更新:2008年6月25日
現代キーワードQ&A事典の表紙へ

グレーゾーン金利

●初出:月刊『潮』2007年1月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

グレーゾーン金利とは?

Questionグレーゾーン金利が廃止されると聞きました。
どういうことですか?

Answerお金を借りるときは、親や友人にちょっと融通《ゆうずう》してもらうような場合を除き、元の金額に一定の割合をかけた利息(利子・金利も同じ意味)を付けて返すのが普通ですね。

 しかし、三〇万円を一〇日間借りたとして、元の金額に加えて利息三万円を返さなければならないとしたら、これはひどい話。そんな金貸しは、額に汗して働かず、お金がない人の弱みにつけこみ暴利をむさぼっているわけで、社会常識からも許されないでしょう。そこで日本では、お金を貸し借りするときの利息の割合を法律で制限しています。

 まず、利息制限法という法律は、第一条で「金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。」「元本が一〇万円未満の場合 年二割」「元本が一〇万円以上一〇〇万円未満の場合 年一割八分」「元本が一〇〇万円以上の場合 年一割五分」と、利息の最高限度額を定めています。融資額によって、年に一五%、一八%、二〇%を超える利息は無効だというのです。

 ただし、第一条二項に「債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。」と書いてあり、借り手が年一五〜二〇%を超える利息を自由意思で払えば有効だとしています。

 そして、利息の割合を制限した法律がもう一つあるのです。「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(出資法)という法律は、第五条二項で「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十九・二パーセント(うるう年の規定は略)を超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と高金利の処罰を定めています。

 融資額にかかわらず、貸付業者は年二九・二%以上の利息を取ることはできません。

 つまり、年に「一五、一八、二〇%」と「二九・二%」の間の利息(たとえば年二五%)を、利息制限法では原則として無効といい、出資法では処罰しないといっているわけです。一方に黒(ダメ)、他方に白(よい)と書いてあるようなものですから、この中間の利息をグレーゾーン金利と呼びます。

なぜ上限が二つなのか?

Question利息制限法と出資法で、
なぜ利息の上限が違うのですか?

Answerどちらも同じ一九五四年にできた法律ですが、
そもそも狙いが大きく異なるからです。

 利息制限法は個人間の貸し借りなど私法上(私的な利益や対等な市民の生活関係にかかわる民法・商法などの分野)で非常識に高い金利を抑えようという法律です。「契約自由の原則」の考え方から、借り手が自由意思で高金利を払う場合に限って例外を認めるわけです。銀行が融資のときに取る利息は、この利息制限法に従っています。

 しかし、利息制限法だけでは高金利を抑制することは難しいので、別に出資法が制定されました。こちらは貸金業者の取り締まりを目的とし、一定の刑罰を定めて暴利を禁止しようという法律です。その利息の上限は、当初は年一〇九・五%でした。

 ところで一九六〇年代半ばから、それまでの「高利貸し」に代わって「サラリーマン金融」(略してサラ金)が登場します。これはサラリーマン・主婦・学生などに、社員証・保険証・免許証・学生証の提示を求めて人物確認し、無担保・無保証で数万〜数十万円を貸し出し、分割で返済させる小口の短期金融です。七〇年代に低成長時代に入ると、所得の伸びが鈍化し、サラ金の返済に行き詰まって金融業者を渡り歩く者が大量発生。取り立てが厳しいこともあって、自殺・蒸発・一家離散といった「サラ金禍」が目立ち始めました。そこで、一九八三年の出資法改正で、利息の上限が四〇・〇〇四%に引き下げられ、同時に貸金業規制法が制定されました。

 現在、この四〇・〇〇四%が、さらに二九・二%まで下げられています。かつてのサラ金は、いま消費者金融と呼ばれますが、その無担保貸付の平均金利は二四%以上。利息制限法の上限より高く出資法の上限より低い、まさに「グレーゾーン金利」が適用されています。

最高裁判決が決定打

Questionなぜグレーゾーン金利を
廃止することになったのですか?

Answer背景に、かつてのサラ金禍を思わせる消費者金融禍があります。全国信用情報センター連合会によれば、今年五月現在、五社以上の消費者金融業者から借金する多重債務者は、無担保融資を受けている約一四〇〇万人のうち約二三〇万人にのぼります。四社以上から借りている人の三割以上が、少なくとも一社の返済を滞らせているのです。自己破産など経済的に破綻する人も少なくなく、年間の自殺者三万人の四分の一は、経済的な生活苦を理由にしているともいわれます。

 一方、消費者金融の経営者は高額納税者の上位にずらりと並び、儲けすぎの気配が濃厚です。不況でもデフレでもCMは一向に減らず、消費者金融はテレビ局に広告値引きを要求しない唯一の業界として知られています。そこに、アイフルなど一部消費者金融の悪質な取り立てが表面化し、業界への風当たりが厳しくなりました。

 直接のきっかけとなったのは、今年一月に最高裁判所が下した判決です。

 実はグレーゾーン金利は、貸金業規制法第四三条の「任意に支払つた場合のみなし弁済」という規定でも認められています。これは、貸金業者が必要な書面を債務者に交付している場合は、利息制限法の上限を超える任意の利息支払いを、有効な利息の債務の弁済とみなすというもの。

 これに対して最高裁判決は、債務者の任意性、つまり借り手が自由意思で利息を払ったということを否定し、みなし弁済の適用には厳格な条件が必要との判断を示しました。わかりやすくいえば、無人機械で簡単に借りることができ簡略化された受領証しか渡されないような貸し付けの利息は、借り手が自由意思で払ったとはいえず無効であり、過払いとして返還を求めることができるという判決です。

 この借り手保護に大きく傾いた裁判所の判断によって、グレーゾーン金利の廃止(利息制限法の上限までの引き下げ)が決定的になりました。

 消費者金融や信販各社は、今後の過払い返還に備えて巨額の引当金を準備しはじめました。消費者金融大手四社は四〜六年分の引当金を一括計上し、その合計は一兆円以上に膨らんでいます。

貸金業者が激減か

Questionグレーゾーン金利の廃止で、
今後は、どうなりますか?

Answer政府は一〇月三一日の閣議で、貸金業者への規制を厳しくする貸金業法案を決定しました。グレーゾーン金利の廃止のほか、年収の三分の一を超える借金を制限する総額規制も導入します。法案は開会中の臨時国会に提出済みで、会期内に成立すれば、二〇〇九年末にも完全施行される予定です。

 山本有二金融担当大臣は、規制の強化で、約一万四〇〇〇社ある貸金業者が二〇〇〇社近くまで減るという見通しを示しました。半世紀以上続いたグレーゾーン金利が一気になくなるわけですから、業界の大規模な再編やリストラが避けられません。

 また、消費者金融の利用者の四割が遊興費を借りているともいわれますが、失業、事故、急病など必要に迫られて借金する人も少なくありません。利息上限が下がれば、貸金業者が借り手を厳しく選別する可能性があります。市町村の小口融資制度などをより利用しやすくすることも必要でしょう。

参考リンク

「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 2007-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.

Valid CSS! Valid XHTML 1.0! Another HTML-lint がんばりましょう! 月刊「潮」 坂本 衛 すべてを疑え!!

現代キーワードQ&A事典の表紙へ
inserted by FC2 system