更新:2006年9月30日
現代キーワードQ&A事典の表紙へ

マンション法改正

●初出:月刊『潮』2003年1月号「市民講座」第202回●執筆:坂本 衛

Questionマンション法が改正されたと聞きました。
これについて教えてください。

Answer「マンション」は英語で大邸宅の意味ですが、日本では集合住宅、それもホールやエレベーター付き、外装はタイル張りなど、アパートより質が高いというイメージのものを呼ぶようになりました。

 日本に初めてマンションという名の集合住宅が登場したのは1960年。高度成長期は主に都心に建てられ、70年代前半に全国的なブームを迎えました。現在では分譲マンションの総戸数は400万以上、住んでいる人は1000万人以上といわれ、都市部では住民の2〜3割がマンション暮らしという自治体も珍しくありません。

 マンション(分譲集合住宅)は、1戸1戸の住宅はそれぞれの入居世帯専用ですが、敷地・玄関ホール・階段・廊下・エレベーターなどはマンションに住む全員の共用です。そのような複雑な法律関係を処理するには、かつての簡単な民法の規定では不十分だったので、1962年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定されました。これを区分所有法、またはマンション法と呼んでいます。

 一言でいえば、これはマンション居住者の権利、義務、管理のルールなどを規定した法律。

 区分所有建物は専有部分と共用部分に分かれ、専有部分は区分所有者の専有、共用部分は区分所有者の共有(持分《もちぶん》は専有部分の床面積割合による)であること、敷地の所有権や借地権は区分所有者の共有でその持分を敷地利用権といい、専有部分・共用部分の共有持分・敷地利用権の三つは原則的に分離処分できないこと、建物や敷地・付属施設の管理を目的とする管理組合は区分所有の成立と同時に法律上当然に成立し、管理組合は集会を開き、規約を定め、管理者をおくことができること、などが書かれています。

老朽化への対策

Questionそのマンション法が、
どうして見直されることになったのですか?

Answer古いマンションはすでに建設から30〜40年以上経過しており、老朽化が深刻な問題となりつつあります。築30年以上のマンションは2000年に12万戸でしたが、2010年には93万戸に増える見込みです。

 多くのマンションでは管理組合を作り、修繕費を積み立てて改修を重ねていますが、今後、大規模な修繕や、場合によって建て替えが必要となるマンションは、どんどん増えてきます。老朽マンションを放置すれば、防災面が心配ですし、スラム化して都市環境の悪化を招く恐れも生じます。

 けれども、これまでのマンション法は、建て替え要件の規定があいまいなため、ほとんど建て替えが進みませんでした。一方、小泉政権は規制緩和を推進しており、長引く不況でマンションの建て替え需要も期待されます。

 そこで、法務省を中心にマンション法の見直しが浮上。法務大臣の諮問機関である同省の法制審議会が検討を重ね、2002年秋の国会に改正案が提出され、12月4日に参議院で改正案が可決・成立したのです。なお、マンション法の改正と同時にマンション建て替え円滑化法も改正されました。

5分の4以上の賛成でOK

Question改正のポイントを
教えてください。

Answerまず、これまでのマンション法では、建て替えの要件を、「老朽、損傷、一部の減失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物が効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」と定めていました。この「過分の費用」という言葉があいまいで、住民間のトラブルのタネとなっていたのです。

 老朽化の度合いや修復費用の見積もりなどは、居住者や業者の考え方によって異なってきます。集会で建て替えが決まっても、反対する住民が提訴し、建て替え決議が無効と判断されるケースもあります。そのため、マンション法による建て替え事例は皆無といってよいほど。

 これまでの建て替えは、もっぱらマンション業者主導によるもので、入居者が土地や建物を業者に売り渡し、再建されたマンションを等価交換方式で手に入れるやり方でした。使っていない容積率を活用して高層化し、新規販売戸数を確保すれば業者にもうまみがあります。ただし、これもバブル経済崩壊後は積極的にかかわろうとする事業者が少ないようです。

 そこで、この建て替え要件ははずされ、住民の5分の4以上の多数決で建て替え決議ができることになりました(5分の4以上の規定そのものは従来通り)。なお、法案の検討段階では建て替え要件として「築30年以上」または「築40年以上」という文言《もんごん》を盛り込むことも議論されましたが、築年数の規定は結局はずされました。建物の耐用年数は一概には決められず築20年でも建て替えが必要な場合がある、中古マンションの購入者にとっては築年数は意味がない、などの理由からです。

 また、外壁の補修などの大規模修繕については、これまで4分の3以上の賛成が必要だった規定を改め、2分の1以上の賛成があれば決議できることになりました。

 さらに、団地型マンションの一括建替えでは全体の「5分の4」以上の賛成があれば、各棟ごとの賛成要件は「3分の2」以上まで緩和されることになりました。老朽化が進む都市部の団地では、いくつかある棟数を減らし、その分高層化を図るといった建て替え計画が立てられることがあります。しかし、一棟でも5分の4に達しない場合、全体の計画が進まなくなってしまいます。そこで今回、一括建て替えを促進する規定を新設したわけです。

 このほか、管理組法人化の戸数要件撤廃(これまでは30戸以上だったのを廃止)、合管理組合理事長の権限拡充(共用部分の維持管理をめぐる訴訟は、区分所有者全員が当事者とならなくても、管理組合の理事長らが提訴できるようにする)、管理組合の集会などのIT化(電子メールによる議決、管理規約や総会議事録の電子データによる作成・保存などを認める)といった点も改正されています。

建て替えリスクの徹底を

Question5分の4の多数決があれば建て替えできるという規定は、
少数の住民の切り捨てにはなりませんか?

Answer少数の住民の「切り捨て」「追い出し」につながるのではないかという懸念《けねん》はあり、実際にその理由から改正案に反対した党派もありました。しかし、そもそも5分の4以上の賛成が必要という規定自体が少数の住民の意向を重く認めているのであり、8割以上の人が賛成してもその意志が通らないことは、逆に少数者によて多数の財産権が侵害されてしまうという考え方も根強くあります。

 今回のマンション法改正で、マンション住民の区分所有権が以前よりも弱くなることは間違いなく、世界水準から見ても弱くなります。

 けれども、マンションの老朽化問題が否応《いやおう》なく襲ってくることも間違いありません。それに対する何らかの手立てを講じなければならないことも確かで、住民の発議による建て替えがほとんど皆無という状態の解消は、やはり必要でしょう。

 今回の改正でマンションの建て替えは明らかにやりやすくなります。マンション購入は何十年後かに建て替えのリスクも負うのだという考え方の徹底が必要です。

「現代キーワードQ&A事典」サイト内の文章に関するすべての権利は、執筆者・坂本 衛が有しています。
引用するときは、初出の誌名・年月号およびサイト名を必ず明記してください。
Copyright © 2003-2015 Mamoru SAKAMOTO All rights reserved.

Valid CSS! Valid XHTML 1.0! Another HTML-lint がんばりましょう! 月刊「潮」 坂本 衛 すべてを疑え!!

現代キーワードQ&A事典の表紙へ
inserted by FC2 system