更新:2008年8月6日
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再資源化率

●初出:月刊『潮』1995年9月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question最近ニュースなどで「再資源化率」という言葉をよく耳にします。
どういうことですか?

Answerはい。再資源化率は、リサイクル率や回収再生利用率などともいわれます。

 もともと資源が少なく、原料や燃料の多くを輸入に頼っている日本では、一部の製品で廃物を回収し、資源として再利用することが行われていました。ちり紙交換による新聞・雑誌の回収がそうですし、一升びんやビールびんなども回収して何度も使われています。

 最近では、地球環境保護やゴミ問題への関心の高まりによって、同じことがさまざまな製品に広がり、以前はゴミとして使い捨てられていた製品まで、再資源化が試みられるようになってきました。再資源化率は、そうした動きがどれくらい進んでいるかを示す物差しとなる数字で、製品ごとのリサイクル協会や業界団体などが毎年発表しています。

 再資源化率は、原料別にわけた製品ごとに毎年割り出されます。たとえば、スチール缶(飲料缶や缶詰などのうち鉄製のもの)は、九四年に国内で一四七万五〇〇〇トン(A)が生産されました。一方、九四年に高炉・電炉メーカーなどで資源として再利用されたスチール缶のスクラップは一〇三万トン(B)でした。そこで「B÷A×一〇〇」を計算すれば、九四年のスチール缶の再資源化率六九・八%が出てくるわけです。

おもな製品の再資源化率

Questionスチール缶の話が出ましたが、
ほかの製品の再資源化率も教えてください。

Answerスチール缶の再資源化率は、九三年の六一・〇%から九四年の六九・八%と順調に上昇しています。ビールや炭酸飲料などに使われるアルミ缶は、九二年の五三・八%から九三年の五七・八%と、スチール缶の後を追っています。この二つの業界は、おたがい相手をかなり意識して再資源化率アップを競っています。

 紙は、九二年の再資源化率が五二・六%でした。新聞紙に限るとこの数字はぐんと上がりますが、市況の低迷で全体としては伸び悩んでいます。現在では五五%前後と思われます。

 自動車タイヤは、九二年に九二%と再資源化率が高い製品のひとつ。再生ゴム、セメント工場での燃料など、ほとんど無駄なく再利用できます。

 自動車やコンピュータ、冷蔵庫といった製品でも、再資源化が進んでいます。自動車の再資源化率は、一台あたり重量にして七五%程度といわれています。中古として再生できる部品、鉄くず、アルミや銅などの非鉄金属くずなどが再利用され、残り二五%のガラス、プラスチック、ポリウレタン、ゴム、土砂などはゴミになります。新車の再資源化率はさらに高まっています。欧米のコンピュータには、プラスチックや電子部品のほとんどを再利用に回せる製品もあります。

 再資源化率は、消費者の手に渡らないような資源についても割り出され、引き上げが図られています。たとえば、半導体メーカーが工場で使う工業用水。ICの洗浄に使われる水で、ろ過や殺菌処理を施すことによって、リサイクル率を六〇%から九〇%に上げるという具合。これは渇水対策にもなります。

 再資源化率が減ってきた製品もあります。リサイクルの優等生だった清酒の一升びんは、紙パックや七二〇ミリリットルびんに押されて、流通量が減っています。酒屋のコンビニ化もあって、かつて九〇%といわれた再資源化率は、推定で七〇%程度まで落ちているようです。

 今後、再資源化率アップが期待されるのは、発泡スチロールとペットボトル。どちらも、たいへんかさばり埋め立てに不向きなので、ゴミの中でも厄介者扱いされていました。しかし、近く成立が見込まれる「容器包装廃棄物リサイクル促進法」では、メーカーに対し五年後から再利用を義務づけることになりそうです。

 発泡スチロールは、細かく砕いてセメントに混ぜ軽量建材をつくる、溶かしてビデオケースに成型する、固形燃料化するなどの利用法があります。再資源化率は九一年の一二%が九四年は二四%と上がっています。ペットボトルは、細かく砕いた後に高温高圧で溶かし、ポリエステル繊維として再生できます。ただし、現在の再資源化率は一〜二%にとどまっています。

再資源化のメリット

Question再資源化のメリットには、
どのようなことがあげられますか?

Answer第一に、資源の節約になります。地球上のすべての原材料は基本的に有限ですから、使い捨てていれば、どんどん減っていきます。プラスチックの原料となる石油や石炭など化石燃料は燃やすと再生できませんし、熱帯雨林の木材も一度切ってしまうと再生はとても困難です。しかし、再資源化を進めれば、人間が新規に手をつけて消費する資源は少なくてすみます。

 第二に、ゴミの減量になります。東京のような大都市ではゴミ問題が深刻で、埋め立て処分場がすぐに満杯になってしまい、新しい処分場を求めるのに四苦八苦しています。結局、埋め立て地を沖に延ばすことになりますが、海に面していない地域だってあるわけです。再資源化によって、埋め立てに回していたゴミのかなりの部分を減らすことができます。

 第三に、省エネルギー効果によって、製品コストを下げる可能性があります。たとえばアルミ缶は、新しくつくると大変な電気食いで「電気の缶詰」といわれるほどです。原料のボーキサイトからアルミニウム新地金《じがね》一トンをつくるのに必要なエネルギーは、電力にして約二万一一〇〇kwh。これは普通の家庭の七年間の電力使用量に当たります。ところが、回収したアルミ缶からアルミニウム再生地金一トンをつくれば、エネルギーは電力にして五九〇kwhですみます。これは普通の家庭の二か月半の使用量で、新地金の場合の三%にすぎません。

 もちろん、回収コストを計算しなければならず、単純に再資源化のほうが安いとはいえませんが、回収が大規模に、効率的に行われれば、省エネやコスト削減につながります。

 さらに、ものを燃やさないのでCO2や有害物質の排出を抑制する、ものを大切にする心を育む、手軽に取り組めるボランティア活動になるといったメリットもあります。

再資源化率アップにむけて

Question再資源化率をもっと高めるためには、
どんなことが必要でしょう?

Answerそうですね。まず必要なことは、社会をつくる一人ひとりが、再資源化やリサイクルの考え方を本当に自分のものにして、日々実践することでしょう。自治体や事業所がいくらゴミの分別回収を呼びかけても、個人の意識が変わらなければ効果は望めませんから。

 そのためには、コスト意識を徹底させることが重要だと思います。というのは、現在、各家庭はゴミの処理代を税金として年間一万数千円というように負担しているのです。これは、ほとんどゴミを出さない家庭も、燃えるゴミと燃えないゴミをいい加減に出す家庭も区別なく、所得に応じて払います。しかし、再資源化に努めてゴミを減らした家庭は、それだけゴミの処理代が安くなるというシステムになれば、再資源化はさらに進み、ゴミは減るでしょう。

 再資源化を進めるために、自治体があき缶一個あたり一円の補助金をつけるとか、回収車を出すという際にも、消費者はコストを負担しています。それでも、再資源化が進めば省エネ・省資源になり、結果的に社会全体にメリットがあるのだということが、きちんと説明されなければ困ります。

 ですから、再資源化率の数字だけが一人歩きすることは、どうかと思います。税金や商品価格に上乗せされている分も含めて、その製品の再資源化コストと一緒に議論されるべきです。そうしなければ、本当の意味での再資源化にはつながらないのではないかと思われます。

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