更新:2008年8月6日
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PHS(簡易型携帯電話)

●初出:月刊『潮』1995年8月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question一九九五年七月一日から、PHSという新しい電話が
スタートしたそうですね。どういうものか教えてください。

Answerはい。PHSは、パーソナル・ハンディホン・システムの略で、簡易型携帯電話とも呼ばれます。まず、その仕組みを説明しましょう。

 PHSの電話機一台一台は、最近家庭でも普及してきたコードレス電話(無線の親子電話)の子機とだいたい同じものです。コードレス電話は、家の中や庭先では使えますが、外出先では使えませんね。ところが、PHSは携帯電話のように持って出かけ、外で使うことができます。

 そのためには、コードレス電話(親機と子機でワンセットになっています)の親機にあたる電話が、町中いたるところに必要です。この親電話を基地局と呼び、PHS会社がビルの屋上や公衆電話ボックスの上にアンテナを立てて設置します。基地局はNTTの公衆回線とつながっていますから、その近く、たとえばアンテナから半径二〇〇メートルのゾーン内では、PHSを普通の電話として使えるわけです。

 このときの電話番号は、PHS会社と契約してつけてもらう番号(050−×××−××××)です。加入手続きは、PHS会社のサービス窓口か代理店(家電量販店、デパート、コンビニなど)で電話機購入と一緒にします。

 また、専用の親機を家庭や会社に引いてある電話とつなげば、これまでのコードレス電話と同じように使えます。こちらの電話番号は、家庭や会社の電話番号です。もうひとつ、PHSにはトランシーバー機能がついており、電話機同士で無線通話ができます。これは電話回線を使わないのでタダです。

携帯電話との違いは?

Questionこれまでの携帯電話や自動車電話と、
どこが、どうちがうのですか?

Answerいちばん大きな違いは、料金が安いことです。携帯電話や自動車電話は、ひとつの基地局が広い範囲をカバーしているうえに、ある基地局ゾーンから隣の基地局ゾーンに車や電車で移動しても通話が途切れないように、複雑なシステムを使っています。

 対してPHSは、ひとつの基地局がカバーする範囲は狭いのですが、設置するコストが数十万円というように安く上がります。また、基地局のゾーンから出ると電話が切れてしまう単純なシステムなので、その分コストが安くなります。その代わり、車や電車などに乗って高速で移動しているときは、利用できません。もっとも、車の渋滞中や信号停止、電車が駅で停車中という場合は、近くに基地局がありさえすれば利用できます。

 実際の価格を見てみましょう。携帯電話は最近ずいぶん安くなっており、加入料(二万円強)込みで電話機が三〜四万円のものもあります。しかし、今後値下げが実施されても、加入料一万円前後、基本料金が月数千円、平日昼の通話料が三分間二〇〇円前後というところ。

 一方PHSは、電話機が四〜五万円、加入料七二〇〇円、基本料金二七〇〇円、通話料三分間四〇円(市内の場合)から。つまり電話機代以外は、かなり安くなっています。これは、実用化実験で利用者(モニター)が答えたPHSを使いたいと思う料金「基本料金月三〇〇〇円、市内通話料三分二〇〜五〇円」とほぼ同じ水準。電話機の価格も、普及の程度によっては、さらに下がる可能性があります。ただし、遠距離通話では、携帯電話よりPHSのほうが通話料が高くなる場合があります。

初めは大都市から

QuestionPHSは、日本全国どこでも
利用できるのですか?

Answerいいえ。携帯電話が日本全国どこでも利用できるわけではないように、PHSも利用できる地域が限られています。PHS会社が基地局を新設することによって、通話が可能な地域は次第に拡大していくことになります。

 PHSサービスを始める会社は、NTT系の「NTTパーソナル」、第二電電系の「DDIポケット」、商社・流通・JR・電力・その他新電電などが結集した「アステル」の三社。このうち、NTTパーソナルとDDIポケットの二社が、七月から関東と北海道都市部でサービス開始。アステルは十月から関東や関西でサービスを開始します。先行二社は、十月には全国各地の主要都市の中心部でもスタートします。

 各社が来年三月末までに通話が可能になると発表した首都圏エリアを見ると、東京は高尾以東のほぼ全域、神奈川はおおむね厚木以東の地域、千葉は東京湾沿いに千葉市の先まで、埼玉は東京から大宮・浦和・春日部などへ放射状に伸びる地域などが含まれています。

 得意分野や経営戦略の違いによって、たとえばDDIポケットは神奈川県の横浜や湘南でカバー率が高い、アステルはJR沿線のカバー率が高いといった特徴があります。自分の住んでいる場所で使えるかどうか、使えない地域でいつごろ使えるようになるかは、各社に問い合わせてください。どの会社にするかは、慎重に検討したほうがよいと思います。

 なお、各社とも全国を一〇ブロックほどに分けて、それぞれ地域会社を設けます。郵政省の方針で「PHS各社は、事業開始後五年以内に、地域ブロック内の人口の五〇%以上が居住する区域でサービス提供を行うよう努める」とされています。

PHSの可能性

QuestionPHSには、どのような使い方が
考えられるでしょう?

Answerそうですね。携帯電話は、もっぱら仕事専用のイメージが強く、加入しているのは会社という場合も多いのですが、PHSは、もっとプライベートに、手軽な携帯電話として使われるだろうと思います。電話機さえ思いきって買えば、あとは安いので、携帯電話に手が出なかった層──多くのサラリーマン、主婦、学生、高齢者などが購入するでしょう。

 毎日のように待ち合わせする恋人同士が一台ずつ買うかもしれません。スキーに行けばトランシバーになり、トランシーバーは一台二〜三万円すると考えれば、安い買い物かもしれません。トランシーバー機能は、家族づれでデパートに買い物に行くときなども大変便利です。

 PHSと「ポケベル+電話」では、毎月かかる金額がそれほど違わないので、便利なPHSのほうを選ぶという人も出てくるかもしれません。すると、いまポケベルは女子高生の必須アイテムですが、女子高生が赤やピンクや黄色のPHSを持ち歩くのが当たり前という世の中になるかもしれません。

 東京に出てきてアパート住まいを始める大学生が、加入料だけで七万円以上かかる電話を引かず、PHSだけに加入することも考えられます。実家のある地方都市にPHSが普及していなくても、アパートや大学やよく出かける盛り場などで使えれば、問題ないわけです。

 変わった機能としては、PHSは待機中も電波を出しているので、電話を持っている人がどの基地局のエリア内ににいるかがわかります。そこで、徘徊《はいかい》老人などにPHSを常に携帯させたらどうかというアイデアもあります。

Questionどのくらい普及
するでしょうか?

Answerまだ、何ともいえませんが、役所の予測では、二〇一〇年にPHS加入が三七九〇万件という数値があります。これは、携帯・自動車電話やポケベルを追い抜くという見方です。そうなれば、PHSは「パーソナル電話の決定版」となり、場合によっては「第二の(NTT以外の)市内電話網」の主役となるかもしれません。いずれにせよ、それは私たち消費者が決めることです。

 ひとつ気がかりなのは、将来、PHS三社に体力的な差が生じ、選んだ会社によって価格やサービス面に大きな違いが出てくる恐れがあること。どのPHSを選ぶかは、じっくり考えたいところです。

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