更新:2006年9月30日
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議員秘書

●初出:月刊『潮』2002年6月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

公設秘書と私設秘書

Question議員秘書の問題がいろいろ指摘されています。
これについて教えてください。

Answerまず言葉の定義をはっきりさせておきましょう。秘書は、国会議員にも県会議員にもつくわけですが、ここで「議員秘書」といえば、国会議員の秘書だけを指すことにします。

 議員秘書は、いちばん広い意味では「議員の個人スタッフ」というのと同じ。以下に紹介する秘書のほか、ふだん事務所員、事務補助員、運転手、運動員などと呼ばれていても、議員について秘書的な仕事をしている人は、これに含めてよいでしょう。

 議員秘書は大きく「公設秘書」と「私設秘書」の二つに分けることができます。

 公設秘書とは、国の法律に基づいて設置され、国から給与そのほかの手当てを受ける議員秘書のこと。日本では国家公務員として位置づけられています。

 一方、私設秘書とは、議員との私的な契約に基づいておかれる議員秘書のこと。公設秘書(3人います)以外の秘書は全員が私設秘書で、その資格、採用、解職、仕事の内容などは、すべて議員の自由です。

 公設秘書は、さらに「政策担当秘書」「第一秘書」「第二秘書」の三つ(3人)に分けられます。政策担当秘書は、国会法(第一三二条)で「主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書」とされています。第一・第二秘書は「議員の職務の遂行を補佐する」ためにおかれる二人の秘書のことです。

 なお、第一・第二秘書は、法律に書かれた正式な呼び名ではなく、秘書の序列を表すものでもありません。第一・第二とは、それぞれ秘書の給与に関する法律に添付されている別表第一・第二による給与を受けるという意味です。

政策担当秘書は94年に誕生

Question一口に議員秘書といっても、いろいろあるのですね。
公設秘書は、なぜわざわざ三つに分けられているのですか?

Answer日本に法律に基づく議員秘書が登場したのは戦後、憲法が変わり、新しい国会法ができたときのこと。1947年(昭和22年)に制定された国会法は「議員の職務遂行の便に供するため(中略)各議員に一人の事務補助員を付する」と規定しました。これが秘書の始まりです。やがて、これを特別職の国家公務員とすること(1952年)、秘書1名を増員すること(1963年)なども決められました。

 つまり、公設秘書のうち最初におかれたのは現在第一・第二秘書と呼ばれている秘書。その後、仕事量や人件費が増えたことから、国会議員や議員秘書は、国が給与を払う公設秘書の増員をずっと訴えてきました。それが認められ増員された秘書が、第三秘書ではなく政策担当秘書だったのは、次のような理由からです。

 日本は議院内閣制の国で、議会と政府が大きく重なっています(たとえば大臣の過半数は国会議員でなければなりません)。ですから、国会で審議する法律は政府が作って提出したものが多いのです。これは、大統領制の国アメリカとの大きな違い。アメリカでは議会と政府は重なっておらず、むしろ対立しています。法律を作るのは議会で執行するのは政府と、役割がハッキリ分かれているのです。

 すると、法律を作って提案するアメリカの議員は政策を立案する多くの専門スタッフが必要ですが、法律をあまり作らない日本の議員はそれをかかえる必要がありません。その結果、第一・第二秘書は、議員の身の回りの庶務、マスコミ対応、地元の選挙対策、政治資金の手当てなどを担当することが多かったのです。

 ところが、官僚制度がさまざまな問題――たとえば前例踏襲《ぜんれいとうしゅう》主義、法律万能主義、単年度予算主義、省間・局間戦争に見る縦割り行政などによって行き詰まりはじめると、長期的な政策ビジョンを作るのはやはり政治家だ、議員立法を増やさなければという話になります。

 同時に、議員の身の回りの世話をやく秘書ではなく、アメリカ流の政策スタッフとしての秘書が必要だという声も強まります。そこで、1994年から、公設秘書を一人増員し、これを政策担当秘書とすることになったのです。

政策秘書は建前、ホンネは第三秘書?

Questionその政策秘書が、実は名目だけの秘書だっったから大騒ぎになった。
なぜ、そんなことになってしまったのしょう?

Answer政策スタッフとしての秘書を求める声が強まったと説明しましたが、これは建前の意味合いが強かったのです。議員や秘書のホンネは、「人件費が大変。とにかく国が給与を払う三人目の秘書がほしい」ということでした。

 政策担当秘書の制度を導入するとき、新しい秘書は従来の秘書二人より格上にすべきだとか、博士号を持つ専門家ならば認めるなど資格を厳密にすべきだという議論もあったのですが、結局は研修を受ければよいとされ、初当選の時から付き添うベテラン秘書が筆頭秘書という実態は変わりませんでした。

 ところが政策秘書は、高度な専門知識を持ち官僚とも渡り合えるような政策スタッフという建前から、国が支給する給与が第一・第二秘書よりも高いのです。

 すると、若くボランティア精神にあふれたような秘書であれば、政策秘書1人分の給与で3人やそこらを雇えることになります。企業や団体からの献金があまり期待できない政党では、そのような慣行が以前から続けられていたといわれています。

もっと透明な仕組みに改めるべき

Question名目だけの秘書という以外にも、
議員秘書の問題は盛んに報じられますね。

Answer架空秘書の問題とともに、よく指摘されるのは「近親者秘書」の問題です。これは、議員の妻や夫、子ども、兄弟、いとこなどを秘書にすること。私設秘書はともかく、国から給与が出ている公設秘書に身内をあてるのはいかがなものかという議論が絶えません。

 また議員秘書は、1986年のリクルート事件、92年の東京佐川急便事件をはじめ、しばしば繰り返される政治腐敗事件にも盛んに登場します。最近の業際研事件では「元秘書」が公共事業の口利きで贈賄容疑に問われました。加藤紘一氏の秘書が巨額の脱税容疑で逮捕されたことも記憶に新しいところです。

 最大の問題は、いまだにこの国が、日本全体のために何をやったかではなく、地元選挙区にどれほど利益をもたらしたかによって政治家を選ぶ「利益誘導型」または「バラマキ型」政治から、脱却しきれていないことでしょう。

 だから議員の関心は、次の選挙で当選するための地元対策に傾きがちで、秘書も地元サービスに追われます。後援会のイベント(スポーツ大会、旅行、パーティなど)、支持者の子女の就職・進学相談、融資の口利き、各種チケット入手などが、秘書の重要な仕事になります。支持者をつなぎとめるために、パンフレットを作ったり、国政報告を大量に郵送しなければならないなど、カネもかかります。

 その結果、不正な方法でカネを集める秘書が出たり、秘書時代のカネ集めに味を占めてそれを業《ぎょう》とする元秘書が出たりするのです。

 議員の問題ばかりがクローズアップされ、光の当てられることが少ない秘書の問題ですが、各国の例なども参考にしながら、もっと透明でわかりやすい仕組みに変えていく必要がありそうです。

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