その業務を引き継ぎ健全な金融機関に売却するまでの「つなぎの銀行」として役立ちました。有名なのは、一九九一年に破綻したニューイングランド銀行の例でしょう。

 九一年一月、連邦預金保険公社(日本の預金保険機構にあたる)が同銀行の閉鎖を宣言。銀行免許を取り消して、ただちにブリッジバンクに移行させました。経営陣はクビとなりましたが、店舗、従業員、債権などはそのままで、閉鎖の翌日に営業を再開したのです。つまり銀行が、連邦預金保険公社の任命した新しい経営陣のもと、公社の管理下に入った(一時的に国有銀行になった)わけです。そして九一年四月、入札に応じた地元のフリー・ノースター銀行に売却されました。

 このときは不良債権も含めてすべての資産を売却し、後は買収した銀行にまかせる方式(ただし三年間は、不良債権にともなう損失を連邦預金保険公社が負担)でした。場合によっては売却前に連邦預金保険公社が不良債権を買い取るという方式もあります。

 ご承知のように日本では北海道拓殖銀行が破綻し、同じ道をたどるのではとささやかれる銀行が後を絶ちません。最近も、経営悪化が伝えられた日本長期信用銀行を、住友信託銀行が救済合併することが決まりました。戦後最悪不況は続き、金融業界は「ビッグバン」と呼ばれる自由化の目前。銀行の再編は必至で、倒れる銀行がまだまだ出てくるかもしれない状況です。

 とくに心配されるのは、銀行の破綻によってその銀行から融資を受けている会社が倒れてしまう事態。経営状態が悪く魅力のない銀行は、どんどんつぶれて当然です。しかし、何の責任もなく健全な経営を続ける借り手が、あおりを食って倒産することは、避けなければなりません。そこで、破綻した銀行に、融資などの業務を続けさせながら整理することができるブリッジバンク構想が浮上してきたのです。

日本版ブリッジバンクとは?

Questionアメリカと同じことが、
日本でもできるのですか?

Answer七月上旬に自民党がまとめ、関連法案を国会で通して、秋もスタートさせたいとするブリッジバンク構想の骨子は、アメリカと同様のつなぎ銀行によって破綻した金融機関を整理するものです。

 しかし、アメリカとの違いがいくつかあります。アメリカのブリッジバンク制度では、破綻した銀行に乗り込んでくる管財人がただちに経営陣を刷新するなど、非常に強い権限をもっています。株主総会といった手続きをへずに、強制的に資産や負債をブリッジバンクに移すことができるのです。ところが、日本で同じような制度をつくろうとすると、商法、民法、破産法などの包括的な改正が必要。それには時間がかかりすぎると考えられています。

 そこで日本版ブリッジバンクでは、破綻した金融機関を、まず第一段階として「国管理ブリッジバンク」に移行させることに決めました。

 具体的には、金融監督庁の長官が破綻を宣告し「金融管理人」を選任。破綻した金融機関をその会社のまま(法人格は変わりません)「国管理ブリッジバンク」とします。金融管理人は代表権をもつ実質的な経営者です。そのもとで破綻した金融機関は「善意かつ健全な債務者」にこれまでとおり融資をおこない、預金も管理します。不良債権処理も進めます。そして、できるだけすみやかに、その業務を民間金融機関に引き継ぐように務めます。つまり、引き受け手、買い手を探すわけです。

 それでも、引き受ける銀行が見つからなかった場合は、第二段階として「公的ブリッジバンク」に移行します。これは(法人格を変えて)国有銀行になるということです。

 ところで、受け皿が見つからなければ破綻した金融機関の数だけ公的ブリッジバンクができるわけですから、これを統括する機関として、これは預金保険機構のもとに「平成金融再生機構」を設けます。平成金融再生機構は、公的ブリッジバンクの株をもつ親会社(持ち株会社)となるのです。公的ブリッジバンクの設立資金や融資を続ける原資は、三〇兆円の金融システム安定化資金の一部を使います。

原則二年、延長は三年まで

Question公的ブリッジバンクは、
いつまで業務を続けるのですか?

Answerこうしたブリッジバンク制度は、あくまでつなぎです。そこで、金融機関から破綻した時点で引き継いだ資産(債権・債務)を、民間の引き受け金融機関に移す期間は、「原則二年以内、最大で三年間延長」と決めてあります。

 破綻した金融機関が、国の管理するブリッジバンクとして業務を続けながら、買い手や合併相手を探すのと、公的(国有)ブリッジバンクとして探すのが、合わせて二年。それを三年延長できます。それでもダメならば、その銀行は清算されることになります。

Questionアメリカでも
同じですか?

Answerいえ、アメリカでは最初から国有ブリッジバンクに移行し、しかも二年以内で売却すると法律で定めています。アメリカの例をみると、ほとんどの場合数カ月以内に、他の金融機関への売却によって、破綻した銀行の処理を済ませています。五年は長すぎるという意見は、日本でも出ており、今後修正される可能性もあると思います。

債権の仕分けが大問題

Question日本版ブリッジバンクは、破綻した金融機関の処理の、
決定打となるでしょうか?

Answerこれまで銀行が破綻すると、体力のある銀行が吸収合併する、いったん清算したうえで金融機関が出資し合って受け皿銀行をつくり引き継がせる、といった手法がとられてきました。しかし、どの銀行も体力を失ってきており、合併方式や出資方式が難しくなっています。次に倒れたらという危うい状態だったわけです。

 そこに、民間の受け皿金融機関が登場しない場合でも、国が関与して金融システムの安定を図り、借り手の保護や預金者の保護を続けながら破綻処理を目指すブリッジバンクを導入したことは、ある程度金融不安の解消につながるでしょう。しかし、制度の枠組みだけつくってもうまく機能しない心配は残っています。

 最大の問題は、破綻した金融機関の債権の仕分けということです。破綻した金融機関の債権には、回収の見込みのある健全な借り手に対する債権も、回収できそうもない不良債権も、どちらともつかない灰色債権も含まれています。引き受け手の民間金融機関が見つかれば、この債権を仕分けし、不良債権は整理回収銀行に移し、正常債権はそのまま引き継ぎます。

 債権の仕分けとは借り手の仕分けということですから、これがうまくおこなわれないと、健全な借り手なのに融資が打ち切られたり、回収の見込みがないのに新しい金融機関に引き継がれて焦げ付き、損失が膨らんだりということが起こりえます。この仕分けは、公的ブリッジバンクに移行するときも必要になります。

 公的ブリッジバンクには、公的資金、つまり国民の税金を投入しますから、不良債権の仕分けは厳正におこなう必要があります。灰色債権のうち不良なものだけがブリッジバンクに残ると、灰色債権を公的資金で肩代わりしただけという結果にもなりかねないわけです。

 小規模な破綻には使えても大銀行の破綻には使えないのでは、破綻に至らない金融機関の不良債権処理に役立たければ意味がない、といった意見もあります。まだまだ決定打とはいえないようです。

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